とある令嬢は幸福に浸る。
「こんなに上手くいくなんてっ」
私、フィーラ・エブリオは自室で思わず顔をにやけさせてしまう。貴族令嬢としてこういう表情を外では浮かべるべきではないと自覚しているから、人前では貴族令嬢としての体面を保っている。
――私は現在、幸福の最中に居る。
私はスペル王国の男爵家の庶子である。元々平民として生きていた私は、男爵家に引き取られて、魔法学園に通えることになった時、本当に嬉しかった。
このスペル王国は男のいう事を聞くのが当たり前とされている国だった。国のトップは男、国を動かすのは男—―そしてお店などのトップももちろん男。そういう国だった。
私はこの国生まれのこの国育ちだが、前世の記憶を持ち合わせている。この世界ではない、地球という星の日本という国で生きていた。私は平民のままだったならば、平民として周りに言われるままに歩んで行ったと思う。だけど、男爵家という貴族になることが出来た。だからこそ、夢を見てしまった。
特に、学園に入学して王太子であるカラッラ様やそのご友人たちと仲良くなる事が出来、私はこれはっと思った。
私がやっていた乙女ゲームに同じような立場のキャラがヒロインをしていた。平民育ちだけれども、貴族の子として引き取られて——私はその立場がぴったりとあっている事に興奮した。
私は王妃になれるのではないかと期待した。だって、王太子であるカラッラ様が私の事を好きだと言ってくださったのだもの! 私は成り上がれるかもしれないと、そう思ったらどうしてもその未来しか見えなかった。他の人達も私の事を好きだと言ってくれるのも気分が良かった。
前世で私はこんな風に異性に好かれた事はなかったから、嬉しくて仕方がなかった。
それには、邪魔な存在が居た。それは、ケーシィ・ガランドというスペル王国のガランド侯爵家の令嬢にして、カラッラ様の婚約者である存在だった。
その人はとても美しい人だった。ルビーのように赤い瞳に、真っ赤な髪。きつそうな印象を与えるけれども、美しいと同性の私でも思うぐらいだった。それに加えて……羨ましくなる巨乳だった。私は前世も今世も、胸は……そのつつましいものなのだ。だからちょっとうらやましかった。
それに侯爵家の令嬢でありながら、あれだけの美しさと頭脳を持ち合わせていて、次期王妃なんて羨ましかった。
――でも私がヒロインのような立場だったら、ケーシィ・ガランドは悪役令嬢だろう。ならば……いずれ私に嫌がらせをするはず。そうすれば、婚約破棄とか出来るかもしれないのでは。幸いにもカラッラ様は私の事を好きだと言ってくれているのだからどうにでもできるのではないか。だって、カラッラ様とケーシィ様の婚約は政略結婚で、勝手に決められたものだという話だもの。
ケーシィ様は同じ学園に通っているのだが、あまり学園に来ずに何をしているか分からないらしいけれど……上手くすれば、ケーシィ様をどうにかできると思う。
天国のお母さん……私は王妃を目指すわ。愛妾ではなく、王妃になりたい。それに私は前世の記憶があるのだから、スペル王国にとっても良い影響を与える事が出来るはずだもの。
そうよ、きっとそうだわ。ケーシィ様は有能かもしれないけれど、前世の記憶があってカラッラ様のお心をいただいているのだもの。私の方が王妃として相応しいはず! だって人の心がない、冷たいケーシィ様より私の方が王妃に相応しいって言ってくれているもの!!
そうやって意気込んで勉強を頑張っていた私はケーシィ様ほどではないけれども、学園での成績も好成績になれた。正直、ケーシィ様の成績を超せなかった事が悲しかった。でもテストの結果を見ても、ケーシィ様は顔色一つ変えなかった。顔色さえ変えなくて、本当に冷たい方だ。そもそも学園をさぼって何をしているのかも分からないという話だし、そんな冷たい人より私の方が王妃として相応しいはずだわ!!
そんな風に思っている中で、私への嫌がらせが行われた。それはカラッラ様達に近づくなということでだ。ケーシィ様は学園には来ていない。王宮では平常通りに動いているとカラッラ様が言っていた。でも、カラッラ様はケーシィ様の指示だろうと言っていた。ケーシィ様は王妃になるためにいろいろしているという噂で、王妃になることに執着しているだろうとカラッラ様が言ってた。
カラッラ様は「あいつは俺の地位だけが目当てなんだ」と悲しそうに言っていた。なんておいたわしい。
その後、私は階段から突き落とされた。その突き落した人物がケーシィ様の命令だって言っていたもの!! それもあって私達はケーシィ様を断罪した。
ケーシィ様が逆上して何かしでかすのではないかと不安になっていた。だけれども、ケーシィ様は何も言わなかった。何も言わずに——ただ、頷いた。
ずっと婚約者だったのに、簡単に頷いて、謝りもしない。謝れば許してあげようと思ってたのに。
――そしてカラッラ様は私の事を王妃にしてくれると言ってくれた。私は嬉しかった。
国王陛下と王妃殿下が帰ってきたので今度、紹介してくれると言っていた。
私は幸せの絶頂に居て、自分が王妃になることを疑っていなかった。




