とある王国の損失
さてスペル王国からは、様々な人材がこの度、流出していくことになった。
まずは、王太子であったカラッラ・スペルが追放したケーシィ・ガランド。このまま王妃になったならば、スペル王国の改革を誰よりも進めていったであろう魔法の申し子。魔力適性を誰よりも持ち合わせていた少女。スペル王国で生まれていなければ、もっと早くに国内で名を馳せたであろう人物だ。
そのケーシィ・ガランドを追放した結果、魔法師団に所属していた双子がまず消えた。ミレーナとアレーナという双子は、ケーシィ同様に、スペル王国の改革にとって重要な双子でもあった。元々、男尊女卑な環境であるスペル王国では進んで魔法を習おうとする女性はあまりいない。そんな中でも魔法師団長に引き取られて、育てられた双子は希少な存在であった。ケーシィ・ガランドが王妃になった暁には、傍で活躍する事が期待されていたのである。しかしその双子もケーシィ・ガランドを追って国から去っていった。
次に魔法師団長のジガルダン含むメンバー達である。このジガルダンはケーシィ・ガランドが王妃になる事を心待ちにしていた。魔法の研究を好んでいるケーシィ・ガランドとジガルダンはとても気があっていたのだ。それに昔から魔法師団に顔を出していたケーシィは、魔法師団に所属する面々に可愛がられていた。ジガルダンを含む魔法師団の何名かは、ケーシィ・ガランドを追う事を決意して国を出た。残った面々も、他国に亡命していった。それは、スペル王国の国力を確かに落とす事であった。
魔法師団に所属していた多くの者達が消えていったことで、スペル王国の魔法技術は失われ、低下していった。残った魔法師団の者達にはろくな者がおらず、国王や王妃は頭を抱える事になる。
そして、ルド・ガランド。ケーシィ・ガランドの実の兄にして、ガランド侯爵の次期当主だった男である。彼は妹が王妃になるのならば、侯爵当主として支えていこうと決めていた。しかし、ケーシィ・ガランドは追放された。その結果、彼は妹の無実を証明したのち、妹を追いかける事になる。それだけではなく、ルドは王太子の変更があったのにも拘らず貴族連中の思想をかき乱した。このような国に留まっていても大変なことにしかならないと、多くの者達に言ってまわり、亡命者や裏切り者がその後数多く生み出される事になる。王太子への告発の場ではカラッラ・スペルを王にしないのなら安心です、などといっておきながらちゃっかり色々やらかしてから国を出たルド・ガランドであった。
ルド・ガランドが王国を去ったのち、ガランド侯爵家の実質の跡取りはいなくなってしまった。ガランド侯爵の血を分けた子供はルド・ガランドとケーシィ・ガランドのみであった。そのため、侯爵家当主はルドが去ったことに大変激高していたようだ。
その後、侯爵家は分家筋から当主として男の子を引き取った。しかし、国王と王妃はケーシィ・ガランドの追放を後押ししたという事で、ガランド侯爵を不快に思っていたのもあり、そのままガランド侯爵家は影響力をどんどんなくしていくのであった。
ケーシィ・ガランドの追放から始まって、どんどん人が流出していったのだ。
その影響は、スペル王国に大きく及んだ事になる。
王太子の交代に伴い、第二王子が王太子となり、新しい婚約者が選出された。しかし、その婚約者はスペル王国の基準で言う令嬢である。ケーシィ・ガランドのように自分の手で、国を変えるという気概はなかった。もちろん、のちに王妃としてスペル王国の改革を少しずつ進めていったが、ケーシィ・ガランドが王妃になった場合の想定された改革に比べれば小さな改革でしかなかったのである。後の歴史家は、当時の国王や王妃の記録などを見て、もしケーシィ・ガランドが王妃になったのならばスペル王国の改革はもっと速く進んでいた事だろうと言っている。
――スペル王国は多くの損失を出したのであった。
短いです。
次から四章に行きます。




