6.家庭教師の仕事 2
「ケーシィ先生、すごいわ」
私が魔法を教えれば教えるほど、エウフェー様は目をキラキラとさせていた。人に魔法をきちんと教えるのは初めてだったけれど、こんな風にキラキラした目を向けられると何だか嬉しかった。
エウフェー様は風魔法の適性が金なのもあって、私の教える事をどんどん吸収していった。
やはり適性が高い魔法だと、するすると吸収出来るものなのだ。そう考えると、本当に私の魔法適性が高いのは幸いだった。魔法適性が高くなければ、私はこんな風に転生した世界を充実して過ごすことはできなかったと思うから。……もし魔法適性が低ければ、私はスペル王国でどのように生きていただろうか。何にもできずにつまらない日々を過ごしていたかもしれない。そんなたらればの話を考えて何とも言えない気持ちになった。
現在、エウフェー様は自身の体を浮かせる練習をしている。私が体を浮かせたのを見てやってみたいと思ったらしい。エウフェー様ももっと魔法が好きになってくれたらいいな。魔法談義が出来るようになればきっと楽しいもの。
体を浮かせたエウフェー様を私は見守っている。近くにはこの家に仕えている者たちの姿も多くみられる。彼らは体を浮かせたエウフェー様が落ちないかとハラハラしているようだ。結構な高さまで浮かび上がっているからだろう。でももしそうなった時のためにも私が居るのだもの。
魔法というのは不可能を可能にする素晴らしい力だけれども、その分、危険を伴うのだ。だからこそ教える時は慎重に行わなければならない。
貴族令嬢に魔法を教えるなんて事が出来たのは、ソル君の信頼があったからだ。ソル君が私を信頼していると言ってくれたからだ。だからこそ私はこの家庭教師の仕事を全うしなければならない。きちんとできなければソル君の立場が悪くなるから。最もそうでなくても魔法を教える事を遊び半分でしてはいけないというのは分かっているからきっちりやるけれども。
「見て見て、ケーシィ先生。結構上に行けたわ」
上昇するのが楽しくて仕方がないのだろう、どんどん上へと上昇していくエウフェー様。
ただ、エウフェー様はまだ幼い身で魔力量が大人よりはない。エウフェー様の魔力量は子供にしては多い方だけれど、あんなにどんどん上昇して大丈夫だろうかとその考えが頭をよぎる。
「エウフェー様、あまり上昇しないでください。もしかしたら魔力が――」
私が注意をしようとしている目の前で、エウフェー様が魔力切れを起こした。そのまま、下へと落ちていく。
「私の思いに答えて。風よ、風、その身を受け止めよ」
私は風の魔法を行使する。その生み出された風は、落ちていったエウフェー様を受け止めた。
よかった、ちゃんと受け止められて。もし何かあった場合は受け止めようと考えていたけれど、何事も予想外の出来事というのがあるから受け止められなかったら――と少し考えてしまっていた。
「びっくりした……。魔力が減っていたのね」
「エウフェー様、気を付けてください。ちゃんと自分の魔力量を把握した上で魔法を使わないと大変な事になりますわ。今回も受け止める人が居なければ、大怪我――最悪死に至りますもの」
「……ごめんなさい。ケーシィ先生。気を付けるわ」
「ええ、そうしてくださいませ。魔法を少しずつ使っていきながら自分がどれだけの事が出来るか、何をしたら魔力が空になってしまうか。そのあたりを把握しないと大変な事になりますわ。戦闘中に魔法を放とうとして放てなかったら? その場合は魔物が相手であれば死んでしまうかもしれません。……エウフェー様は貴族の令嬢なのでそういう危険な戦闘にはいくことはないかもしれませんが、やはりきちんとしたほうがいいでしょう」
こんな風に偉そうに言ってしまっているが、私も魔法を習った当初は自分の技量が分からずに失敗してお兄様に怒られていた。……お兄様は元気だろうか。昔の事を思い起こすと、お兄様の事が頭にちらつく。
「ええ、もちろんですわ。忠告ありがとうございます。私も気を付けなければなりません。私もやはり、戦う女性には憧れますもの。いつか、マリアージュ様ほどとは言わずともそれなりに戦えるようにはなりたいもの」
お兄様の事を考えていた私の耳にそんな言葉が入ってきて、思わず反応してしまう。
「エウフェー様もマリアージュ様にやはり憧れているのね。本当にすごい方よね! 一度でいいからお姿を見て見たいものだわ」
「あら、会えるんじゃないかしら」
「いえ、私は平民の身ですもの。だから英雄であり、伯爵であるマリアージュ様にお目にかかるのは難しいと思いますわ。エウフェー様はお会いしたことありますか?」
「ええっと……あるけど。そっか。うん、ケーシィ先生に言ってないのね。マリアージュ様はちょっと変わった方だけど、とても素晴らしい方よ」
「変わった方?」
「ええ、まぁ、会えばわかるわ。それより、魔法の練習続けましょう!」
なんだか、会うのが前提みたいな話をされたが、結局話をそらされた。……なんだろう、ちょっと気になるけれど、ひとまずエウフェー様に教える事を続けよう。




