5.依頼を受ける。
「えーっと、これかしら?」
私は今、街の外にいる。とはいっても魔物が徘徊するような遠方ではなく、街の近くの薬草の生えているエリアにである。
私が今何をしているかというと、薬草の採取だ。今回は、ポーションの材料になる薬草を採取する依頼を受けたのだ。メニク草と呼ばれるその薬草なのだけど、似た薬草もあって薬草採取の初心者である私は悩んでしまう。
ギルドで特徴を聞いて、見分け方もきいたのだけど少し悩んでしまう。どちらか分からなくて怪しいものも一応採取する。
薬草の採取は今までしたことがなかったから、何だかやっていて楽しくなってくる。薬草の採取にもコツがあって、失敗も多いけれどこうしてやったことがない事をやっていくのって楽しい。
ミレーナとアレーナも私同様、個別に依頼を受けている。確かミレーナは孤児院で子供たちの相手をする依頼で、アレーナは教会のお手伝いや掃除の依頼を受けている。
私も今度そういう仕事も受けようと考えている。勘当される前から孤児院を訪れたりはしていたけれど、王太子の婚約者という立場だったのと、素を出すと眉を顰められるから女の子たちの刺繍を見たりとかしていただけなのよね。
孤児院でも女の子は、外で遊ぶべきではないって教えだったというのもあるのだけど。
それなりに経験を積んだら魔法を使う依頼をこなしていきたいと考えているの。そもそも冒険者の高ランクの依頼だと護衛や討伐が多いのだから必然的にそういう依頼ばかりになるのだけど。
メニク草を三十採取の依頼を私は今受けているのだけど、間違った場合も考えて多目に採取をする。慣れていないのもあってそれなりに時間がかかってしまった。昼過ぎに街を出て、もう二時間は経過している。
街に戻ってメニク草を提出しよう。それから、買い物をしようかな。
魔法具のお店も見つけたから見てみたいの。魔法具は高いから、今は手持ちが少なくて買えないけれど今後必要そうなものがあったらお金をためて買いたいわ。自分で作るものの参考にもなるから、見て回りたい。国に居た頃に自分で作った魔法具は、実家にしまっておいたものが多いから正直持ってこれなかった。それだけは少し今考えると失敗したなと思う。
冒険者として活動する中で、お金と材料が手に入ったら魔法具を作ろう。旅をするのに必要なものは考えるだけでも沢山ある。
そんなことを考えながら、街へと向かう。
街へと向かう最中に、何人かの人とすれ違う。恰好からして恐らく冒険者。これから依頼に向かおうとしているのだろう。五人組の冒険者は、私みたいな低ランクの依頼ではなく、討伐系の依頼を受けているのではないかと推測する。大体冒険者はパーティーを組んでいて、ソロはあまりいない。ソロだとランクが上がれば上がるほど活動しにくくなると、そんなことを本で読んだ事がある。討伐系の依頼だと一人でこなすのは難しいから、それを考えるとミレーナとアレーナが一緒に来てくれてよかったと思う。
ギルドカードを見せて街の中へと入る。
「ケーシィちゃん、依頼終わったの?」
「ええ」
冒険者ギルドに向かう途中に声をかけてきたのは、私たちが泊まっている宿の娘さんであるユイレンちゃんである。年は私と同じ年の、栗色の髪の女の子だ。
「お疲れ様!」
「ユイレンちゃんは、買いだし?」
「うん! 今から八百屋に行くの。じゃあね、宿で夕飯用意しておくからね」
「ええ」
そんな会話をして別れる。
それから冒険者ギルドに向かった。冒険者ギルドの中へと入り、受付へ向かう。
「依頼完了報告をしたいのですが」
「ケーシィさん、お疲れ様です。メニク草の採取の依頼ですね。では出してもらえますか?」
「はい。少し不安だったので多目に採取してきたのですが、確認お願いします」
私の対応をしてくれているのは、私たち三人が冒険者ギルドに登録する際に説明をしてくれた受付嬢で、ラカさんという。
ラカさんは、確認をすると、「三つほど別の物が混ざっておりましたが、後は大丈夫です。余剰分はお返ししますね」そういってまず、別の草と、余剰分のメニク草を返してくれる。その後、報酬を受け取った。
そして買い物に出かけようとドアの方へと向かう際に、一人の少年とすれ違った。背は私よりも小さい。恐らく年下だろう。茶色の髪と水色の瞳を持つ、綺麗な少年。整った顔をしているから、思わず二度見してしまった。
冒険者ギルドの扉に手をかけた時、その少年が討伐依頼完了の報告をしているのを聞いて少し驚いた。それも聞こえてきた魔物からすると、少年のランクはCかDはあるだろう。ラカさんが「おひとりで相変わらずですね」と言っていたのが、冒険者ギルドから出る際に聞こえた。
ソロで、自分より年下の子が、冒険者として生きているんだとそんな感想を持った。ギルドの受付のラカさんが一人で行動する事を当然のように言っていたという事は、一人で依頼を受けているんだと……、冒険者ギルドって色々な人がいるのだとそれを改めて感じた。
それから私は魔法具のお店を見に行った。