たった一言、二音節の内緒の言葉。
カンカンカン、と踏切の警報音が鳴り、目の前で遮断機が降りた。
息を弾ませおにぎり片手に君は足踏み。
「遅刻するぅ!」
「ネネがねぼうするから」
痛む喉で叫び返せば「だってぇ」とピンクのランドセルを揺する。
君ときたら甘ったれで寝汚い。僕は苦笑しながら金属の擦れるかすかな音に指を指す。
「大丈夫、ほら、電車が来たよ」
亀みたいに首を伸ばして君はおにぎりをかじりながら早く早くと気を揉む。
甘ったれだけど、自分だってお腹が空いてるのに、ご飯を食べ損ねた僕におにぎりを半分こしてくれる。今日は僕もねぼうしたから。
電車が突っ走って来るのを見ながら、香ばしくて塩味の利いた焼きジャケを飲み込んで「ねえ、ネネ」と呼べば、同じくおにぎりを食べ終えた君が「なあに」と振り返って首を傾げる。
「 」
僕のセリフをかき消して、ガタゴトガタゴト油臭いような金臭いような匂いをまいて電車が通過した。
警報音が止み遮断機が上がって、巻き上がったホコリに君はぱちぱち瞬きながら「ごめん、聞こえなかった」と聞き返す。
「何でもないよ。ほら、走ればまだ間に合うよ」
「あ! ずるぅい! 待ってよぅ!」
運動音痴の君が転ばないように足元に注意してやりながら、走り出す。
たった一言、内緒の二音節の言葉。
声に出すにはまだ恥ずかしいそれは僕の本当の気持ち。