14.ゴブリンの集落の殲滅2
これだけの魔法を使う事は基本的にない。ゴブリンたちを飲み込んで、閉じ込めて、そして地面が沈んでいく。水の中から這い出ようともがいているゴブリンたちを逃さないように魔力を制御する。魔力制御を怠ってしまえば、魔法は崩壊するだろう。私が魔法を制御している間、ソル君やほかの冒険者たちが魔物を引き付けてくれていた。大きな魔法を行使しながら他にも手を回せる人ってそうはいない。少なくとも私は経験も少ないし、まだそういう高度なことは難しい。
視界の中のゴブリンたちが息をしなくなったのを確認してから、私は制御を解く。そしてそこにはゴブリンの死体が散乱する。
それはあとから対処をするとして、まずは生きているものを排除していくこと。
私はソル君の方を見る。
ソル君は、
「ケーシィの魔法は本当に凄いね」
とそんな風に褒めてくれた。
何だか褒められると嬉しくなった。私は祖国で魔法を大々的に使うことは出来なかった。好きで、研究はしていて、習ってもいて、だけど、人前で行使することもできなくて。寧ろ使うことは駄目だといわれていた。
それが他の地でこうして認められる。そして私が頑張れば、その分だけこの殲滅作戦が進んでいく。それは嬉しいことだと思った。そしてもっと頑張ろうと思った。私たちが居る場所とは違う場所でも、争いの音が聞こえてきたからあちらも奇襲をしかけたのだろう。あとは、そのままの勢いでゴブリンの集落を排除する。
奇襲である程度の人数は排除出来たはずだ。成功したという合図が魔法で宙に挙げられていたから。
ソル君たちに時間を稼いでもらいながら私は、魔物たちに向かってどんどん魔法を行使していった。これだけ沢山の魔力を使うのも初めてだった。だけど、魔力量に関しても国を出る前に調べた限りには一般的に見て多い量を私は所持していたから、まだ余裕はある。
「ケーシィ、どんどん魔法使っているけど大丈夫?」
「ええ。今の所問題ないわ」
ソル君の気遣いに、そう答える。まだ、会話を交わす余裕はぎりぎりあった。でも、そんな余裕は私たちの方に向かってくる一際大きなゴブリン———要するにゴブリンキングと呼ばれる存在を前になくなった。
ゴブリンキングだけではない。ゴブリンのリーダー格の存在もいた。その場にいるのは、私たちのグループだけだ。こちらに向かってくるなんてついていない。私が放った水の玉はゴブリンキングの持つ棍棒で振り払われたりもした。ただのゴブリンならああいう魔法でもどうにかなるけれども、やはりゴブリンキングは一味違うらしい。
「俺、行く」
ソル君は、一人でゴブリンキングにとびかかった。長剣を手に、躊躇いもせず向かった。ソル君はゴブリンキングを恐れてはいないらしい。本当に、凄い度胸だ。
私たちのグループのうち、ゴブリンのリーダー格と取り巻きのゴブリンたちに多くのものが向かっていった。ソル君の手助けをしたいと考えたものも私を含めて多く居たが、邪魔になりそうで中々手助けが出来そうにない。
それにしても、ソル君は凄いと改めて思う。ゴブリンキングの方が体も大きくて、力も強いと見るからにわかるのに、その振り下ろされた棍棒を長剣で受け流している。剣術の技術が、高いのだろう。
どうにか、ソル君の邪魔にならないようにゴブリンキングを魔法で攻撃出来ないか、そう考える。けれど、ソル君を巻き込まずに攻撃出来るチャンスがつかみにくかった。
そうして悩んでいる隙を突かれてゴブリンたちに襲い掛かられそうにもなってしまった。幸い他の冒険者が助けてくれたから問題がなかったが、「ちゃんと、周りを見なさい!」と注意されてしまった。
今の少し余裕をもって殲滅に励めるのは、ソル君がゴブリンキングというこの集落の一番の敵を引き付けてくれているからにほかならない。ソル君がひきつけてくれて、ソル君が対抗してくれているからこそ他のゴブリンたちに対処しやすい。
周りを警戒しながら、他の冒険者を巻き込まないように時折魔法を行使する。だけど、ソル君の方も気にする。ソル君とゴブリンキングの戦いは中々互いに決定打を打てないでいるように見えた。ゴブリンキングはソル君を倒せないことに焦っているようにも見えた。
どうにか、ソル君が決定打を作れるチャンスを作れないだろうか。
私はソル君の方を気にしながら、それを考えていた。このまま決定打を持てなければ、ソル君は負けてしまうかもしれない。そうしてずっと見ていたら、ソル君が上手く受け流せなかったのか、棍棒を受け止める形になってしまった。あの態勢では、ソル君が押し負けてしまう! そう思った私は、
「炎よ! 彼の者に向かいなさい!」
ゴブリンキングの身動きも少し止まったのをいいことに、魔法を唱えたのであった。