4.フロネア伯爵領 2
「マリアージュ様は十二歳の時に王女様と出会ったのね」
資料館の中では、マリアージュ様とこの国の王女であったサーラ・ジェネット様との出会いについても書かれていた。今は降嫁して公爵夫人になっている元王女様との出会いはマリアージュ様の人生に多大な影響を及ぼしたらしい。
子爵令嬢という立場でありながら、マリアージュ様は自由気ままに散歩と称して色々な場所を巡っていたようだ。貴族令嬢でありながらそれだけ自由に生きていて、その結果、サーラ様と出会う事になったのだという。
それにしても幼いながらに旅をしているってソル君と共通している点があるわね。
「十三歳の頃からずっとずっと戦場で過ごしていたなんて私には想像さえも出来ないわ」
じっと、マリアージュ様の軌跡をたどりながら思わずつぶやく、
《炎剣帝》マリアージュ・フロネア様は、十三歳の頃にはもう戦場に身を投じていたようだ。敵国であった将軍と一騎打ちをして勝利したり、炎の魔法で戦場を焼き払い地獄絵図を作ったり、敵国の要塞に侵入し交渉をしたり――そんな信じられない記録が私の目の前にはある。
十三歳というソル君と同じ年で、それだけの事をやっていたのだ。その事実に驚愕すると同時に、胸が高鳴る。やっぱり、私のあこがれのマリアージュ様はこんなにも凄いのだと、それを知れただけでも興奮がやまない。
私は戦場に立った事がない。戦争というものを経験した事がない。こうして文献で見ても、実際に戦場に立った時の感覚は分からないだろう。
信じられないような奇跡を起こし続けた英雄。
「ケーシィ、目が輝いてるね」
「ええ……。マリアージュ様がとても凄いのだもの」
ソル君の言葉に頷きながら、マリアージュ様の軌跡の続きを見る。
マリアージュ様が十五歳になった時に戦争が終結した。その時にはもうすでにマリアージュ様は《炎剣帝》として名が知られていた。そしてそれだけの結果を残してきたからこそマリアージュ様は子爵令嬢の身でしかなかったのに、伯爵という位を授かった。王にも認められたのだ。
なんて凄いんだろう。なんてかっこいいんだろうか。
そしてその頃にマリアージュ様は、のちに夫となるグラン様を養子としている。奴隷の身であったハーフエルフのグラン様を、その身を引き取ったのだ。
養子として引き取られたグラン様はマリアージュ様に劣らない才能を持ち合わせており、その才能をマリアージュ様の元で開花させていくことになる。
「マリアージュ様はきっとグラン様の才能を一目で見て分かったのね。その才能を見破っていたからこそ、奴隷であったグラン様をきっと引き取ったのだわ……」
感動して目をキラキラさせている私を、ソル君が何とも言えない表情で見ていた事に私は気づいていなかった。
「グラン・フロネア様も凄いよね」
「あの《炎剣帝》の養子になって、認められていくってすごい男の人だね!」
ミレーナとアレーナもグラン様の事を褒めていた。それにしても養子としていた少年と後々結婚していくなんて、前世の光源氏を思い浮かべてしまう。逆光の源氏計画? まぁ、マリアージュ様は最初からグラン様と結婚しようとは思っていなかっただろうけれど。
でもまぁ、この世界だと養子にした後に結婚したりというのはそれなりにある。血がつながってなければ問題がないし、……まぁ、世の中には血がつながっていても無理やり婚姻を結んでしまう例もあるみたいだけど。
マリアージュ様はグラン様を鍛え上げながらも、領主として君臨していた。マリアージュ様は領地の政策などよりも、領内の荒事を片づけたりしていたようだ。これはソル君に聞いていた通りだ。内政面は他の者がやっていたといっていたものね。
マリアージュ様がグラン様を引き取ってから十年後、また戦争が起こった。それは《炎剣帝》と呼ばれたマリアージュ様の実力がもう削がれて、恐れる心配はないと勘違いされたためだ。そして起こった戦争において、マリアージュ様は活躍した。マリアージュ様だけではなく、グラン様も。そしてグラン様は《光剣》と呼ばれるようになった。
そしてその戦争が終わった後に、グラン様はマリアージュ様と結婚をした。
マリアージュ様とグラン様の間でどのような会話がなされて結婚をしたかは分からないが、二人の仲睦まじい様子が描かれていた。
「……やっぱりマリアージュ様は凄いわ!! なんて凄いのかしら。私と同じ年の頃にはもう英雄になっていたのよね。そして大陸中に名を広めていて、今もまだ現役でとっても強くて、かっこいいわ。ああ、もう凄いわ!!」
資料館を後にした私は、思わず興奮してたまらなくて声を上げてしまった。マリアージュ様はやっぱり、凄いのだと資料館を後にして実感したのだ。そしてマリアージュ様はやっぱり私にとって憧れの人なのだと再度確認した。
「お腹すいたでしょ? ごはん食べよう」
興奮する私にソル君がそう声をかけたので、昼食をとる事になった。資料館を見ている間にすっかり真昼になっていたのだ。




