9.ソル君を祭りに誘う。
この街で行われる祭り――それは、この街が出来た時からずっと続いているものであるらしい。それだけ由緒正しい祭り。
私はその祭りで……ソ、ソル君に告白するんだ。ソル君に、ちゃんと自分の事を言って、告白するんだ。……ってそれを思うと心臓がバクバクしてならない。だって告白何てしたこと、前世も含めて一度もないのだもの。
「ふふふ、シィ姉様、緊張してるのー?」
「まずはお祭りにソル君を誘わなきゃでしょ、シィ姉様」
私が宿の部屋の中で、ベッドに寝転がって枕に顔を押し付けて足をバタバタさせてしまっていたら、ベッドの左右にミレーナとアレーナが居た。左右からからかうような声が聞こえてくる。
「……そうね」
あれ、というか、そもそもお祭りに誘うのってどんな風に誘ったらいいのかしら。デート、デート、デート……デートってどうやるのか。そもそもどうやって誘うものなのか。
……やばい、凄い誘うって行為だけで緊張が半端ない。こんな調子でそもそも告白なんて出来るのだろうか。そんな気分にさえなってしまう。でも、私は……告白するの。うん、いつまでもうじうじしているなんて私らしくないもの。
「シィ姉様、お誘い一人で大丈夫?」
「私達も手助けしようか?」
無言になった私に、二人が心配そうな目を向けていた。その心配そうな目を見て、私はベッドの上に座って首を振る。
「ううん。大丈夫よ。誘うのさえも一人で出来ないのなら、告白なんて一人で出来ないもの。私は、ちゃ、ちゃんとお祭りにソル君を誘うんだもの」
「わー、それでこそシィ姉様、頑張って」
「シィ姉様、流石、頑張れー」
ミレーナとアレーナがベッドの周りで応援をしながらにこにこしていた。ああ、心配してくれているのも本気だろうけど、面白がっているのも本気だなぁと思った。
私は、ソル君を祭りに誘うの!
そう決意したものの、やはりデートなんてものに誰かを誘った事がない私はドキドキしてしまう。そもそもソル君の事が好きだと気づいてから、ソル君を見ているだけで心臓が鼓動しているのに。デート、デート……やっぱり緊張するわ。
じーっと、朝食を食べるソル君を見てしまう。
朝起きてから、いざ、誘うぞと思っているものの、やはり躊躇してしまう。
宿の食堂で、真正面に座るソル君を凝視してしまう私はソル君からしてみれば不思議かもしれない。
ソル君に見返されて、視線を逸らす。ソル君は不思議そうな顔をしていた。
朝食の間、私はソル君を誘う事が出来なかった。幾らでも機会はあったのだが、勇気が出なかった。ああ、もう、こんなに勇気が出ないなんて、恋ってものは不思議だと思う。
「シィ姉様、いつ誘うの?」
「シィ姉様、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。今日中には、絶対に、誘うから」
今日中に誘う、と自分の心に何度も何度も言い聞かせる。祭りに誘おうとしているだけだというのに、どうしようもなく緊張する。
今日の私はソル君にとって、凄く変な私だと思う。
度々、ソル君の事を見てしまっているし、ソル君にとって私は不気味に思われているかもしれない。
誘う、誘う、誘う――と心に言い聞かせながら悶々としていれば、気づいたらもう昼間になっていた。私は半日、誘う事が出来なかった。
祭りの話題さえ、うまく出せないとかなんて意気地なしなのか。ミレーナとアレーナは心配と好奇心が半々といった様子だ。
「ケーシィ、今日はどうしたの?」
ついに、昼食をとっている中でソル君にそう聞かれてしまった。
「ええと、ソル君。あのね」
「うん」
ソル君がこちらを見ている。何だか見られているだけで、顔が赤くなりそうだ。
「今度、祭りがあるでしょう?」
「うん。あるね」
「一緒に、回りませんか?」
私がそこまで言い切った時、傍にいたミレーナとアレーナはガッツポーズをしていた。私はドキドキしていた。そんな私にソル君は軽く答える。
「祭りを一緒に回るの? 別に全然いいよ」
そう言われて、私は思わず笑みになる。ソル君の横でミレーナが口パクで何かを言っている。ええっと、二人で行きたい……あ、そっか。二人で行きたいとちゃんと言わないと、ソル君は四人で回ると思っているかもしれないという事ね。危ない危ない、私はソル君とデートして、それで告白するって決めたんだから。
そう思って、意を決して言う。
「そ、その、ソル君と二人で回りたい、って言っても、いい?」
「え?」
ソル君は私の言葉に少し驚いた声を上げた。
だけど、少し戸惑った表情だったけれど「うん、いいよ」ってソル君は笑ってくれた。
ミレーナとアレーナがまだガッツポーズをしていた。
「本当? ありがとう、ソル君」
「お礼なんていらないよ、ケーシィと祭り回るの楽しそうだし、俺も楽しみだし」
ソル君の笑みに何だか胸が締め付けられた。やっぱり、笑っててもかっこいいと思った。
緊張もするけれど祭りの当日が楽しみになった。そのあと、ミレーナとアレーナにニヤニヤしながら「良かったね」と沢山言われた。




