14.盗賊への対処 3
私達はどんどん盗賊の棲家の奥へと進んでいく。
今の所、これといった敵には遭遇していない。それにほっとする。対人戦は私にとってあまり慣れないものだけれども、冒険者として様々な経験をしていこうと望んでいる私はもっとそういう対人戦にも慣れていかなければならないと思っている。
ソル君の美しい剣技と、私達の魔法によって盗賊達はどんどん倒されていく。
ただ、奥に行けば奥に行くほど、少しずつ倒すのが難しくなっていっているように感じられた。この先には、幻覚魔法や障壁を作っていた存在が居る。その存在は今戦っている盗賊達よりもずっと強いだろう。そう思うと、気を引き締めなければと改めて感じた。
「この調子なら簡単に終わらせられそうだね」
「ふふ、私達が揃えばどうにでもできるよね!」
「ミレーナ、アレーナ、気を抜かないの」
二人はまだ『炎剣帝』マリアージュ様と対峙した事があるという男をどうにか出来ていないにも関わらずに油断していたので思わず注意してしまった。ミレーナもアレーナも少し油断しやすい所があるから私がきちんとしなければと改めて思った。
どんどん奥へと進んでいたのだが、途中から盗賊達と遭遇しなくなった。不自然なほどに遭遇しなくなる。
「……盗賊達がこんなに出ないのは不自然だわ」
「そうだね。何かされてる?」
私の言葉にソル君が言う。
此処は盗賊の棲家であり、私達はこの棲家の侵入者だ。それなのに、私達をどうにかしようと盗賊達が現れないのは不自然だ。
それに……、進んでも進んでも上手く先に進めていないように思えた。
後ろを振り返れば来た道が消えていたりしている。これは、相手の魔法にはまってしまっているのかもしれない。
幻覚魔法か何かを使われている? それならば私達がその魔法にかかっているにもかかわらず襲ってこないのは何故だろうか。何か意図があるのか、それともそこまでの技能がないのか。ただ、目の前に映る光景が魔法によるものだとして、何処までも精密だ。
……中々、幻覚であるなんて分からないほどの緻密なものだ。この幻覚を破るためには何をすべきか考える。このままうろうろしていてもキリがない気がした。
「ソル君、ミレーナ、アレーナ、少しだけ私に時間を頂戴」
私がそういえば、三人とも頷いてくれた。私の事を信頼してくれる事が嬉しかった。そうして私が目に魔力を集中させて、この場の魔法を解読しようとした時、何処からか何かが飛んできた。それはこちらに対する攻撃である。何処からか飛んでくるそれ。だけど、誰がこちらに攻撃をしてきているのかさっぱり分からなかった。先ほどまで攻撃が飛んで来てなかったことを考えると、何でか分からないけど一先ずどうにかする。
壁の方から急に向けられたように思えたけれど、どういう仕組なのだろうか。それが分からない。幻覚魔法について私は詳しくはないけれど、上手く幻覚をかけている相手に対して攻撃の仕方次第で魔法が解けたりとかするのだろうか。ああ、もう少し幻覚魔法について勉強していればよかった。でも一先ず、私はこの幻覚魔法をどうにかする事が一番の問題だ。
降ってくる攻撃を三人がどうにかしてくれている間に、私は幻覚魔法をどうにかする事を考えなければ。どんなふうに魔力が紡がれているか、どんなふうに幻覚の魔法が此処で顕現しているのか。それを私が視なければならない。
多分、私が一番、それを上手く出来るから。
私が上手く出来なければ、盗賊達に良い様にされてしまう。もしかしたら私が上手く出来なかったとしても、どうにか出来るかもしれないけれど私が上手く出来た方が上手くいく確率が上がる。
私はこういう所で死ぬつもりはない。盗賊達を相手にしているというのは、それだけ命を落としてしまう確率が高いという事だ。
ソル君は私がこの状況を突破出来ると信頼してくれている。だからこそ、私は難しくてもその信頼に応えたい。
三人が攻撃をどうにかしてくれている間に、私はこの場の魔法を見極める。
どうなっているか——それを一つ一つ組解いていく。細かい。何処までも細かく練られた魔法がそこにある。その魔法には、私が感服するだけ技量があった。
本当にもったいない。
これだけの魔法が使えるのならもっと色々な事が出来るだろうに。そう思うけれどそういう思考は今回は置いておく。それよりも早くこの魔法をどうにかしなければ。
目を閉じる。
それは集中するため。そして三人を信頼しているから。
しばらく目を閉じる事は言ったけれど、ソル君もミレーナもアレーナも頷いてくれた。
そして集中する事、十分ほど。
私はその魔法を解読出来た。
そして、その幻覚魔法を崩壊させるために魔力を込める。
――私の魔力によってぱりんっと幻覚魔法が壊れた。
そして現れるのは盗賊達だ。
私達が壁だと思っていた場所は壁ではなく、魔法が飛んできた方に居たのは盗賊達だったようだ。
そしてその中で面白そうな顔をしてこちらを見ている男が居る。
その男は言った。
「はははっ、俺の魔法を解ける奴が居たのか」
面白そうに笑う男は盗賊達の中で一番、豪華な装飾をつけていた。




