5.家庭教師の仕事 1
「ケーシィ先生は魔法を使うのが上手なのでしょう? ソル兄が褒めていたもの!」
家庭教師の仕事が始まって、真っ先にエウフェー様が習いたいと口にしたのは魔法の事だった。私の大好きな魔法。それを人に教えられる事は嬉しいと思う。
私は魔法が好きだから。
魔法というものが転生したこの世界にあることが本当に嬉しい。それだけで私がどれだけ嬉しい気持ちになったことか。転生した当初の事を思い起こすと、魔法があると気付いた時、私は本当に興奮したのだ。その後、生まれた国が男尊女卑な事を知って、魔法を習う事を良しとしない風潮なのを聞いてショックを受けたんだっけ。
「ソル君が褒めてくれてたのですね。それは嬉しいですわ」
ソル君が私の事を褒めてくれていたというのをエウフェー様の口から聞けて嬉しかった。自分が頑張った結果を、誰かが認めてくれることって嬉しい事なんだなと私は実感した。私が祖国でなんだかんだで頑張って、婚約破棄されるまで王妃になってやっていこうと思えたのはお兄様が私を認めてくれたから。そして国王陛下も私にそういう期待を向けていた。そういう認めてくれていた存在が居たからこそ、私は生まれ育った故郷で頑張れた。そして今頑張れるのもミレーナやアレーナ達がいて、ソル君が認めてくれるからとも言える。認めてくれる存在というのは本当に大切だと思った。
それにソル君の事が好きだと気付いた今は、何よりソル君が認めてくれている事実が嬉しい。
「ケーシィ先生、何だか嬉しそうね?」
「え、ええっと気にしないでもらえたら助かりますわ」
思わず顔をにやけさせてしまったみたいで、慌ててごまかした。エウフェー様に、ソル君を好きな事を知られるのは少し恥ずかしいもの。
「そうなのね! まぁ、いいわ。それでケーシィ先生は全属性が使えるのでしょう? それも凄いわよね。それって《光剣》のグラン・フロネア様のようだもの」
「私は自分に魔法の適性があってとても嬉しかったです。何より魔法を使うのは楽しくて、使っていても気持ちが高揚して、いろんな事が出来るようになりたいって思いますもの」
グラン・フロネア様。《炎剣帝》マリアージュ・フロネア様の年下の旦那様。二人のラブロマンスはなんとなく、広まっているけれど実際の所どういう感じだったのかはいまいち私には分からない。そもそもスペル王国だとマリアージュ様の話が中々入ってこなかったし。
「ふふ、ケーシィ先生は魔法が本当に好きなのね! 私ももっと魔法を使いたいわ!」
「エウフェー様は、四属性が使えるのですよね?」
「ええ、そうよ。金が風で、銀が光、銅が水と闇なの。だから風の魔法をきわめて行きたいわ。ケーシィ先生は風の適性が白銀なのでしょう?」
「ええ、そうですわ」
「なら是非、教えてほしいわ」
エウフェー様はにこにこと笑ってそう告げる。
私はそんなエウフェー様に早速風の魔法について教えることにした。まずは、風の魔法でどのような事が出来るのかというのを、実際に教える事にした。
許可をもらって、中庭に出る。
「風の魔法はとても使い勝手の良い魔法だと私は思っています。風の刃を生み出すといった攻撃的な魔法も使えますし、それだけではなく——」
私はそう言って、一旦言葉を切る。
そして、詠唱を紡ぐ。
「私の思いにこたえて。風よ、風、この身を空へと」
簡単な詠唱をして、私の魔力が魔法という形へと変化していく。そして私の体は宙へと浮いた。浮遊の魔法は結構お気に入りの魔法だ。やろうと思えば一定時間なら空を飛びまわることも出来る。これは私が白銀の適性を持っていて、魔法の練習を必死にやった結果だ。本当に風の魔法の適性が高くてよかったとこうして浮遊の魔法を使って見るとより一層思った。
「まぁ、素晴らしいですわね」
「ありがとうございます。風の魔法はこうして自身を浮かせる事も出来ますし、上手く使えば重い荷物を運ぶことも出来るでしょう。あとは、風の牢獄を作って敵を閉じ込める事なども出来ますし、風の魔法は使い勝手が良い魔法です」
風の刃を生み出して、敵や物を切り裂く。
風を使って、自身の体や人を浮かせる。
風を纏って、自分の移動スピードを上げる。
風を無数に吹かせて、敵の行く手を阻む。
そういう魔法の使い方を教えながら、やっぱり魔法ってなんて面白いんだろうとそれを思って私は興奮してならなかった。
魔法、という力は本当に無限の可能性があって、その可能性について考えるだけでもどうしようもない気持ちになる。
思わず興奮しながら風の魔法の事を教えていたら、エウフェー様に「本当に魔法が好きなのね」と少しだけ呆れた目を向けられてしまった。
いけないいけない。こんな風に暴走してしまわないようにしなければ。




