8.次の街を目指す
ギルドランクが上がったことで、私はマリアージュ様にまた一歩近づけた気がしてご機嫌だった。そのご機嫌な様子は、ミレーナ、アレーナ、ソル君にも十分伝わっていたようで、次の街へと向かう道中に随分呆れられたものだ。
「本当に、ケーシィはマリアージュ・フロネアが好きだね」
「ええ、当然よ!」
正直、何を当たり前のことを言っているのかしらといった気分になる。ソル君がその後なぜか、「これは……」とぶつぶつ言っていた。どうしたのだろうか。何か私に言いたいことがあるのかもしれないけれど、本人が言おうとしていないことなら無理やりは聞き出そうとは思わない。
本当、マリアージュ様のことを考えると楽しみで仕方がない。いつか、あの人に近づけるようになるだろうか。そう考えると、わくわくして仕方がない。いつか、いつか―――あの人のように。婚約破棄されて、追放されたからこそこうして私は自由に生きられている。
そのことに解放感と幸福を感じている。
「新しい街、どんな街かしら? ソル君は行ったことあるの?」
「ああ。次の街にはいったことがある。あの街には知り合いがいる」
「知り合いいるのね、ソル君」
「うん。貴族だけどね」
「貴族……なんだ」
ソル君は自分のことを言わないけれど、全部隠し通しているわけではない。ただどういう出であるか、などというのがまだ全然分からないけれど。
貴族の知り合いってどんな方だろうか。貴族として生きてきたから、貴族の中にも色々な人間がいるって知っている。中には面倒な人もそれなりにいる。まぁ、ソル君が知り合いだといって笑みを零している時点でそんなに面倒な相手ではないとは思うのだけど。
「ねーねー、ソル君、その人とどんな関係なの?」
「もしかして恋人とかだったりするの?」
ミレーナとアレーナが人懐っこい笑みを零して、ソル君に無邪気に問いかける。
恋人……そうね、ソル君ってとても素敵な男の子だから恋人がいたっておかしくないわ。でも何だかソル君に恋人がいると思うと何とも言えない気分になった。ソル君は恐らく貴族の出だろうし、私に婚約者がいたようにソル君にも婚約者がいる可能性だって十分あるのに。何だかちょっとだけもやもやしてしまった。
「いや、恋人とかではないよ。俺は今の所恋人とか居た事ないしね」
「えー、ソル君もてそうなのに」
「ソル君、綺麗だし遊び放題できそうなのに」
ソル君は男の子と思えないぐらい綺麗だ。なんというか、同性でさえ下手したら惑わせてしまうのではないかと思えるぐらい、本当に綺麗なのだ。
それなのに恋人がいなかったというのは不思議だ。
「恋愛とかよりも強くなりたいって気持ちとか、世界を見てみたいって気持ちの方が強かったし、何よりそんな遊びで恋人とか作りたくないし」
「ソル君って真面目だよね」
「これだけ美形なのに、驕ったりしていないって凄いよね」
ミレーナとアレーナは、ソル君に沢山話しかけている。
私は転生者だし、褒められても調子に乗ることはなかったけれど、前世の記憶がなければ今の見た目とか散々褒められたら他の人に酷い態度取ったり、将来黒歴史になりそうな態度とかしていたかもしれないとよく考えれば思う。
これだけ綺麗な見た目で、この年でこれだけ強くて、それなのに思い上がることもなく、生きていけるのは凄いと思う。
「驕るっていうのはないかな。というか、もっとすごい人知っているし。身内にもっと異性受けしている人いたし」
「それだけ強くて、ギルドランクAなのに態度も変わらないしね」
私も続ける。ソル君はその年でAランクになっても、一切態度も何も変わらない。Cランクになったばかりの私たちに優しいままで、私たちの関係性は何も変わっていない。
「それもまぁ……俺より強い人たちのことも散々知っているし、ギルドランクAになろうがなるまいが、俺は俺だし」
うん、やっぱりソル君のこと凄いと思う。私はやっぱり、ソル君みたいになりたいと思う。強くなっても、驕ることなく、自分を貫けるようになりたいと思う。
最終的な目標がマリアージュ・フロネア様のようになりたいというのは変わらないけれど、やっぱりソル君も私の目標だ。
「世の中、本当に広いのね」
「それはそうだよ。俺も散々世の中って凄いなって旅をしてて実感してる」
世の中は広い。自分が井の中の蛙でしかないことを実感させられる。でもちゃんと自分が実際どのくらいの位置にいるのか、というのを把握して行動するのが一番良いと思う。
旅をして、実際に目の前で見たからこそ、ソル君の言葉はとても実感がこもっている。次の街に着くまでの間、私は沢山、ソル君が今まで歩んできた冒険の話を聞いた。
ソル君がどんなふうに国々を回ってきたのか、どんな経験をしてきたのか。それを聞くだけでも冒険小説とかが好きだった私は胸が躍って仕方がなかったのだ。
次の街まで行く間、特に何も問題は起こらなかった。ただ、冒険話に胸を高鳴らせて道中は終わったのだった。




