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とある侯爵家嫡男の思い

「ふふふふふ」

 思わず不気味な声が私の口から洩れる。

 私はルド・ガランド。スペル王国のガランド侯爵家の長男である。つい先日まで所用で他国にいっていた。正直他国へ赴くことはあまり好きではなかった。可愛い妹にその間会えないからというのが理由である。今回は、可愛い妹が「いってらっしゃいお兄様」と言うから、送り出されて出かけた。

 戻ってきたら、妹と会話をかわそうとずっと思っていた。だけど、いなかった。妹が、いなかった。可愛い妹が、追放されていた。

 ………妹が王太子の思い人に嫌がらせをしたという罪で。シィがそんなことをするはずがない。そもそもシィは王太子に興味など欠片もなかった。シィは王妃になってこの国を自分がやりやすく変えることを目標としていたけれど、王太子に対して恋愛感情を持ち合わせているわけではなかった。

 私はそもそも、あの王太子殿下が好きではない。可愛い妹の婚約者にシィのことを好いてもいない男がいるというだけでどうしようもなく腹が立つ。

 王太子とシィの婚約は、父上が勝手に決めた。父上は、シィのことを疎んでいた。この国では女性が前に立つことをよしとしない風習があった。私としてはシィは誰よりも魔法の才能があり、魔法を使うことを楽しんでいた。そんなシィを父上は嫌っていた。嫌っていながら駒にするために王太子の婚約者にねじ込んだ。

 私としてはすぐさま、婚約をなくしたかったのだが、シィとしてみれば王妃になって女性の生きやすい国に出来るのならと受け入れていた。シィが本気で嫌がっていたのならば私は強行してでも、私の立場が悪くなろうがどうにかしたのだが。

 ……本当に、私が居ない間にシィが国外追放になるなんて。シィは婚約破棄をされたことはショックを受けていないだろう。あの子はそういう子だ。荷物をまとめてさっさと国を後にしたと聞く。シィは魔法が大好きな子だから、他国の方がのびのびと生活が出来るだろう。私は妹に幸せになってほしいから、それもよしだと思っている。しかしだ。私は、シィに会えないというのは嫌である。私はシィを愛している。もちろん、家族としての感情であるが。シィが罪深い存在であると認識されたままというのは私にとってみれば望んでいないことである。少なくとも何もしていないシィを、断罪して幸せになりましたなんていうのは認められない。

 王太子とそれをたぶらかした女に関しては許すつもりはない。私の妹を、私の手元から離さなければならなくした原因を、私が許せるはずもない。

 今すぐにあいつらをどうにかすることは出来るが、色々と調べたいこともある。それにもっと有頂天にならせて、それから潰した方がいい。徹底的に絶望を味わわせて、排除してやりたい。

 父上に関しても、王太子に婚約破棄された娘なんてといって、王太子をたぶらかした女を養子にしたいとかいっているようだが、そんなこと正直させたくない。私の妹はシィだけである。ただ、養子にして結婚をほのめかしている所を盛大に叩き潰すのもありかもしれない。

 シィは今頃何をしているだろうか。シィにはミレーナとアレーナもついていっているということだし、問題はないだろうが。ああ、でも私の知らないところでシィに悪い虫でもついていたらと思うと……。

 思わず手に持っていたグラスに力がこもる。

 シィは可愛い。見た目は大人っぽいが、中身は魔法が大好きで、年相応でかわいらしい。見た目は色気があり、中身は可愛いとか、私の妹は最高に可愛い。私に「お兄様」と呼びかけて、後ろをついてきていた昔のシィも可愛い。ああ、シィ、こちらの問題を片づけたらすぐに会いにいくからね。もういっそのこと、可愛い妹のいない国なんて用はないと国を捨てることも視野にいれよう。しかし、妹の帰ってこれる場は作っておきたい。悩みどころである。シィは《炎剣帝》に憧れているから、その国を目指しているだろう。いっそのこと、ジェネット王国に私自身が行くのも一つの手か。

 悩みどころだ。

 可愛い妹にとって、一番良い選択肢はどれであろうか。正直ガランド侯爵家を継ごうと考えていたのも、正妃になる妹の助けになるためであったし。そもそも継ぐ必要はないか。

 シィに冤罪を押し付けた連中をどうにかするまでには、私自身もどのように生きていくか考えておこう。まぁ、どのような選択肢を選ぶにしても、シィのために動くというのは当然であるがな。

 シィの笑顔が見たくなる。

 シィ、私がこの国の問題を片づけて、シィにとって最善の選択を選んで、シィに会いにいく。シィは目立つから、探そうと思えばすぐに見つかるだろうし。

 どうか、本当に、悪い虫がついていないことだけ願う。ミレーナとアレーナが傍にいるというのならば、滅多にそういう虫もつかないだろうが。ミレーナとアレーナがシィの側にいることを許した虫がいたらどうしようか……まぁ、それは居た時に考えるとしよう。





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