プロローグ
私、ケーシィ・ガランドはその日、王宮に滞在していた。
未来の父母である国王陛下と王妃殿下が外交で国を外しているという状況において、次期王妃である私は魔法師棟に顔を出していたのだ。
この国、スペル王国において女である私が男より目立つ事はよしとされていないので秘密裏にだが。
魔法師団長との語らいの中で、「ケーシィ様が王妃になるのが楽しみです」と言われた。私自身は王妃という地位には興味がないし、王太子であるカラッラ様に対して恋愛感情があるわけでもない。
ただ目的があり、その目的のために王妃という地位を利用する気が満々というただそれだけの話で。でも目的のためにも私は王妃になることは望んでいる事だったのだ。
そも目的を知っているのは義理の父母と魔法師団長ぐらいだが、私は目標に向かって前に進めていると自分で思っている。だからほくほくした顔で王宮を歩いていた。
そうしたら、
「ケーシィ・ガランド!!」
突然、名を呼ばれた。
振り向けば、私の婚約者にあたるカラッラ様が居た。
その後ろには見慣れぬ女の子と、カラッラ様の側近候補のご友人たちが居る。
なぜか私の事を睨みつけておられて、私にはその理由はさっぱり分からなかった。
それにしても女一人で、男が五人って凄い逆ハーレムのような状況だななどと私は考えていた。
「カラッラ様、どうなさいましたか?」
「どうなさっただと、貴様、自分がしたこともわからないのか!」
「何を言っていらっしゃるの?」
正直何を言っているのか私にはさっぱりわからなかった。
だというのにカラッラ様たちは、口々に言うのだ。
「貴様がフィーラを階段から突き落としたのだろう」
「証拠は挙がっているんだぞ」
「貴様が全てやったんだろう」
「学園に来ていない間の嫌がらせも貴様の指示だと証明されている!」
と、そんな風に。
ただ言いたいのは、フィーラってまず誰だっていう事だ。多分カラッラ様と一緒に居る女の子なんだろうけれど……、私は学園には最低限しか通っていないし、そもそもフィーラさんとか初めて見たんだけど。
何を言っているのかさっぱりわからないが、どうやらフィーラさんが嫌がらせをされて私が行ったことになっているらしい。
「私はそんなことしておりませんが」
してないよ! 会ったのも初めてだよ! とは、王太子の婚約者としてそんな口調では言わない。お嬢様口調もすっかり慣れてしまったけれど、やっぱり普通に喋る方が好きだ。でも王太子の前で取り繕いをはがす事はする気はないけれど。
「嘘を吐くな」
カラッラ様は私が幾ら言い募っても、それを撤回する気もないようで、挙句の果て、
「フィーラを突き落したのは貴様だとわかっている! 貴様のような奴を国母になど出来ない! 婚約を破棄する! 次期王妃に向かってそのような事をしたのだから国外追放を言い渡す」
とまで言ってのけた。
その日、私は婚約者であった王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡された。