憧れの彼女
キーンコーンカーンコーン......
遠くの何処かでチャイムの音が聴こえる気がする。春のそよ風がHRに入り込んできて、気持ちいい。学年が変わってすぐの、この季節。なんだかワクワクするようで、気が重たいようで、ふわふわした気分だ。確か次の授業は化学で移動だったっけ。そう思いながらも、私は頰杖をついたまま立ち上がろうとはしなかった。
「朱里、ぼーっとしたりしてどうしたの?早く行くよ!」
「え、私、今ぼーっとしてた?」
「してたよ〜!あ、もしかして......またはやこのこと考えてたでしょ!」
親友の奈々に指摘され、私は顔を赤らめる。そう、最近の私は、早野かな、通称はやこさんのことばっかり考えてる。
「ばかっ声大きいよ〜!」
私ははやこさんの方をチラッと盗み見る。教室の真ん中で、バレー部の子達と笑ってる。その姿は、とってもキラキラして見えた。よかった、気づかれてないみたい。
私は3年生になってから彼女のことが気になり始めた。というか、完全に一目惚れだった。1年と2年の時は、部活もクラスも違うこともあって、全く接点がなかった。でも、今年、同じクラスになって、しかも彼女の席が右斜め前(!)で、気づいたら毎日、その横顔を見てた。彼女は本当にかっこよくて、しかも、バレー部のエース、いつも彼女の周りにはいっぱい人が集まっていた。私も、お友達の1人としてお近づきになりたい!私は切実にそう思ったけど、もう5月。結局、一言も話せてない。
私ははぁと大きくため息を一つついて、重い足取りで化学室へと向かった。