シャルルと隊長は開発が済むまで本番はイタせませんってば絶対に!
※がっつりBL
※リバ要素有
秋も深まり、この南の港近くの街を彩る街路樹の葉はすっかり色を変えていた。それと同時に気温はめっきりと下がり、肌寒さを感じる日々が続いていた。そんな中で、この南の港に居を構える南騎士団は先日、港での寒稽古を終えたばかりである。
隣国の騎士団との合同訓練が決まったのはそんなころのことだった。
「いいかお前ら、奴らにナメられるようなマネだけはすんじゃねーぞ」
鍛錬場で隊長のげきが飛ぶ。
シャルルはそれに応える団員の中に混ざっていた。
この国の騎士団と隣国の騎士団の関係は少々複雑である。
今でこそ本国と隣国の関係は良好であるが、ほんの数十年前まで両国は戦争状態だった。それが終結したのが30年ほど前になる。和睦という形ではあったのだが、世間は事実上本国の勝利ととったのだった。それは、本国と隣国の国力の差がそう思わせたのであった。
とりわけその意識が強いのは隣国の方であった。本国は勝利者として我々を見下していると、臣下のように思っているのだと。本国の王にそのような意図は無い。しかし国民にそのような意図が無いかといえば、そうとは言えなかった。そのような国民感情を、本国は30年をかけて鎮静の努力を続けてきた。それでもなお、そんな国民感情を一掃することはできないでいるのである。
そしてそれは隣国も同様だった。隣国にはいまだ本国を一種ライバル視するような風潮がある。その風潮が一層強いのが、隣国の騎士団なのである。しかしそれが戦争賛成までに発展するような感情かといえばそうではなく、前述したようにそれは”ライバル視”程度の感情である。
ただし、その”ライバル視”程度の感情が本国の騎士団と隣国の騎士団の関係を少々複雑にしている一番の原因でもあるのだった。
やられたらやりかえせ。
我が騎士団の老齢に片足つっこんでいる総長は、慈愛に満ちた表情をしながらもそんな持論を持っている。そしてそれは隊長をはじめ騎士団の団員の間に広く浸透しているのだった。そんな騎士団が隣国の騎士団からライバル心のこもった目で見られたならどうするだろうか。もちろん、こちらもライバル心をむき出しにして睨み付けるのである。
そして、そんな両者が同じ空間で同じ時間に訓練を行う合同訓練などというものが催されたならどうなるだろうか。もちろん、あちらこちらで視線同士がぶつかり火花が散り木剣がぶつかりあうことになる。
さらに、そんな両者が同じ空間で同じ時間に酒を飲んだらどうなるだろうか。
もちろん、視線同士がぶつかり火花が散り、酒の飲み比べという形で男同士の意地がぶつかりあうことになるのである。
「隊長、やってんなあ」
「無茶しなきゃいいけど、いや、あの人なら無茶するんだろうなあ」
「はは、うちの隊長もだよ」
とはいえどこにも争いを好まない人種は居る。こちらの騎士団にも、あちらの騎士団にもだ。
シャルルは数人のそういった仲間と共に男同士の意地のぶつかり合い―飲み比べの勝負をしている両騎士団の隊長を話題にして飲んでいた。状勢はどうやらこちらの騎士団隊長の劣勢らしかった。隊長の目が据わっている。シャルルはそんな隊長を見てひそかに胸をときめかせていた、カッコいい、と。追い詰められている姿なのにもかかわらず、目の据わった隊長はいつもより男らしさが増していた。
不思議とそんな隊長を見つめていると酒がすすんだ。シャルルは酒を飲もうとグラスを手にして、手に持ったグラスの重さで酒がもう少ないことをさとるとそれを一息に飲んだ。そして新しい酒をグラスに注ごうと酒瓶を手にしたところでそれに気が付いた。
「あ、空になったか」
「あれ、もう?」
シャルルの言葉に仲間は驚きの目を向ける。シャルルはそんな視線には動じず、空の酒瓶に用は無いとばかりに手をはなした。
「新しいの、持ってくる」
「ま、ほとんどお前が飲んだもんな、よろしく」
