11.ソル君への疑問と、自分の感情
ジェネット王国の英雄——《炎剣帝》マリアージュ・フロネア様。
私の憧れで、一度で良いから会ってみたいと思っている方。最強の魔法剣士——大陸中に名を響かせている存在。そんな彼女と一度対峙して、生きていた存在。それを思うと不安が湧いてくる。ただ、マリアージュ様と一対一で向かい合ったのか、それとも多数でマリアージュ様と対峙したのか。それによって意味は異なる気がする。
一対一でマリアージュ様の敵として立って、生きているというのならばそれは脅威である。マリアージュ様と戦った記録はあるといっていたけれど、実際にその盗賊団のトップはどのような方なのだろうか。
「ケーシィ、あんまり喋らないね。さっきの《炎剣帝》マリアージュ・フロネアと対峙した相手がいるって聞いて気にしてる?」
「ええ」
キュノーユさんから頼まれごとを聞いた後、私は少しぼうっとしてしまっていた。マリアージュ様の名前を聞いてしまったから、そしてそのマリアージュ様と対峙して生きていた存在だから。
私はその事がとても気にかかっていた。
あまりやったことがない対人戦。それがそういう相手だというのは、色々と考えてしまう。
「シィ姉様はマリアージュ様が大好きだからね」
「私たちもシィ姉様の憧れの相手と因縁がある男って気になるなぁ」
ミレーナとアレーナが私の両隣を歩きながらそれぞれいう。
私たちの少し前を歩いていたソル君は、こちらを見ながら笑った。
「多分、因縁っていうほどではないと思うよ。《炎剣帝》マリアージュ・フロネアと張り合える存在なんて、と……《光剣》ぐらいだよ」
《光剣》――マリアージュ・フロネア様の旦那さん。その通り名などは知っている。マリアージュ様の事を知っていくうちに、その存在の事も知っていた。
「《光剣》……、マリアージュ様の夫ね」
「うん、《光剣》はマリアージュ・フロネアの夫だね。それ以外にマリアージュ・フロネアと張り合える存在はいないのではないか……と、少なくともジェネット王国民の俺は思うよ。実際、マリアージュ・フロネアと対峙したといっても、盗賊はやりあえるわけがないだろうからね。それに、大丈夫だよ、本当に無理そうなら引き返すだけの分別は俺にはあるし、よっぽどの事がなければどうにでもできるから」
そういって笑ったソル君。
ソル君は、マリアージュ様の事をフルネームで呼ぶ。
マリアージュ様とも《炎剣帝》様とも呼ばない。そのことって、よく考えると不思議だ。やっぱり、ソル君ってマリアージュ様に会った事があるのではないか。――そんな疑問が少しだけわく。
それをあえて言わないのは、ソル君が私の事を信頼していないからだろうか。きっと、キュノーユさんはそれらを知っている。ソル君と仲良くて、ソル君の事を一杯知っている。それにどこか羨ましさを感じてしまう。
「ああ、でも魔法の才能で言ったらケーシィも全然負けてないよ。頑張ったらそれぐらい魔法を使えるようにはなるんじゃないかって思うけど」
ソル君は笑っている。
屈託なく笑うソル君が、私に色々な事を話してくれる日は来るのだろうか。秘密にしている不思議なソル君。――私が例えば、自分の事を話したら、ソル君も話してくれたりするだろうか。
私が考えなければならないことは盗賊の事だろうけれど、ソル君の事を考えてしまっていた。
「そうだと、嬉しいわ」
ソル君がいってくれた言葉は嬉しいけれど、何だかもやもやしている。
色々な事を考えていて、頭の中を回ってる。
「努力は人を裏切らない、っていうのは俺の好きな言葉。俺には魔法の才能はあまりなかったから、その分、剣を磨いた。その結果に今の俺がいる。本当に才能のある存在は努力もなしに何でも出来るっていうのを俺は知っているけど、それはよっぽど才能がある場合だけだからね。ケーシィもずっと続ければきっと結果が出てくるよ」
ソル君はとても強いけれど、それは自分が剣の腕を磨いたからだといった。
才能があっても、努力をしなければ出来るようにならない。
よっぽどの才能があれば、努力をなくても何でも出来る。
……ソル君は、努力もなしに出来た人の事を実際に知っているのだろうか。
ソル君は何でもそつなくこなしているように見えるけれど、本人は努力をした結果だという。ソル君がこうして自分の事を語ってくれることは少し嬉しい。ソル君の事を知れるのも何だか嬉しい。
「私、頑張るわ。まずは、盗賊退治を頑張らなければね」
頑張ってる姿をソル君に見せたら、ソル君が大丈夫だって信じてくれたように盗賊退治を上手くできたら——、ソル君はもっと私に自身の事を教えてくれるのではないかという期待が湧いた。
ソル君に対する疑問や、私の不可解な感情。沢山、考える事はあるけれど、盗賊退治を一生懸命やろう。
――そう決意した私が、ソル君たちと一緒に盗賊退治に向かったのはそれから数日後のことだった。




