9.街に到着
私は次の街に到着した。新しい街は結構大きな街だった。都会と言えるぐらいの規模で、人通りが多い。
この街には、ソル君の知り合いもいるらしい。貴族の知り合い。そのソル君の知り合いに会ったら私はソル君のことをもっと知れたりするのだろうか。ソル君はあまり自分のことを話そうとしないから、知れたら嬉しいなと思うの。
宿を取ると、ソル君は「ちょっと知り合いの所いってくる」と一人で出かけてしまった。というか、この街にいる貴族というと、この街の領主の家系と知り合いということなのだろうか。会いに行こうとして簡単に貴族と会える立場の冒険者———、やっぱりソル君の身元って貴族とかなのかしら。
「ソル君って、やっぱり謎だわ」
「シィ姉様はもう祖国には戻れない感じだけど、ソル君ってそういう感じじゃないよね」
「勘当されたとかでもなく自由に冒険者やっているって不思議だよね」
貴族の子女子息は通常冒険者なんてものはやらない。よっぽどの変わり者ではないと籍を置いたまま冒険者などできない。
ソル君が貴族だとして、どういう家の出なのだろう。それとも没落貴族とか? ソル君って本当に謎に包まれている。貴族でありながらあれだけの剣技や強さをどこで学んだのだろうか。本当に興味深くて、知りたい事が多い。ソル君の出身国で、マリアージュ様のいる国にたどり着いたのならば教えてくれるのだろうか。
マリアージュ様の居る国にいけるというだけでもわくわくするし、ソル君に教えてもらえるぐらい信頼されるようになれればいいと思う。
「ソル君のこと、知れたらいいな」
「シィ姉様が自分の事話したら話してくれたりするんじゃない?」
「私もそんな気がする。ソル君面白いし、凄い秘密抱えてそうな気もするけど」
私が自分の事を話したらか。でも私が婚約破棄をされた令嬢であるなんて知られたらソル君はどう思うだろうか。ソル君なら、そう……私が婚約破棄された令嬢だったとしてもあんまり気にしない気がする。
タイミングを見計らって、ソル君に自分の事を話せたらいいな。本当に、であってそんなに経ってないのに、ソル君の事を私は信頼しているということに正直驚いてしまう。でもソル君って、信頼できる気がするのよね。
「ソル君が戻ってくるまで、どうしようか?」
「ねぇ、シィ姉様、私街の中見ていきたい」
「そうね、行きましょうか」
ソル君はしばらく戻ってこないだろうから、その間、三人で街の中を見て回ることにした。街中を三人で歩くと、何だか楽しい。私はミレーナとアレーナの事も大好きだから、大好きな二人の妹分と一緒にこうして異国の地で過ごせることって昔は全然考えられなかったことだった。
それが今こうしてかなっていることは驚きと同時に興奮ばかりが沸いている。
一人で、追放されて異国の地に足を踏み入れる結果となったとしても私は楽しんだかもしれないけれど、ミレーナとアレーナが居てくれたからこそ私は一人でいるよりも未来に対しての希望が湧いてくる。
三人で「あの店はよさそう」「この店入ってみようか」「あの建物なんだろう?」と会話を交わしながら街の中を見て回る。
街によって、特色が違うからどんな街を見ても面白いと思える。変わり映えのないように感じたとしてもそれぞれが違うのだ。
街の中を見ながら興奮していた私たちの目に、一組の男女が目に入る。
「あ、ソル君だ」
「となりの女性が、知り合いの貴族かな?」
ソル君が居た。
ソル君の隣には綺麗な女性が居る。市井の民ではないような気品さを持ち合わせている女性。あの美しい女性が、ソル君の知り合いの貴族だろうか。ソル君が笑ってる。親しげに笑っているのを見て、何だか胸がもやもやしたのは何故だろうか。
ソル君が親しげに笑みを零していて、あの女性がソル君にとってよっぽど親しいのだなというのがわかる。
きっと、私よりずっと前からソル君の事を知っている。だって私はソル君とは短いつきあいだから。仕方がない事は分かっているけど、何だか子供みたいな感情が沸いている自分に呆れる。
「ソル君、こっちに気づかずいっちゃったねー」
「あの貴族の女性、ここの領主の関係者かな?」
ソル君は私たちに気づくことなく、女性と消えていった。
なんだか、私一人だけ少しもやもやしている。その気持ちを妹分たちに悟られないように、私は話を変えた。
「ミレーナ、アレーナ、昼食にいかない?」
「そうだね、お腹すいてきたから行こう。シィ姉様」
「私さっき見つけたおしゃれなお店行きたい!」
ミレーナとアレーナが私の態度に気づかなかったことにほっとした。それから、三人でアレーナが行きたいといったお店に向かった。おしゃれなお店で、女性客ばかりで雰囲気の良いお店だった。そこで私はスパゲティを頼んだ。先ほど感じたもやもやを振り払うかのように私は食事をした。