「あー俺、もう水にするわ」
「ん」
仲間のリクエストも聞いたシャルルはしっかりとした足取りで新しい酒瓶と水を取りに、込み合った店内を歩いていくのだった。
カウンターで酒と水を受け取って、戻ろうとした時だった。
突然、酒場に何か大きなものが倒れたような鈍い音が響いた。シャルルは驚いて音のした方を見て、その光景に息をのんだ。
「隊長!」
そして気が付いたときには、倒れこんだ隊長のもとへ駆け寄っていたのだった。あるいはシャルルが手に持った酒瓶を放り出していたならもっと感動的だったかもしれない。しかし右手に酒瓶、左手に水の入った瓶を持ったまま仰向けに倒れた隊長の脇にしゃがみこむシャルルは少しだけ感動を台無しにしていた。シャルルは手にした2本の瓶を床に置くと、隊長の後頭部に手を回して少し持ち上げ、心配そうな顔を隊長に見せた。
「もう隊長、無理はしないでくださいって言ったじゃないですか」
「おう、シャルル…」
「さ、水を飲んでください」
シャルルは隊長の背中に手を当てて体を起こすと、水の入った瓶を隊長に差し出す。隊長は「これ水だったのか」とつぶやきながら受け取るとそれをあおった。ぷは、と息をついて口元をぬぐう隊長に、どこか癇に障る声が投げかけられた。
「おう、もうオネンネか?威勢のいいこと言っといてその程度かよ、へ、俺はまだまだいけるぜ」
赤い髪をかきあげてにんまりと笑い、大樽のテーブルの向こう側からどこか色気を含んだ目で隊長を見下ろす男。この男こそが、隣国の騎士団で隊長を務める人物、そして今、酒の飲み比べ勝負でこちらの隊長を負かした男だった。
その男を、シャルルがきっと睨み付ける。
「イスル隊長」
「うん?どうした、かわいこちゃん」
シャルルが名前を呼ぶと、隣国の隊長―イスルは自分を睨み付けるシャルルを値踏みするような目つきで見た。舐めるようなその目つきはどこか気持ち悪いと感じたが、シャルルはなおもイスルを睨み付ける。
「まだ、余裕があるというのなら、次は俺と勝負をしていただけますか」
「ほう!」
「な、シャルル」
シャルルの言葉に、イスルは目を見開いて感嘆の声を上げ、隊長は驚いてシャルルの腕をがしと掴んだ。そんなことは許さないとばかりに強く掴まれたが、シャルルはゆっくりと隊長の顔を見て、それから自分の腕を強く掴む隊長の手にそっと自分の手を添えた。いつになく強い瞳が、隊長の群青色した瞳を見据える。
「隊長がやられて、黙ってはいられません」
「それは嬉しいが、お前があいつとやるこたねえだろ」
「隊長」
シャルルが、やはりいつになく力強い声で訴える。
「やらせてください、俺は、奴らにナメられるようなマネだけは、したくありません」
「シャルル…」
かつてシャルルが、こんなに強い瞳で自分を見たことがあっただろうか。あるいは酒が入っているからなのかもしれない。そんな初めて見るようなシャルルに、隊長はごくりとつばをのんだ。いつもの、大人しくて、かわいいシャルルとは違う。そこにいるのは、一人の立派な、頼りがいのある男だった。
「そう、だな」
シャルルの腕を掴んだ手から、ゆるやかに力が抜けていく。隊長がにやりと笑った。
「奴らにナメられんなってな、俺の言ったことだったな」
「はい」
「やるなら勝てよ、シャルル」
「当然です」
隊長に応えてにこりと笑うシャルルの顔は、とても頼もしくて、とても美しかった。
「へえーなるほどね」
シャルルと隊長の空間を引き裂く声がした。イスルが、やはりにんまりとした表情でシャルルと隊長を見下ろしている。その目は愉快そうにゆがめられていて、見くびりを隠さないそれは見る者に不快感を与えた。
「そのかわいこちゃんは、お前のお気に入りってわけだ、こりゃ面白い勝負ができそうだな」
イスルの露骨に人をバカにしたような態度は、シャルルに睨まれても、また隊長に睨まれても崩れることは無い。それどころか、やはりシャルルをどこか値踏みするような、舐めるような目つきで見るのだった。そしてまるで捕食者のように、ぺろりと自分の唇を舐めた。
