とある魔法師団長は国を出ようと思ってる。
私はジガルダン。
このスペル王国で魔法師団長という栄えある地位につかせていただいているものだ。私は近いうちにこの国から出ていくつもりである。というのも、私にとってこの国にいる楽しみの要因であった者を、この国の王太子が国外追放などという真似をしたからである。
ケーシィ・ガランド。
ガランド侯爵家の令嬢にして、王太子の婚約者であった少女。そして魔法について貪欲に学んでいた少女。私と同じく、魔法というものに魅了されていた。だからこそ、私と年が離れていても気があった。二回りほど下の少女と話が盛り上がっていたのは、互いに魔法という力に魅了された同志だったから。
ケーシィ様は、王妃になってこの国を変えていく事を目的にしていた。王太子殿下に好意は持っていないが、女性でも活躍できる国にしたい、そしてもっと魔法の研究をしたいという思いがあった。だからこそ、王妃になるための勉学に励んでいた。私はケーシィ様が王妃になる時に、魔法師団長として支えていきたいと思っていた。ケーシィ様が王妃になる事を心から楽しみにしていた。
だというのに、王太子がやらかした。
わざわざ陛下や王妃殿下、ケーシィ様の兄であるルド様が不在の隙に婚約破棄と国外追放という事をしでかし、大きく広めた。
王太子は何度か話した事があるが、少しだけ頭が弱い。王太子としての教育はきちんとなされていたはずだが、勉強が出来るのと頭が回るのは話が違う。王太子として必要最低限の教育はされていても、王太子は実践的な勉強を出来ているわけではない。それでいて王太子として甘やかされたからというのもあるのだろうが、自分の望みは叶うものだと思っているようだ。それにあの少女——フィーラという男爵令嬢はもっと頭が弱いように思える。普通なら、婚約者がいる相手にあんな風にべたべたはしない。それも自分よりも身分の高い相手の婚約者を奪うなんて恐ろしくて下級貴族にはまず出来ない。それを行って、陛下たちが戻ってきてもなお、自分が王妃になる事を望んでいるのは愚かだ。
そもそも、王太子が王太子のままで居れると思っているのもおかしい。王命である侯爵令嬢との婚約を破棄したのだからそれ相応の罰が与えられるのは当然だ。例え、ほとんど可能性はないが王太子が王太子のままだったとしてもあのフィーラという令嬢が王妃になれることはない。男爵令嬢が王妃になどなれるはずがないという当たり前の事を、分かっていないのが致命的すぎる。
男爵はフィーラがケーシィ様の婚約者を取った事に卒倒したそうだ。そういう事情も本人は分かっていないらしい。
王宮内を王太子を含めた取り巻き達を連れて楽しそうに過ごしているらしいが、そのうちルド様が徹底的に潰すだろう。
私はどのタイミングで国を去ろうか、というその一点だけ悩んでいる。今すぐ飛び出すのもありだが、どうせならルド様と共にあのケーシィ様の事を国外追放にした連中をどうにかしてからでもいいだろうと考えているのだ。
それに加えて、魔法師団の中で嬉しい事に私やケーシィ様を慕っている者はそれなりに居る。その者達にも共に王国を出ないかと話を持ちかけている。私と共に行くことを望んでいるもの、共には行かないが他国に亡命しようと思っているものが大多数だ。残りは私が居なくなれば魔法師団長になれると残る事を望んでいるものもいるらしい。ただ、魔法師団長になれたとしても、この国は王太子のやらかしによってしばらくごたつくだろうし、大貴族に含まれるルド様が彼らを徹底的に潰したとしてそれで終わるとも思えない。
ルド様ならば——ケーシィ様を目にいれても痛くないほど可愛がっているルド様ならば潰すだけでは終わらないだろう。そう考えると、他国に出ていた方が安全だ。
ケーシィ様はどのように過ごしているだろうか。この国での貴族令嬢としての生活が堅苦しいと言っていたケーシィ様だから、意気揚々と過ごしていらっしゃるだろうか。是非とも、国を出てケーシィ様に再会を出来たらどのように過ごしているのか聞いてみたいものだ。そして、魔法についての談義をしたいものである。
ケーシィ様はジェネット王国の『炎剣帝』マリアージュ・フロネア様に憧れているのでその国には向かう事だろう。私も一先ず、国を出たらそこを目指そう。ジェネット王国はスペル王国よりも魔法が栄えているのだ。そこに永住するのも良いかもしれない。
私は魔法師団長としての仕事は真面目にこなしながらも、国外に出る事を決めており、国を出てどのように行動しようかとそればかり考えてしまうのだった。




