10.デートの準備
「シィ姉様にはこういうの似合いそう」
「シィ姉様、ソル君を悩殺だよ。の・う・さ・つ!」
「ケーシィ先生にそのような服を。ああ、確かに……これだけ胸を強調していれば、ソル兄だって……」
今、私が何をしているかと言えば、デートの準備である。
……デートに準備が居るかとかあんまり私は考えてなかった。ひとまず、ソル君をお祭りに誘う。そしてソル君と一緒にお祭りを回れるってそればかり考えていた。
二人っきりで一緒に、お祭りを回れる事が嬉しくて仕方がない。それしか頭の中になかった。
でもミレーナやアレーナ、あと、何でか混ざっているエウフェー様は張り切っていた。私は着せ替え人形状態――というのは言い過ぎかもしれないが、結構それに近い事になっている気がする。
ミレーナとアレーナはなんていうか、ちょっと際どいものを敢えて選んでいる気がする。……それにしてもエウフェー様は、こんな所に混ざっていていいのかしら。
「エウフェー様、私の洋服選びに付き合っていて大丈夫なんですか?」
「ああ、問題ないわ。お父様に、ケーシィ先生とソル兄をくっつけるために頑張るって言ったら、応援されたもの」
「……そう」
ここの領主様にもバレバレな私の恋心。いえ、反対されるよりは応援される方が断然良いのは分かっているわ。分かっているけれども……やはり、恥ずかしい。周りは皆楽しいかもしれないけれど、私は何て羞恥プレイ……。
「シィ姉様、見てこれ!! 谷間が見えてる服なんだけど、これで悩殺しよう!!」
「シィ姉様、スタイル良いからこういうの絶対似合うって」
「……ミレーナとアレーナはどうしてもそういう服を着せたいの?」
なんで先ほどからこう――、谷間の部分だけくりぬかれている服とか、スリットが入っていて足が見える服とかを選んでいるのかしら。
「だって、いざ告白する! って時じゃないとシィ姉様こういうの着てくれないでしょ?」
「そうそう、こういう時じゃないとシィ姉様は着ないでしょ? 私達はシィ姉様にこういうの着せたいもん」
無邪気な笑みでそんな事を言われた。
いやいや、確かに私は普段こんな服は着ない。貴族令嬢として生きてきた感覚と、前世で生きてきた感覚。その両方をもってしてもこういう際どい服はちょっと……と思ってしまう。
そもそも告白するとなると着てくれると、何で思っているのか……。
「え、ケーシィ先生着ないの? 凄い似合うと思うし、ソル兄だってドキッとすると思うわよ?」
「そうだよー、着てよ、シィ姉様」
「これでソル君、悩殺出来るって」
……本当にこれを着たら、ソル君が何か感じてくれるのならば……と思わなくはないけれど、でもやっぱり際どい衣装はと葛藤してしまう。こんな葛藤している時点でミレーナ達の思うつぼな気もするけれど。
冒険者として動きやすい服装を通常私はしている。だからこそ、もしかしたらそういう格好をしたらソル君が異性として意識してくれるのかもしれない。
そう思いながら、ミレーナやアレーナ、エウフェー様の持っているそれぞれの服を見る。や、やっぱり際どすぎると思うのよ。
「えっと、攻めるのは有りだと思うの。私は動きやすい服装を気にかけていて、そんなにおしゃれな服装、ソル君に見せてないし。で、でもね、も、もう少し際どくないものを……」
流石に胸元が見えているものとかはね……、という思いを込めて言えば、ミレーナとアレーナは意気揚々と服を物色し始めた。エウフェー様もそれに混ざっている。
「じゃあ、シィ姉様、これは!」
「布面積はあるよ!」
ミレーナとアレーナがそう言って私の元へ持ってきたのは、ワンピースである。露出も激しくないし、ロングスカートだし。これなら……と思って試着してみる。これは、中々、体のラインがはっきりわかるワンピース。少し恥ずかしいかもしれない。
「やっぱり、シィ姉様、似合う!」
「シィ姉様、それでソル君も一撃だよ!」
「ケーシィ先生、お似合いですわ。……でもこの格好で立ってたら、異性に声をかけられそうですわね」
「大丈夫だって、そこはソル君がいるし」
「そうそう、ソル君がきっちりシィ姉様の事を守ったら問題ないよね」
「それもそうですわね。ソル兄が頑張ればいいのですね」
……布面積は多いし、ロングスカートだから露出も少ない。こんなに体のラインが分かるのはと一人悩んでいる私の前で、三人は最早これで決まりと言ったノリであった。
「えっと……少し恥ずかしいのだけど」
「シィ姉様、告白っていうのは大勝負なんだよ!」
「そうだよ、シィ姉様、大勝負には武器が必要なんだよ! その武器を使わないと!!」
「う、うん」
思わずミレーナとアレーナの勢いのままに頷いてしまったけれど、二人が着せたいだけな気もする。
ああ、でも、こういう服を着ていたらソル君も何か、感じてくれたりするんだろうか。今からドキドキしてきてしまう。




