2.ギルドへ
ジェネット王国へはまだたどり着いていないけれど、もうすぐたどり着くかと思うと気持ちが高揚する。マリアージュ・フロネア様の事を一目でもいいから見れるだろうか。マリアージュ様の事は姿絵でしか知らない。スペル王国では他国の情報は中々入ってこなかったし、こうして冒険者としてジェネット王国へ近づいている間にも——マリアージュ様の噂は嘘か本当か分からないような噂が沢山舞い込んでくる。実際の、マリアージュ様って、どんな方なのだろうか。
お会いすることが出来るだろうか、それを考えるだけで嬉しくなってくる。
「シィ姉様、どうしたの?」
「ニヤニヤして、ソル君のこと?」
「……な、何を言って……違うわよ。私は……そのマリアージュ様に会えたらって思って」
「ああ、そっち?」
「もっとソル君の事で興奮しようよー」
つまらなそうに言われてしまったけれど、マリアージュ様に対する想いは恋なんてものではないけれどそれに似たような強い感情がある。
《炎剣帝》マリアージュ・フロネアの事を思うと、心が高揚する。私にとって絶対的な憧れで、いつか一目でいいから会ってみたい人。そしてその強さの秘密を知って、近づきたいと願う人。いつか、マリアージュ様のようになれたら、私はどれだけ達成感に満ちるだろうか。でも目標というのは、叶ったら終わりではないからもしマリアージュ様のようになれたらもっと沢山の夢が私に芽生えるのだろうか。
「ソ、ソル君の事も、その見ていたらこう……心があたたかくなるし、触りたくなるけど」
ぼそぼそと思わず本音まで口にしてしまって、ニヤニヤされる。でもちょっと、こう頬とか触ってみたい気になる。頭を撫でてみたいとかそういう感情が湧いてくる。
「早く告白しなよー」
「え、ええ」
ミレーナの言葉に私は頷くのだった。
その後、ソル君も連れてギルドへ向かった。
ソル君の隣を歩くというだけでどこか意識してしまう私。何だかソル君よりも年上なのに、そんな感情を抱いている事は恥ずかしい。ソル君は、とても余裕そうな表情をいつも浮かべている。ソル君の事をもっと動揺させたり、意識とかさせたりしたい……とそんな思いが湧いてきた。どうやったらドキッとさせられるのかしら。
ミレーナとアレーナに相談しながらちょっと作戦を練って、実行したら意識してくれたりするかな。そんなことを考えながらソル君をちらちら見てしまった。
ギルドへとたどり着くまで、少しちらちら見てしまったのにソル君は多分気づいていたと思う。……ソル君は何を思っているのかな。
そんなことを考えているとギルドにたどり着いた。どんな依頼をこなそうかと見ていたら、貴族の家庭教師という依頼があった。
値段も結構な破格。これなら私は出来るのではないかと思った。魔法などを含めた家庭教師だし、私は王妃になるための勉強をしていた。それに魔法に関わる事は何でもしてみたいと思っている私としては貴族とか誰にでも魔法を教えられるようになれたら楽しそうだなって思うから。
でも……これって、条件が厳しいわね。貴族に教えるわけだから、きちんとした信頼がなければ難しいというのは分かるのだけど、やりたいと思ってじっと見てしまった。
「ケーシィ、どうしたのって、この依頼……」
「ちょっと、やってみたいと思ったの。でもこれは厳しいわね」
私はスペル王国の侯爵家の出だけれど、国外追放されている身、侯爵家としての身分を捨てた身としてそれをひけらかそうとも思わない。となると、私は只の冒険者になってそんなに経っていない娘でしかないわけで……難しいとしか言いようがない。一度、やってみたいとだけ言ってみようか。そんな風に考えていれば、ソル君が笑っていった。
「そうなんだ、ケーシィがやりたいならどうにかするよ?」
「え」
「ここはジェネット王国に近いし、友好国だからね」
「えっと……出来たらやってみたいわ」
「そっか、じゃあどうにかするよ」
ソル君は微笑んでいる。どうにでも出来るらしい。本当にソル君って……ジェネット王国でどういう立ち位置の人なのだろうか。ソル君の事が気になって仕方がない。
ソル君はそのまま、依頼書を手に取って、ギルドの受付嬢の元へと向かい色々と手続きをしていった。時々、私の方を指さしていたから私に貴族の方に教える役目をさせようと思っているという事を説明しているのだろう。時折しーっと指を口にあてているのは、何か隠したいことがあるから?
……いつか、どうしてソル君が私の事を推薦出来るのか、教えてもらえるだろうか。
そんなことを思っているうちに、私は貴族の令嬢の魔法の家庭教師の仕事をする事になった。本当に、出来るようにするとか、ソル君って、本当に何者なんだろうか。




