5.フロネア伯爵領 3
「ここはマリアージュ・フロネアも来た事があるところだよ」
ソル君が案内してくれた食事処は、マリアージュ様も来た事がある場所のようだ。相変わらずソル君の事はここの人も知っているみたいで、少し話していた。周りから視線を向けられているけれど、その視線は決して悪いものではない。本当にソル君って、どういう立場なのだろうか。
まぁ、それは後でわかる事だから今は頭から排除しておこう。とりあえずマリアージュ様も来た事がある場所というだけで私は益々興奮を感じてならなかった。
このお店は、肉料理がメインのお店で、それなりに値段が張る場所だった。でもマリアージュ様がここで食事をしていたんだと思うと、少し値段が張ろうとも私は喜んでお金を払いたいと思った。憧れのマリアージュ様関連の事にはお金を使うのは、躊躇わない。
私が注文したのは、ステーキだ。お肉は牛型の魔物のもの。肉汁があふれていて、見ているだけで涎が出そうなぐらいだった。お米が欲しくなるけれど、パンが主食なのでパンを食べる。
ミレーナとアレーナはハンバーガーのようなものを食していた。美味しいと口にしながらにこにこと笑っている。ソル君もカツサンドを食べていて、この中で一番私ががっつりしたものを食べている。ソル君に引かれたりしないだろうかと思いながらちらりとソル君を見る。ソル君はにこにこと笑っていた。
何だかこう、すべてを受け入れてくれるようなソル君の優しい笑みが私は好きだ。ほほえましい目で見られるのは年上としてどうかと思うけれど、ソル君って本当、十三歳なのに同年代か、年上のような余裕さを持っている時がある。……いつか、もっとソル君を動揺させてみたいななんて思ったりもする。誘惑してみたら流石にソル君も動揺してくれるだろうか、なんて考えて慌てて首を横に振った。こんな事を考えてしまうなんてはしたないと思われてしまうかもしれない……。
いえ、でも恋人なんだから、そのうち、その……キス以上の事もしたりするのよね。きっと。……そう考えただけで顔が赤くなりそうで、ごまかすように私は口を開く。
「ご飯食べたらどうしましょうか」
私の言葉にミレーナとアレーナがそれぞれ答える。
「もっとマリアージュ様についての関連の場所回ったら?」
「ソル君の実家ってすぐにつく?」
それに対して、ソル君が言う。
「俺の実家はそんなにかからないよ。もう少し色々見て回ってもまだ時間に余裕はあるから。マリアージュ・フロネアの関連施設とか、沢山あるから色々見て回ろうか」
ソル君はにこにこしながらそう言ってくれた。ソル君も祖国に帰るの久しぶりだろうに、私がマリアージュ様に憧れている事を知っているから私の我儘に付き合ってくれている。それが少し申し訳ない気持ちになって、ソル君に行きたい場所はないか聞いた。
でもソル君は「大丈夫、今の所ないから。それにケーシィが楽しそうで、俺も楽しいから」と笑みを溢していて、益々惚れてしまった。ソル君、かっこいい。
こんなに優しくてかっこいいソル君が私の恋人でいいんだろうかとか、そういう気持ちにさえなってしまう。
昼食をとった後は、マリアージュ様が魔物退治をした場所とかを見てまわった。どんなに強大な力を持っている魔物だろうと、マリアージュ様はさらっと倒しちゃうんですって。なんてかっこいいんだろうか。フロネア伯爵領の領民たちは―――いえ、ジェネット王国の国民たちは、マリアージュ・フロネアという英雄がいるからこそ、どれだけ強い魔物が現れようとも悲観はしないのだという。彼女という存在がいれば、何人も恐れるに足らない。——それだけの力を《炎剣帝》マリアージュ・フロネア様は持っている。
存在しているだけで味方を鼓舞する事が出来、敵対勢力への抑止力になる。
たった一人の存在がそれだけの影響力を持っているなんて、どれだけ凄い事だろうか。その影響力は王族以上だともいう。それだけ彼女は特別で、英雄としてこの国に存在しているのだ。
マリアージュ様の生きた軌跡をフロネア領では沢山見る事が出来て、それだけでもジェネット王国にやってきた甲斐があったって思えた。
婚約破棄や国外追放されたからこそ、私はこうしてジェネット王国に足を踏み入れる事が出来た。もしそれがなければ、私はスペル王国から出てジェネット王国までくる事はまずなかっただろう。そう感じると、婚約破棄や国外追放してもらった事に感謝さえしてしまう。
「ケーシィは本当に楽しそうだね」
「ええ、楽しいわ。本当にマリアージュ様は凄いわ。想像以上にかっこよくて、特別で――なんて、わくわくするんだろうって、なんて素晴らしいんだろうってそんな思いでいっぱいなの」
なんてかっこいいんだろう、なんて素晴らしいんだろう。そんな思いしかわいてこない。
マリアージュ様の関連する場所を見て回る中で、ソル君もミレーナもアレーナも私の事をほほえましそうに見ていた。……私の方が年上なんだけど、はしゃいでしまった。




