8.家庭教師の仕事 4
エウフェー様に、私がソル君の事が好きだという事が悟られた。
宿に戻ってから、ミレーナとアレーナにその事を言えば、「シィ姉様は分かりやすいから」と笑われてしまった。
……前世も含めたら私の精神年齢は高いはず。なんだけど、恋愛経験は欠片もない。もっと恋愛経験があれば、恋心を悟られる事はなかっただろうか。何て、考えても仕方がない事を考えてしまった。
ソル君には、ジェネット王国にたどり着くまでに告白したい。この街に留まっている間に、好きという気持ちを伝えたい。……しかし、その気持ちはどういうタイミングで伝えるべきなのだろうか。告白なんてした事がない。前世の小説や漫画では恋愛物を読んでいたけれども、その中で描かれている告白シーンは色々なパターンがあった。告白の場面というのは、人の数だけ異なるものだろう。ならば、私はどんな告白をすべきなのだろうか。
告白をするとすれば、私の事をちゃんと言ってから。そうしたいと思うのは、隠し事をした状態で気持ちを伝えたくないから。
「ソル兄は、恋人いた事がないはずよ。少なくとも私が知っている限りは」
家庭教師の仕事の合間合間で、エウフェー様はソル君の情報を私に沢山教えてくれるようになった。ソル兄、と親し気にソル君の事を呼ぶエウフェー様は私よりもずっとソル君の事を知っている。
私も――いつか、ソル君の事をもっと知る事が出来るだろうか。ソル君の心の内を話してもらえるぐらいに、傍にいさせてもらう事が出来るようになるだろうか。そうなれたらいい。ソル君の傍にいられたらいい。
家庭教師の仕事の中で、エウフェー様とソル君の話をする事が多くなった。とはいえ、もちろん、ただ話しているだけではなく家庭教師としての仕事もこなしている。
「風魔法だと――」
エウフェー様に魔法を教えていく中で、私はこうやって人に魔法を教える事に気分を高揚させていた。魔法を行使する事も私は好きだけど、教える事もこんなにも楽しいのだと家庭教師の仕事をする中で気づいた。
現状の目標は、憧れのマリアージュ様の元へ向かう事。
それでいて、他国を見た事がなかったから様々な場所を見る事。
私の二つの目標。そして出来たら、将来的に魔法に関わっていきたいと思っていた。この家庭教師の仕事を通して、私は、魔法を教える仕事をしたいなと思えた。どこかで、魔法を教える仕事をしながら……、傍にソル君がいてくれたらとそんな夢を見る。
その夢を叶えるためにも、ソル君にきちんと告白をしよう。
ひとまずは家庭教師の仕事を終えてから、そのタイミングで……、この街を去る前に告白しようと決めた。家庭教師の仕事を完璧にこなして……ソル君の私に対する好感度が上がってくれたらいいなぁとそんな不純な思いも含んでいる。
エウフェー様は私がソル君に告白するために、頭を悩ませているのを知って楽しそうにしている。無邪気にアドバイスをしてきたりもする。
そんな中で、エウフェー様とこんな話になった。
「――というか、ケーシィ先生は何で冒険者をしているか分からないけど、王侯貴族の出でしょう?」
「……まぁ、そうですわね。諸事情があって生まれ故郷には足を踏み入れられませんが」
「ふふ……、もしかしてケーシィ先生って、その事を気にしているの? 大丈夫よ。ケーシィ先生と接していたら、ケーシィ先生がどんな人かわかるもの。私はケーシィ先生が何か悪い事をしたとは思えない。何か事情があってそういう事になったんだろうと思うし」
「ソル君もそう言ってたわ」
「そうよ。ソル兄はちゃんとその人自身を見るからケーシィ先生の事情を気にしないし、それにソル兄の家もそういうのを気にする家じゃないわ。何かしらケーシィ先生に柵があったとしても、何でも受け入れられる器の広い人達だもの。だから、ケーシィ先生はそういうの一切気にせずにソル兄に好きだって言ってしまえばいいのよ」
意気揚々と言われたけれど、そんな簡単なものではないと思う。
「大丈夫よ。ケーシィ先生、すごく美人だし、好きだって言われて嫌な気持ちになる男性はいないでしょう。幸い、ソル兄って恋人もいないもの。告白しないよりもしたほうが断然、確率も上がりますし」
そんな風に褒められると何だか、むず痒い気持ちになる。けれどそういう言葉をもらうと、ソル君に告白しようという勇気が湧いてきた。
「丁度、この街でお祭りがあるのよ。そのタイミングでデートして、告白したらいいのではないかしら?」
この街でどうやら祭りがあるようだ。その祭りでデートをして、告白。とてもいいかもしれない。……でも二人でデートに行きましょうって誘うの緊張しそうだわ。
「そうね、頑張るわ」
「ええ、ケーシィ先生、頑張って!」
私の言葉に、エウフェー様はにこやかに笑って応援してくれた。
エウフェー様とは、家庭教師の仕事をする中で仲良くなっていった。
——そしてそうしているうちに、家庭教師の仕事の終わりと、お祭りの始まりが近づいてくるのだった。