「なにか、賭けようか」
「賭け、る?」
イスルを睨み付けていたシャルルの目に、困惑が映った。
「俺は、賭けるようなものはなにも」
「あーいいの、モノじゃないから」
「どういう、ことですか」
明らかになにか企んでいる、というような態度のイスルをシャルルがきっと睨み付けると、イスルはその企みを告白した。
「賭けるのはかわいこちゃん、あんた自身だから」
「俺?」
「な、おいイスル!」
イスルの告白に、隊長が我慢ならないとばかりに吼える。しかし大声を出したせいか、直後に頭をふらつかせてしまう。ふらついた頭を押さえつつ、隊長はぎろりと、普通の人間ならば足がすくむような殺気のこもる目つきでイスルを睨み付ける。
「てめえ…調子に乗ってんじゃねえぞ」
「負けた人は黙っててくれるかなー?」
隊長の地を這うような凄みを効かせた警告にもイスルは動じない。そんなイスルを隊長はますます殺気のこもった目つきで睨み付けるのだが、イスルはふいとそこから視線を外した。
そして、愉快そうに歪めた目で、シャルルを見据える。
「どうするかわいこちゃん?もっとも、この条件をのまなきゃ俺は勝負を受けてあげないけどね」
にまにまと笑いながら、イスルは決断を迫る。対するシャルルの答えは、決まっていた。
「わかりました、その条件をのんだ上でもう一度、勝負を申し込みます」
「シャルル!」
シャルルの答えに隊長がシャルルの名前を呼んだ。よせ、とそう訴えるように。それでもシャルルの答えは変わらなかった。シャルルは隊長の、いつになく不安に揺れた、群青色した瞳をじっと見つめた。いつものシャルルとは違う、吸い込まれそうなその強い瞳にじっと見つめられると、隊長はそれ以上何も言えなかった。
シャルルは隊長の傍に置かれていた水の入った瓶を手に取ると、それをあおった。ごくり、ごくりとシャルルがたくましく喉を鳴らす音が聞こえる。そして瓶の中の水をすべて飲み終えると、シャルルはぶはと大きく息をついた。ぐい、と濡れた口元を乱暴にぬぐう仕草は、隊長の目にとても美しく映った。
自分の目の前にいる、こんなにも頼もしい存在が、本当にシャルルなのだろうかと隊長は思わず疑ってしまう。けれど、「では行ってきます」と自分に笑いかける顔は、たしかに、愛しいシャルルだった。
シャルルとイスルが、大樽のテーブルを挟んで向かい合った。大樽の上にはジンの入った酒瓶がいくつも並べられている。そして、大きさの同じ2つのグラス。
「じゃ、まずは一杯目だ、乾杯」
「…いただきます」
シャルルに色っぽい視線を送りながらグラスを高く掲げてみせるイスル。シャルルは無表情でそれを一瞥すると、最低限の礼儀とばかりにグラスを少しだけ上へ持ち上げてから中身を一息に飲んだ。一杯目。
「おー、いい飲みっぷりだね、ほれぼれする」
二杯目。
「ま、体を賭けるったって、一晩相手してくれるだけでいいからさ」
三杯目。
「もちろん、その一晩でかわいこちゃんの心も、体も、虜にする自信はあるけど」
グラスを一杯空にするごとに、イスルの軽口が続いた。たまりかねた隊長が「黙って飲め」と睨み付けてもそれは止まらない。
それにしてもかわいいね。そういえば隊長とはどこまでやってる?隊長ともやってないこと俺とやっちゃったら申し訳ないもんね。ああ、でもそれもまたいいかもしれない。俺、何も知らないような子にそういうの教え込むの、好きだったりして。
イスルの軽口は続いたが、ある量を越えたあたりからその様子が変わり始めた。
「はあ、えーと、うん、かわいこちゃん、すごいね、お酒好きなの?」
明らかにイスルからは勢いが失せていた。こころなしか顔色も悪いようだ。もはや大樽のテーブルに片肘をついて、ようやく体を支えているといった状態だった。
