15.盗賊への対処 4
男はこちらを面白そうに見ている。私に対して興味を抱いているといった態度の視線。……その目が私の胸元を何度か見ているのを見ていた。
「俺の魔法を解いたのは、その女か。いい女じゃねぇか。俺達の仲間にならないか? きっと良い思いが出来ると思うぜ」
私はその言葉に身構える。幻覚魔法を崩壊させるために力をつくして私は少しの疲れを感じている。
でもソル君やミレーナ、アレーナが居るからこの幻覚魔法を構築した男が居ても問題はないはず。
「あんたが、《炎剣帝》と対峙した事があるという人?」
「そうだが、それが? 俺はあの《炎剣帝》と戦って生き延びたんだ。でももし時間さえあれば俺は《炎剣帝》さえ倒す事が出来ただろう!!」
自信満々にその男はそんな風に言い放つ。
「ふぅん」
男の言葉に応えたソル君の声は、どこか不機嫌そうだった。ソル君のその声に驚いてそちらを見れば、ソル君はぞっとするぐらいに冷たい瞳を浮かべていた。
それにしても《炎剣帝》マリアージュ・フロネア様と戦って生き延びられた。また、時間があれば倒す事が出来たというなんて……。時間がなかったからこそ、《炎剣帝》を倒せなかったなんて言うなんて凄い自信だ。
自信満々の言葉に少しだけ怯む。けれど、それよりも、ソル君が気になった。
ソル君の冷たい目に見られて、盗賊の男も一瞬びくりとした。それだけ、その目は本気で、冷たかった。
「な、なんだ、てめぇは!! やれ、お前たち!! 女たちは捕えろ!」
男は叫んで、部下達に指示をだす。それと同時になぜか、男は私の方に近づこうとする。だけど、それはソル君に止められる。
「お前ごときが——……を騙るな」
小さな声は、私やアレーナ、ミレーナには聞こえなかった。だけど、その声は盗賊の頭には聞こえたのだろう、目を見開いている。
「なっ、お前は——」
ソル君は、男に最後まで言葉を言わせない。
地面を蹴って、飛んだ。地下だから天井もそんなに高くない中で、ぎりぎりの跳躍。そして一気にその男の元までいく。
男は何か口を開こうとする。恐らく魔法を使おうとしているんだろうけれどそれを使わせないほどに素早い動きだった。
長剣を振り下ろす。
一番最初の一振りは、男は反応出来た。でも余裕は一切ない様子。
また、剣が振り下ろされる。
次々と繰り出される剣技は、美しい。そして、それに対して男は魔法を使う暇さえもない。
そして、時間が経てば、対処は出来なくなってくる。男の首が飛んだ。
「ケーシィ、アレーナ、ミレーナ、後は雑魚をつぶせば終わるよ」
ソル君は男の命を奪った後、笑みを零してこちらを見る。
盗賊達は《炎剣帝》マリアージュ・フロネアを倒す事が出来ると豪語していた存在が短時間で殺されてしまったことに恐怖している。
まずは向かってくる盗賊達の対処をする。
その後に逃げ惑う盗賊達は捕まえるだけ捕まえる。
あっという間に盗賊退治が終わった。
正直、幻覚魔法を使う相手だからと私は警戒していたけれど、ソル君が凄すぎて魔法を使わせる暇もなく終わった。
魔法がどれだけ使えたとしてもそれよりも早く殺されてしまったら意味がない。それを実感する盗賊討伐だった。
ソル君はどうしてあんなに冷たい声になったのだろうか。私はソル君の事を知らなさすぎる。そのことを実感もした。
「じゃあ、こいつら連れて戻ろうか。あと盗賊の首は持っていくから」
「ええ……ソル君は本当に凄いわね?」
「そう? 俺は全然。それよりもケーシィが幻覚魔法どうにかしてくれてよかったよ」
ソル君は全然自分が凄い事をしたなんて思っていないようで、それも凄いと思った。ソル君は自分が出来るとかで調子に乗ったりはしない。なんだろう、もっとすごい人が居るという事を事実として知っている。
ソル君のそういう所がいいなぁって思う。
「ソル君、凄いよね」
「ソル君、凄い冷たい目してたね」
こそこそとミレーナとアレーナが話し合っている。
ソル君のあの声や冷たい目には驚いた。それはミレーナとアレーナも一緒だったようだ。ソル君の事をもっと知っていきたい。ソル君がどういう事を考えて、あれだけの素早い動きを行ったのか、それも知りたい。
そんな風に思ってならない。
盗賊をどうにかしてから街へ戻れば、キュノーユさんが迎えてくれた。
キュノーユさんは、ソル君に向かって笑いかける。
「流石、ソルね」
ふふっと柔らかく笑うキュノーユさん。そしてそれにこたえるソル君。
「やっぱり簡単に対処出来たのね。流石だわ」
「……ああ、まぁ、今回はちょっと頭に来たし」
「ああ、そうなの」
にこにこと笑っているソル君の事をキュノーユさんは理解している。その事を思うと変な気持ちになった。私もソル君の事をもっと知りたい。




