9.ゴブリン退治
「私の思いにこたえて。風よ、風、全てを切り裂きなさい」
魔力を乗せる。言葉に魔力を乗せて、魔法はなされる。別に詠唱をしなくても大丈夫だけど、私は詠唱をしたほうが魔法を上手く行使出来る。
私の憧れのマリアージュ様なんかは、結構詠唱せずに魔法を使ってしまうほうらしい。本当に憧れる。
魔法を行使するのは、気持ち良い。魔法を使うと、とても気分が良くなる。
私は魔法が好き。魔法を行使するのも好きだし、魔法の研究をするのも好き。魔法のかかわるものならなんだって好きだって言える。
私の発現させた魔法は、風の刃を生み出して相手を切り裂くというもの。風を猛スピードで動かし、ゴブリンの命を狩っていく。制御を誤ると味方側の命を奪いかねないから、制御は毎回緊張しながらやる。慣れてきたからといって、気を抜いた行動をしたら大変な事になる可能性もあるもの。
「シィ姉様、流石!」
「私たちの出番がなかった……」
魔法を使える事が嬉しくて気合いを入れて行使したら、現れたゴブリンの命を全て奪ってしまった。ミレーナはキラキラした目で私を見ているけれど、アレーナは自分たちの出番がなかったと落ち込んでいた。
「ごめんなさい、魔法を使える事が嬉しくてつい……」
「シィ姉様、魔法大好きだもんね」
「仕方ないなぁ。シィ姉様だもんね」
そんな会話を交わした後は、討伐証明部位である耳を切り落とす。残った部分は全て燃やして処理を行った。
それらの処理を終えて、私たちは農家さんに報告に行った。依頼主であった農家さんは私たちが短時間でゴブリンを退治した事に驚き、それでいて感謝の心を示してくれた。誰かに感謝をされるというのは何だか好きだ。
それから、三人で並んで歩いてこのままギルドへ報告して帰ろうと考えていた時の事だった。
音がした。
戦闘音。
私たちはそれが聞こえた瞬間に顔を見合わせて、頷き合う。
「シィ姉様……」
「誰か戦っているみたいだし、見に行こう」
誰かが戦っていて、救援が必要ではない状態なら問題はないけれど、危険な状態だったのなら助けたい。
私はそう思って二人と共に音のする方へと向かった。
そして向かった先で見た光景に驚いた。沢山の魔物が居た。それは、ゴブリンだった。十数匹のゴブリン。その中心に一人の人物が居る。
あの男の子だった。ソロで、冒険者をしている男の子。ソル君という美しい少年。
……たった一人で、ただ剣を振るう。その姿は、動きがどうしようもないほどに洗練されていて、思わず見惚れてしまうほどだった。鮮やかな動き。無駄のない動作。一つ一つの動作で確かに、ゴブリンの息の根を止めていた。
「……シィ姉様? いかないの?」
「いいえ、行くわ」
思わず見惚れて一瞬立ち止まってしまった私に、声がかけられる。その言葉にはっとなって私は行動を開始する。
「風よ、大いなる風を起こし、そのものを巻き込みなさい」
魔法を行使する。
少年———ソル君に被害がいかないように、きちんと制御をしながら。
「手伝うよー」
「えい!」
ミレーナとアレーナもそういいながら、ソル君のお手伝いをする。ソル君は、一瞬驚いた顔をして、その後「助かる」と一言告げた。
それにしても、ソル君は魔法はあまり得意ではないのかもしれない。相手が大人数の時は、剣で相手をするよりも魔法で対処する方が楽だと私は思うのだけど。でも、魔法があまり得意ではなくても、こうして一人で旅をしているというのは凄いと思えた。
それから、私たちとソル君でその場にいたゴブリンたちを殲滅した。
「お姉さん、この前会ったよね? ありがとう」
ソル君は人懐っこい笑みを浮かべて、そう言ってくれた。前に私と少しだけ話した事を覚えていたらしい。
「ええ。私はケーシィというの。貴方はソル君よね? 名前は聞いた事あったの」
「ケーシィね。そっちの二人は?」
「私がミレーナで、こっちがアレーナだよ。よろしくね、ソル君」
まず、自己紹介をしたのはきちんと名前を教えた事がなかったからだ。それにしてもちょっとしたゴブリン退治にきたつもりが、これだけ大勢のゴブリンを退治しなければならない事になるとは。
「それにしても、ケーシィ、ギルドに登録したばかりだといっていなかった? 魔法、凄いね」
「私魔法が好きで冒険者になる前から、ずっと学んでいたから」
「ふぅん、そうなんだ。いいね。ケーシィってなんか戦う事出来ない人妻みたいな雰囲気なのに、魔法で一掃するから驚いたよ」
「……人妻って……。私まだ15歳よ?」
人妻扱いされて、凹んだ。いや、確かに私が実際年齢よりも上に見える事は知っているけれど……。私まだ15歳なのに。
「え、そうなの? ケーシィ凄く大人っぽいね」
「シィ姉様は凄く大人っぽいんだよ」
「シィ姉様はとても凄いんだよ。ちなみに私たちはソル君と同じ年だよ!」
そういう会話を交わした後に、倒したゴブリンたちの討伐部位を切り落とし、他の部分を処分して四人でギルドに戻る事になった。