そして対するシャルルは、顔色一つどころか、表情すら変わらないままグラスにジンを注いでいる。隊長はいつのまにか軽口をたたくイスルを睨み付けることも忘れて、そんなシャルルの背中をぽかんと口を開けて見つめていた。
かつてシャルルの背中が、こんなにも大きく見えたことがあっただろうか。それは、酒のせいなのか、それともシャルルがもともと持っていた魅力なのか。ずっと、かわいいとだけ思っていたシャルル。シャルルを初めて見つけたあの日からずっと。自分の腕の中で、涙を流して快感に耐えるシャルルが、かわいいと思っていた。
けれど今、生娘のように頬を赤らめる隊長の胸の内を占めるのは、シャルルをかっこいいと思う、たしかにそんな気持ちだった。
「な…なに、この子…、人間、じゃ、…ない」
ばたり、と、イスルが倒れた。
途端に、酒場に野太い声で歓声が上がった。「シャルル、よくやったー!」と自分を褒めたたえる言葉が聞こえているのかいないのか、シャルルの表情はそれでも変わらなかった。嬉しいとも愉快だともいった顔はしない。ただ、淡々と、酒瓶に残った最後の一杯をグラスに注ぐと、一息にそれを飲み干した。
グラスを置いて、はあと大きく、酒のにおいをさせた息をつく。シャルルは大樽のテーブルの向こうに倒れたイスルを一瞥することもなく、振り返った。
隊長は、シャルルが勝利した瞬間も、ただ目の前にあるシャルルの背中を見つめているだけだった。そして、シャルルがこちらを振り返って、ふわりと笑いかけた今も。
「隊長、俺、勝ちました」
隊長は、ただ顔を赤らめたままシャルルのキレイな笑みを見つめて。
「…おう」
そう言うことしかできなかった。
「なあ、シャルル…俺今からすごく恥ずかしいこと言うんだがな…」
「はあ」
「俺…今なら、今のシャルルになら、抱かれてもいいと思うんだ…いやむしろ抱かれたいというか…」
「はあ、寝言は寝てから言ってくださいね隊長」
「寝るだなんてシャルルったら、大胆…」
「だから寝言は隊長一人で寝てから言ってくださいっつってんでしょう」
「なんでいつもより言葉が辛辣なのかわかんねえけど、今はそれもまたいい…」
「聞いてんですか隊長、まったくめんどくさいですね」
隊長とシャルルは暗い廊下を歩いていた。足にうまく力が入らない隊長は、シャルルの肩を借りてなんとか歩いているがその足元はおぼつかない。シャルルはそれを必死に支えて隊長を部屋まで送り届ける、という使命を果たそうとしていた。そんなシャルルの胸中を知らずなのか、なにやらいつもよりさらに面倒くさい酔い方をしている隊長に、酒のせいかいつもより辛辣なシャルルがもう隊長をこの場に捨て置こうかと思い始めたころ、ようやく隊長の部屋の前へとたどり着くことが出来た。
シャルルはなんとか扉を開くと、月明かりに照らされた部屋の中へと隊長を連れて入っていく。
「隊長、部屋に着きましたよ」
「おう…」
隊長に声をかけながらシャルルはベッドへと近づいていくと、よいしょと隊長をベッドへと座らせた。それから隊長から体を離そうとしたその時。
「わ、おわっ」
突然シャルルの手首が隊長に掴まれた。そしてそのまま引っ張られると、隊長もろともベッドに倒れこんでしまう。気が付けば、シャルルが隊長の上に覆いかぶさるような形になっていた。
「たいちょ、あ」
「シャルル」
あわてて隊長の上から体をどかそうとするシャルルの腰に、隊長の腕がからみついた。その腕にぎゅうと拘束されて、シャルルは動くことができなくなる。
こんな風に隊長を上から見下ろすことは、初めてだった。シャルルの胸がどきんと音をたてた。
「隊長、眠いん、でしょう?だったら、一人で、寝てください」
心の片隅に生まれた、小さな欲望を隠すようにシャルルは言葉で取り繕った。それでも隊長はシャルルの腰に絡めた腕を離さない。それどころかその腕をゆるりと動かして腰を撫ではじめた。
加えて、シャルルを見上げる群青色した瞳が、扇情的に揺れて。
「眠れねえよ、こんな、気持ちのままじゃ」
