とある国の国王陛下の嘆き
「……全く、なんてことを」
思わず、そうつぶやいてしまった私は、スペル王国で王をしているものだ。
王妃と外交で他国に赴いている間に、息子がやらかしていたという事実を聞かされた。
王命で婚約をした侯爵家令嬢のケーシィ・ガラント嬢との婚約を勝手に王太子が破棄をし、国外追放までやらかしていたのだ。それも、フィーラという男爵家の庶子に惚れてしまったからという勝手な理由でである。
……まさか、外交に出かけている間にこんなことになるとは思ってもいなかった。それにケーシィ嬢は、やってもいないだろう罪に反論することもなく去って行ってしまったという話だ。
ケーシィ嬢は、周りには知られていないことだが、魔法の才能がこの国で誰よりもある。それを私は知っている。彼女が魔法に心惹かれ、魔法について学び、あの歳にしては恐ろしいほどの魔法の使い手であるということも知っている。ケーシィ嬢を、我が国から出してしまったことは息子が思っている以上に大事だ。
ケーシィ嬢が追い出された今、おとなしくしてないだろう者が二人ほどいる。
一人は、我が国で魔法師団をまとめ上げている団長のジガルダン。こやつは、ケーシィ嬢の才能を誰よりも喜び、可愛がっていた。女性が魔法を使うなんてはしたないといわれているわが国の中で進んでケーシィ嬢に魔法を教えていた。……彼女が王妃になるならと喜んで我が国に力を貸していた。魔法師団という地位に納まっていた。だから魔法師団長をやめてしまうのではないかという危惧がある。
もう一人は、ケーシィ嬢の実の兄であるルド・ガランドである。ルドは、ケーシィ嬢をそれはもう可愛がっている。そしてルドは有能な男である。ケーシィ嬢の父親であるガランド家当主は、女性なのに魔法を習ったりしていたケーシィ嬢を疎んでいたが、ルドはケーシィ嬢が好きなように動けるように手伝っていた。ケーシィ嬢が王妃になるのを楽しみにしていた。何れ実の父であるガランド家当主を追い出して、ケーシィ嬢の助けになるといってきかなかったのだ。それが、帰ってきてみればケーシィ嬢を追い出していたなど……、行動に移さないわけがない。
そもそも、ケーシィ嬢を次期王妃としていたのは、私や王妃がこの国に変革を求めていたからだ。他国では女性の社会進出が進んでいる。ケーシィ嬢が憧れていたマリアージュ・フロネアなんてその代表だろう。我が国では女性なのにと色々言われているが、かの『炎剣帝』はすさまじい実力を持っている英雄である。女性でありながら剣をとり、魔法を扱い、戦場にたつ。それでいて誰よりも功績をあげている。
そんな戦争面で活躍する女性もいれば、女性当主として貴族社会で功績をあげているものや、学園で教鞭をとっているものなど、そういう優秀な女性は居るのだ。
女性でも活躍できる国にしたいと彼女はいっていた。それは私も王妃も必要だと思っていた変化だった。いつまでも、女性は家にいるべきだといっているのは時代遅れだ。女性でも社会進出出来るようにしなければ。それでいて埋もれている優秀なものを発掘していかねばとそんな風に思っていた。
その計画のためにも、ケーシィ嬢が王妃となることは望ましいことだった。ケーシィ嬢ならば、王妃となったならば結果を出しただろう。
王妃もケーシィ嬢のことを可愛がっていた。私自身も、ケーシィ嬢が本当の義理の娘になることを望んでいた。
それが、パアである。
そもそも侯爵令嬢を明確な証拠もなしに国外追放などといった処分を勝手にしていいわけはないのだ。あの息子ときたら、私や王妃、そしてルドがいれば反対されるだろうということが分かった上で、私たちが居ない間にことを起こしたのだ。そのようなものには、王太子としての資格もない。王となられては困る。
息子が王になれば、証拠もなしに、好き勝手に処罰をする愚王が生まれるだけである。
……本当に、我が息子がここまで愚かだとは思っていなかった。今だって、ケーシィ嬢よりフィーラという男爵家の庶子の方が王妃に相応しい、と悪びれた様子もなかった。謹慎処分にはしているが、まだ処罰は下していない。
息子がケーシィ嬢を断罪した理由であるフィーラ嬢を苛めたという件を調べ上げて、ケーシィ嬢の無実を証明してから正確な処分を下す予定だ。というか、何よりもルドが「ただではすませない」と言っていたから、本当にただでは済まないだろう。私としても家族であるルドが望む処分を下してやった方がいいだろうと思っている。
ひとまず、王太子である息子はまだ把握もしてないことだが、まだ二歳の第二王子が王太子になることは決定している。これから王太子としての教育をするようにという伝達も教育係にもした。
「……無実を証明したとして、ケーシィ嬢は戻ってきてはくれぬだろうし、全く困ったことをしてくれたものだ」
ケーシィ嬢は無実を証明したとしても戻ってはきてくれぬだろうと私は思っている。
戻ってきてくれて、我が国のために動いてくれるのが一番嬉しいが、無理だろう。本当に、息子は困ったことをしてくれたものだと私はため息を吐いた。