プロローグ As usual
今まで別のサイトで趣味全開な小説を投稿させていただいていましたが、新たなフィールドで書きたくなったのでこちらに新しい作品を投稿させていただきました。もしよければお読みください。
『・・・何度も申し上げている通り、こちらは確かに部下を回収に向かわせました。ですがお客様の仰る品は見当たりませんでした・・・痕跡はありましたが。運んだ形跡がありましたし、おおかたどこぞの変わった趣味の方が持ち去ったのでしょう。』
電話口の向こうからデリバリーされてきた機械的な女声が、耳の奥を震わせる。
「・・・で、片付けは?」
『滞りなく。私方の腕前はご存じでしょう?』
「ならいい、後はその物好きが上手く隠し通してくれるのを祈るだけだ。」
『それは私の与り知らぬところですから、では。』
それだけ言って電話は切れた。そろそろ傷が目立ち始めたガラパゴスケータイを乱雑に布団の上へと投げ捨てる。
「・・・あんたらも大概物好きだ。」
世間ではお盆の帰省ラッシュがピークの中、今日で23の誕生日を迎える南部由はアパートの自室で暇を持て余していた。
「あぁぁぁぁぁ・・・。」意味もなく発声。両隣が留守なので苦情の心配もない。
「俺だって仕事がありゃ暇じゃねェんだよ・・・。」これは言い訳ではなく、由の本心だった。何もやることが無いよりは仕事をしている方がマシだというのが由の考え方だった。
寝返りを一つ。汗ばんだジャージが肌に張り付き、何とも言えない不快感を醸し出す。古びたエアコンは1DKの部屋ですら満足に冷やせず、むしろその機械音が外の雨音と共演して更に熱帯夜の暑苦しさを引き立てている。
唐突に携帯の着信音が部屋を占拠した。由は億劫そうに頭を掻き毟りながら、座った体勢のまま手を伸ばして電話を取った。
「あぁ?」
『仕事だ。場所はF市郊外の工業団地、時間は午前1時。』
「めんどい、ダルい、却下。」
『そうか、今月の給料は無しだ。勝手にのたれ死ね。』
「・・・外道。」
『どっちがだ、相手の気持ちになってみろ。お前の酒と煙草のために、』「仕事は受ける、後処理も俺の信頼する業者がやる。文句は?」『ハッピーバースディ、以上だ。』再び電話は物言わぬ塊となる。
「仕事があればとは行ったがなぁ・・・。」愚痴を垂れつつものたのたとジャージを脱ぎ、Yシャツに袖を通す。洗面所で頭から水を被り、鬱陶しく伸びた髪をまとめる。ハンガーにかかったライトベージュのスーツは2・3日アイロンを当てていないが、由は気にも留めずズボンのベルトを締める。
そしていつものようにショルダーホルスターを右肩にぶら下げ、引き出しから予備の弾丸の入った箱―――8mm gasserと表記のある―――を取り出して、中身を一掴みズボンのポケットに押し込む。それがいつものことだった。
「さてと・・・」
背広をひっつかんで羽織る。その拍子に、何本目かわからないハンガーが折れる音がした。これもいつも通り。あとは指定の場所に行けば、罠だとも知らずにおびき出された哀れな客と護衛が数人いる。それもいつも通り。
「そう・・・いつも通り。」
いつも通り、俺は人を殺す。