2.私は魔法が大好きなのです。
私の住んでいるスペル王国は、男尊女卑の考えが抜けきっておらず、家でおとなしくしている女性こそが良いとされている。一昔前の日本みたいに、一歩下がった位置に居るのがなるべくよくて、一応侯爵家の娘だし、王妃になるからってなるべくそれを実行していた。
けど、もうそんなこと気にしなくていいのだ。
寮室を後にした私の足取りは軽かった。
何より心から嬉しいと思ったのは、他国でなら堂々と魔法を使っても構わないのだ。この国では女性が魔法を使うとはしたないとか言われてしまうけれど、国外だと違うのだ。女性であろうと社会進出していて、魔法を使って働いている女性も多く居るのだ。
私は、魔法が大好きなのだ。
この世界に魔法が存在すると知ったその日から、私の興味の第一は魔法に向かっていたのだ。お父様は私が魔法を使うのをはしたない、やめなさいと何度も言って、そして私が前世の記憶もちで不気味だからって疎んでたけど、お兄様は私のよき理解者で、「魔法を習いたいなら私の教科書を一緒に見ようか」と見せてくれたりもしていたのだ。
何より、嬉しい事に私はこの国でも他に類を見ないぐらいに魔法の適性があった。これで魔法の腕を磨かないとかもったいないでしょう? と私が思うぐらいには魔法の適性があったのだ。
私は普段はこの国に相応しい令嬢として擬態していた。隠れて魔法への情熱を燃やし、同じ年代の男の子が使う魔法を見て自分の方が上手くできていると勝ったとひそかに思って喜んでいたりしたけど。
目的地とかは考えていないけれど、とりあえずは私が昔から憧れてやまない人の所に行こうかなと思っているの。
私が憧れているのはね、他国の英雄とまで呼ばれている女性なの。
スペル王国からかなり離れている国の英雄様なのだけれど、とても強くて、この国にまで情報が来るくらいなのよ。
この国は女性は控えるべきというのが常識としてまかり通っているから、その女性の噂を聞くと皆眉を顰めて、みっともないというのだけど私は幼い頃からずっと憧れていたの。
いつか、憧れのあの人を一目見れたらってずっと思っていて。王妃になれたら、もしかしたら外交で会えるんじゃないかって胸をときめかせていたのよ。
大陸の地図は王妃教育の中で頭に入っているし、是非、憧れの『炎剣帝』マリアージュ・フロネア様の居る国に行ってみたいの。マリアージュ様はね、魔法も剣も凄いと噂で聞いているの。あたり一面を焼き払う炎の魔法を行使したりしたのも有名でね、マリアージュ様は女性の身でありながらジェネット王国一の英雄といわれているの。憧れているマリアージュ様を一目見てみたいの。そしてジェネット王国は女性の身でも活躍できる国だから一度そこで魔法の勉強が出来ないかなと思うの。それに憧れの人が育った国なのだから、隅々まで見てみたいとも思うの。だから、ひとまずの目標はマリアージュ様の国に行く事ね。凄く楽しみだわ。
ああ、もう本当に婚約破棄に勘当されたっていうのに私凄く興奮しているの。マリアージュ様の国にいけるんだって思うとわくわくして堪らないのよ。
今私は国境へと向かっているのだけど、歩いていたら見知った魔力を探知した。
二つの魔力は私の元へと向かっていた。
「シィ姉様、私達も連れてって」
「ジガルダン様に許可はもらったから!!」
それで、現れたのは私の妹分みたいな双子ちゃんである。
名前はミレーナとアレーナ。
元々平民の出なのだけれど、魔法の才能があったからって魔法師団長――ジガルダンが引き取って育てていた子たちなのよ。
王妃になったら男尊女卑の社会を変えて、魔法を使う女性をもっと増やすぞという目標もあったから、それに向けて魔法師団長が育てていた子達なの。二人とも栗色のふんわりとした髪を持っていて、黄色い瞳がかわいらしいの。そっくりだから、初見の人たちは彼女達の区別がつかないって聞くけど魔力の質が違うのもあって私はわかるわ。
「あら、いいの?」
私が王妃にならなかったとしても、魔法師団長が二人を手放すとは私は考えていなかったのだけれど。
「うん。シィ姉様が王妃にならないなら大変だろうからついていきなさいって言ってくれたの。ジガルダン様もころあいを見て国から出るって言ってた」
「シィ姉様を冤罪で追い出すような国に居たくないみたいなので。ただちゃんと陛下とかに言ってから出ていきたいみたいで」
「そうなの。私も一人で行くのは正直不安もあったから貴方たち二人がいてくれると嬉しいわ」
正直いいのかなとも思うけれど、確かにこのままこの国に居ても大変かもしれない。それにこの二人も私同様に魔法を使うのが好きな子達だから、さぞこの国は居心地が悪いだろうしね。
一人旅なんてならず者たちに襲われたりする可能性もあるもの。三人いた方がいいわ。貴族は結婚するまで純潔を保つべきみたいなしきたりがあるし、私はそういう経験は現世ではないもの。一人旅中に襲われて純潔を散らしたりはしたくないわ。出来れば好きな人とがいいわね。
カラッラ様の事は結婚相手としては受け入れては居たけど好きでもなかったから、やっぱり婚約破棄できて良かったわ。
「私もシィ姉様と一緒に居れるの嬉しい」
「シィ姉様、次期王妃だからって人前ではかしこまった話し方しなければならなかったけれど、これからはもう普通でいいよね?」
「ええ。私はただのケーシィになったもの」
私はミレーナとアレーナの事が大好きで可愛がっているのだけど、ガランド侯爵家の娘で次期王妃という立場だったから人前で仲良くは出来なかった。次期王妃って凄く大変なのよ。人付き合いも考えなければならないし、対応を間違えれば大好きな子たちが危険な目にあったりもするし。
「それにこの国の外でなら魔法使ってもいいんだよね?」
「私シィ姉様の魔法大好きだから一杯見れるの楽しみ」
「ええ。そうね。私も魔法をどんどん使っていいんだって思うと楽しみだわ」
ミレーナもアレーナも私と一緒で魔法が大好きなの。私が魔法を好きな同志が欲しくて一生懸命教えた結果でもあるけれど、魔法大好きな三人で魔法を使いながら旅を出来るなんて最高だわ。
この国では魔法を使ったら咎められるし、はしたないって言われるし、私は魔法が大好きなのに思いっきり使う事なんて出来なかったから。
「そう考えると凄くわくわくするね」
「シィ姉様とミレーナと一緒に冒険とか楽しみ」
「ええ、凄く楽しみね!!」
そんなわけで私は二人と共ににこにこ笑いながら、国境を目指すのであった。