隊長が、あの隊長がまるで生娘のように頬を赤らめてそんなことを言うものだから、シャルルの頭はもはや沸騰寸前になっていた。
「言ったろ、シャルルに、抱かれたいって」
体が、熱い。いやでもこれは酒のせいだと、シャルルはぐるぐるとまわる頭で自分にそう言い聞かせる。隊長がこんな顔をするのも、こんなことを言うのも、こんな態度をとるのもすべて酒のせいだ、と。まさか隊長を、かわいいと、そう思ってしまうのもすべて、酒のせいだ。
だから、流されてはいけない、とシャルルはなんとかわずかばかりの冷静さを取り戻して頭を振った。
「た、隊長!寝てください、ほんとに!これ以上はよくないですから!」
「おいおいまた寝るだなんて…シャルルったら、大胆」
「そうじゃなくてマジで寝ろっつってんですよこの酔っ払い!」
シャルルがそう怒鳴りつけても、目の前の酔っ払いはひるむ様子も無ければ寝る様子も無かった。
隊長の扇情的な瞳は、なおもシャルルを煽ってくる。それに加えてシャルルの腰を拘束する腕がもぞもぞと動いてシャルルの体を刺激するから余計に落ち着かない。
「だいたいですね!そんなこと言いますけど、隊長の開発は済んでるとでもいうんですか!」
ぴたり、と隊長の動きが止まった。そして隊長の瞳からも、扇情的な色がふっと消える。
「…あ」
「あ、じゃ、ないですよ…」
そんな隊長の様子に、緊張の糸がぷっつりと切れたのかシャルルは大きくため息をついてうなだれた。そのため息には隊長に呆れるのと同時に、ほっとした思いも含まれていた。この話は、これで終わることが出来るとそう思ったからだった。そう思って、気を抜いていた。
しかしそれが間違いだったのである。
気を抜いていたシャルルの腕が、がしりと掴まれた。驚いて顔を上げると、らんらんと目を輝かせた隊長がいた。感じた嫌な予感に、シャルルの口元がひきつる。掴まれたところが、じわりと汗ばむのがわかった。
違う、これは、酒のせいだ。冷静な隊長ならこんなことは絶対にしない、はず。シャルルはそう自分に言い聞かせるのだが、残念ながら目の前にいるのは、酒に酔った、冷静ではない隊長なのである。
「じゃあ、開発すりゃあいい」
「たい、ちょう」
「お前の、手で」
「あの、だから隊長、いい加減に」
掴まれた腕が明らかに隊長の下半身へと導かれようとしていることにシャルルは必死に抵抗をするが、制御の効かない酔っ払いの力にはかなわない。そうでなくとも普段から隊長の力にはかなわないのである。それでもシャルルが必死に抵抗を続けていると、ふと隊長の手が止まった。
シャルルが驚いて隊長の顔を見ると、落ち着いた、群青色した目がシャルルをじっと見つめていた。
「なあ、シャルル」
落ち着いていて、でもそれでいて扇情的に揺れる瞳に、シャルルは吸い込まれていくような気がした。
「今夜のお前は、すげえかっこよかったぜ」
そしてそれは、庇護欲や、征服欲をかきたてるようで。
「お前を初めて見つけた時から、今までずっと、お前をかわいいと思ってた、だから俺が守ってやる、俺が育ててやる、そう思ってきた」
シャルルは、ごくりと唾をのんだ。
「でも、お前はいつまでも子どもじゃないんだよな、守られるだけじゃない、俺を、守ってくれるほどに、成長したんだ」
「そんな、俺は」
「だから、シャルル」
隊長のシャルルの腕を掴む手に、再びぐっと力が込められた。シャルルは、油断していた、と思った。
「今夜は俺を抱け!!!!!」
「結局それですか!!!!!いい加減に、ひっ!」
油断していた、と思うのが遅かった。掴まれた腕はあっという間に引っ張られ、シャルルの手が隊長のナニかに押し付けられる。シャルルの頭に、一気に血が上る。頭が沸騰するようだ、ぐるぐるとまわる、顔が、体が熱い。
「い、い、いい加減、に、寝ろーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
隊長が寝たのは、すっかり疲れ切った朝方のことだった。