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16.そして街をあとにする

 アイラールドの街を後にする。

 それは私自身が決めたことだけれども、いざ、あとにしようとしてみると寂しく感じてしまう。

 宿屋の娘であるユイレンちゃんや、ギルドの受付嬢のラカさん、そういった親しくした人たちにもこの街を後にすることを告げた。このまま永住しちゃえばいいのにとも言われたが、それを断った。心が揺らがなかったわけではないけれど、私はマリアージュ様のいる国に行きたかった。

 また、この街に来るからと、そういう約束をした。

 私はこの街が好きだなと思っている。とても穏やかで、優しい街。私が初めて冒険者登録をした街がここで良かったって、本当に思える。

 そのくらい、好きな街。

 「シィ姉様、ちょっと寂しいね」

 「ええ」

 「でも、私はこれからどんな場所に行けるんだろうって楽しみだなー」

 「それは、私もよ」

 ミレーナとアレーナとそんな会話を交わす。

 寂しいという気持ちは確かな気持ちだ。この街のことが好きで、この街が心地よいって感じているのは確か。でも、同時に新しいことへのわくわくが大きいのも確か。

 私にとっては、冒険者生活は新しいことばかりだ。侯爵令嬢としての生活とは、正反対の生活。だけれども、充実していて、楽しくて、私らしく生きられるのが嬉しいと思う。

 「……これから、何が待っているのかしら」

 「分からないけど、きっと楽しいよ。シィ姉様」

 私のつぶやきにミレーナがそういって笑った。

 楽しいと、いいな。私はその呟きにそう思う。

 「楽しいんじゃないの? ケーシィって箱入り娘って感じだし色々経験出来ると思うよ」

 いつの間にか、ソル君が近くに来ていた。これから街を出ようってことで待ち合わせをしていたのだ。

 「そんな感じするの?」

 箱入り娘、というのは間違いでないとも言える。私は祖国にいて、そこから外に本格的に飛び出すのは初めてだもの。色々と経験したことがないことが沢山ある。

 「うん。するよ。そういえばさ、聞きたいんだけど」

 「なあに?」

 「なんでジェネット王国を目指そうとしているの?」

 ソル君がそう問いかけた。

 そういえば、ジェネット王国に行くともいったし、ソル君がついてくることには了承したけれど、どうして私たちがジェネット王国を目指そうとしているかはソル君には伝えていなかった。

 「シィ姉様にはね、憧れている人がいるんだよ!」

 「だからね、ジェネット王国に行きたいって、ずっと言ってたの」

 ミレーナとアレーナが私が口を開く前にソル君にそう告げていた。

 「憧れている人?」

 「ええ」

 私はソル君の言葉に頷いてから、その、憧れの人の名を口にする。

 「私、ジェネット王国の『炎剣帝』、マリアージュ・フロネア様に憧れているの」

 「ぶっ」

 ソル君、何故か、私がその名を口にした瞬間咽た。

 「どうしたの? マリアージュ様に憧れていたら駄目?」

 「……いや、駄目じゃない。続けていいよ」

 「幼い頃にね、マリアージュ様の話を聞いて憧れたの。私の住んでた国まで伝わっていたことがどこまで本当か分からないけれど、それでも凄いなって思って。いってみたいって思ったの。マリアージュ様に会える事は……難しいかもしれないけれど、マリアージュ様の国でマリアージュ様について知りたいって思って。それにジェネット王国は魔法が盛んだから魔法を学びたいって思って……」

 「ケーシィは本当、かあ……マリアージュ様が好きなんだね」

 ソル君、様子がおかしいけど、大丈夫かしら。というか、言いなおしたようだけど、なんて言おうとしたのだろうか。

 「ええ。こんな理由でジェネット王国に行きたいって思っているだけなの」

 「いいんじゃない? そういう理由で目指しても」

 憧れの人の国に行きたい、そんな子供みたいな憧れでジェネット王国を目指すといった私にソル君は笑ってくれた。

 「そういえば、ソル君は故郷がジェネット王国っていっていたけど、ずっとジェネット王国にいたの?」

 「そうそう。十一歳で飛び出すまではずっといたよ。だからケーシィたちに王国の案内もできるし、色々楽しんでもらえると思うから、到着するの楽しみにしててくれていいよ」

 「そうなの? なら、楽しみにしておくわ」

 ソル君は十一歳までずっとジェネット王国にいたらしい。なんだかソル君のことを知れることが嬉しかった。

 「シィ姉様、ソル君、いつまで話しているのー?」

 「もう街を出るんでしょうー?」

 しばらく話し込んでいたら、ミレーナとアレーナにそういわれた。そして会話を一旦終え、私たちは街を出る。

 ジェネット王国に向かうまではそれなりに距離があるから、これからいくつもの町や村を経由していくことになる。すべてが、初めて見る景色だ。

 私は、これからのことを思って、胸を高鳴らせた。







 第一章 完

 

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