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悪魔の悪戯

作者: 漂流 中

「だめだ飛行機に乗り遅れる、ああ、もう間に合わない」中年の男が国際空港のロビーで人目もはばからず泣き崩れた。次の便は3日以上たたないとない、取引きはご破算となり男は会社を首になるだろう。男は放心状態で「おかしい、まだ十分に時間があったはずなのに」とぶつぶつ呟きながらふらふらと歩きだした。


小さな悪魔は、男の上空に浮かびながら、満足そうににんまりと笑みを浮かべた。もちろん悪魔の姿は人間には見えない。小さな悪魔は、いたずらが大好きだった。人間どもの戸惑う姿や困った顔を見るのがたまらなかった。なぜかと言えばそれは悪魔だからとしか言いようがない。小さな悪魔はまだ悪魔としては子供だが、いたずらには十分年季が入っていた。いま夢中になっているのはパパの眼を盗んで持ち出した時間流調節器を使ったいたずらだ。これを使い時間の流れを早くしたり遅くしたりしていたずらするのだ。人間どもの戸惑いあわてふためく姿はなんとも滑稽でたまらない。

「タカシ、今何時だい」と朝出がけに腕時計を付け忘れてきたマコトが隣で作業をしているタケシに聞いた。「4時半だよ、まだまだ帰りまでたっぷりあるよ」タカシが電動ドライバーでネジを締めながら答えた。マコトとタカシがこの工場に勤めだしてからそれほど日はたっていない。給料は悪くないが、仕事は単調だ。朝、9時に出勤し、昼と3時に休み、5時半に退社する。その間、ラインを流れてくる製品の組み立て作業をしている。組立てているのは、何かの電装部品のようで一応説明は受けたのだが、マコトもタカシもメカに弱く、どこに、何に使われているのか、何の機能をするものなのか結局よく分からず、ただ、指示されたどおりに作業をしている。午前中は早く昼休みにならないかなと思い、午後は早く、休み時間、終業時間にならないかと待ち望むそんな毎日を二人は送っている。

「今日は久しぶりに飲みに行こうよ」とマコトが半田ゴテを持ちながらさそうと「そうだな行くか、給料前でちょっときびしいけどな」とタカシが手を休めずに答えた。


「早く来過ぎたかな、まだ約束の時間までだいぶあるな、すこしブラブラしてくるか」賑やかな駅前で若い男が腕時計に眼をやりながら、呟いた。そして、時間潰しか、その場を離れどこかへ消えて言った。

 かなりの時間がたってから、男は大慌てで戻ってきた。待ち合わせていた女性はちょうど帰りかけているところだった。「ごめん、もうこんな時間だなんて気が付かなかった」「ううん、いいの、わたしもじつはさっき来たばかりで、もう待っていないと思って帰ろうとしていたところなの」二人は仲良く手をつないで雑踏の中へ消えていった。


「なんてこった」すっかり喧嘩分かれするもと思っていた小さな悪魔は地団駄を踏んで悔しがった。よし、こうなったら腹いせにうんと意地悪してやる。小さな悪魔は新たないたずらの餌食を求めて飛び去っていった。


 ラインをH367とラベルの付いた製品が流れてきた。ラベルによって製品の用途が違うらしく、組立ての仕様が違う。ただ、その理由は分からない、ただ手順書どおりに組立てるだけだ。

「タケシ今何時だい」またマコトがタカシに聞いた。「5時ちょっと前だ」けだるくタカシが答えた。

マコトは仕事中はなんて時間がたつのが遅くいんだろうと思った。そのかわり、毎日の日のたつのがやたらに早い。

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「タカシ今何時だい」しばらくしてまたマコトがしんぼうできずに聞いた。

「5時10分過ぎだよ、後少しで今日の仕事は終わりだ」


 小さな悪魔があてどもなく空を漂っていると、何やら大勢の人間どもが、早く時間がたてばよいと思って作業をしている建物が見つかった。シメシメ、小さな悪魔は機嫌を直した。そして時間流調節器の空間範囲のツマミを建物全体に合わせ、時間流のレバーを力一杯時間流れ遅くするほうに倒した。するとボキッ、と音がし、レバーが折れてしまった。しまった、パパに見つかったらどうしよう。小さな悪魔は半べそをかきながら、時間流調節器を放ってどこかへ行ってしまった。


 工場の窓から夕陽が差し込んできた。そろそろ終業時間だ。しかしこれからの時間が以外と長く感じられる。そこへ、また、ラインにH367のラベルが付いた製品が流れてきた。それを手にしながらまたマコトが聞いた。

「タカシ今何時だい」

「5時25分、あと少し5分だ、終わったら飲みに行こう」とタケシが答え作業に戻った。

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「タカシ今何時だい」マコトがまた聞いた。

「5時25分、あと5分だ、終わったら飲みに行こう」タケシが答え作業に戻った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「タカシ今何時だい」マコトがまた聞いた。

工場に電動ドライバーの回転音が響き、それは途絶えることがなかった。


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