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長月鏡花①

この小説は、その場のテンションで推敲もせずに書き上げたものです。実は、プロットもあんまり――ゲフンゲフン! 意味不明な物語となっておりますが、評価・感想など頂けると作者は泣いて喜んで爆発しますw

 俺が、村雨海翔と出会ったのは、入学式だった。地元の中学から、この学校を受けたのが俺一人だったため、必然的に俺は友達を作らなくてはいけなかった。だけど、中三の三学期に仲の良かった友人達に裏切られて以来、俺は友達を作ることを諦めていた。友人たちの裏切りにあったばかりの俺は、友達という存在を恐れていたのだ。だから、高校の三年間は、適当に本でも読んで過ごそうかとすら思っていた。

 だけど海翔は、そんな俺と友達になってくれた。

 もちろん、最初は拒絶した。それでも、海翔は俺に話し続けた。

「俺さ、中学で味わえなかった青春ってのを、味わってみたいんだ」

 入学式の帰りに、海翔は言った。

 その時の俺は、半ば無視を決めつつも話だけは耳に入れていた。後で聞き返されると面倒だからだ。

「実は俺、中学で……軽いイジメみたいなのを受けてたんだ。仲の良いと思っていた連中は、実は俺の事を陰で悪く言っていて、女の子達も俺の事を避けてたんだ。それは、とっても惨めで、気が付かなかった俺は……とっても滑稽だった」

 その時、初めて俺は、村雨海翔という少年を見た気がした。

 彼も、俺と同じ……中学に良い思い出のなかった人間なんだ。

「やり直したい……。俺は、そう思ったわけ。それで、遊ぶ相手がいなくなってからは、毎日一生懸命勉強して、地元の奴らが絶対来ないような高校を受験した。それで、この村上南高校に受かったんだよ」

 そう語る海翔の顔は、とても格好良かった。清々しく、希望に満ちた横顔。彼は、この学校に希望を持って入学して来たんだ。

 適当に、何の思惑もなく合格した俺とは違って……。

「だから……情坂――いや、隆仁。俺の、友達になってくれないか?」

 屈託のない笑顔で、海翔は俺に手を差し伸べた。

 そんなこと言われたら……俺は、どうしたらいいんだよ。

 俺と同じように友達を失った俺と海翔。でも、彼は青春を望んで足を踏み出そうとしている。友達を作ることを諦めていた俺と違って……。

 俺には、そんな海翔が眩しかった。それと同時に、憧れた。

 未だ見たことのない『青春』に――

「……理由なんか、ないよな」

 それが、俺の出した答だった。

 高校一年の春。俺の『青春』は、まだ始まった直後だ。夢を見る時間は、まだ沢山ある。

「……そうだよな。友達を作るのに、理由はいらないよな」

 海翔が、眩しい笑みで言った。

「それは、俺の台詞だ!」

 差し伸べられた手に、俺は自分の手を伸ばした。

 これが、俺の『青春』の始まりだった。



「隆仁。充実した『青春』を送るためには、まず何が必要か分かるか?」

 始業式が終わって教室に着いた俺に、後ろからやってきた海翔が言った。

 海翔は、身長が一七〇後半の美少年だ。少し明るい髪に、細い体つき。見てくれだけなら、そこらの男子より圧倒的に美形だ。

 しかし、『青春』を、送るために必要なモノ……か。

「うーん。まずは、友達かな。友達がいないと、青春なんて送れないだろうし」

 俺がそう言うと、海翔はわざとらしく大きなため息をつく。まるで、「コイツ全然分かってねえな」とでも言いたげに、だ。

「確かに、友達は必要だ。でも、それは、もうクリア済みだ。俺と隆仁は友達だろ?」

「そうだけど、もっと友達の輪は広げた方がいいと思わない?」

「そりゃそうだ。それじゃあ、隆仁。青春と言えば、何を思い浮かべる?」

 そう言われて、俺は想像する。青春の言葉に引っかかるワードといえば、

「うーん……。男の友情とか、部活に力を入れたり……あと、恋?」

 最後の言葉が正解だったのか、海翔はバシバシと俺の肩を叩く。

「そう! 恋だよ、恋! 青春と言えば、淡く切ない恋模様のことだろ! つまるところ、『青春』ってのは、恋色の空模様のことを言うんだぞ!」

 海翔は興奮気味に言うが、恋愛なんて……本当に俺に出来るだろうか。

 自慢ではないが、俺は女子と会話をしたことはほとんどない。好きな人が出来たことも、気になる人とかもいなかった。そんな俺が、本当にこの三年間で恋なんてできるのか?

「無理でしょ。だって俺、女子と事務的な事以外で話したことないよ?」

「大丈夫だ、問題ない。とりあえず、俺のテクを見て勉強してなさい」

 そう言って、海翔は歩き出す。仕方ないので、俺もその後に続く。海翔が歩いた先に座っていたのは、一人の少女だった。

 長い黒髪に、整った顔立ちの少女が、文庫本を読んでいた。

 その、語彙が少ないので表現ができないんだけど……その――

 ――とっても綺麗な人だ。

 俺は、思わず見とれてしまう。清楚なお嬢様を連想する姿はとても綺麗で、文庫本のページを捲る動作すら、美しいと感じてしまう。でも、彼女の横顔を見つめていると、ふと、入学式の新入生代表挨拶を思い出した。

 そっか、あの時挨拶していた人か。

 この学校に入る為の入試で、最高成績を収めた人物が行う代表挨拶。それを目の前の彼女がやっていたことを思い出す。

 たしか――名前は……。

「長月鏡花――」

「へい、彼女ぉ~! ちょっといいかな~」

 長月さんの名前を呟いたのと同時に、海翔が長月さんに話しかけ――って、ちょっと待て! 何!? 海翔の言うテクって、そんな古いクサイもんだったの!?

 もはや冗談としか思えないような台詞に、長月さんは鬱陶しげに海翔へと視線を向けた。

 長い切れ目が、海翔を睨む。

「あら? 電柱を擬人化したような方が、私に何か用ですか?」

 海翔も海翔だが、長月さんも長月さんだった。

 高身長で美形の海翔を、よもや『電柱を擬人化したような方』なんて言う人を、俺はこの時初めて見た。

「なっ……電柱――だと……ッ」

 さすがの海翔も、これには言葉を詰まらせた。多分、『電柱を擬人化したような方』なんて言われたのは初めてなんだろう。でも、普通は言われないよな。

「どうしたの? 固まったまま動かないなんて。一体どうしたの? その髪と背丈が、まるで電動歯ブラシを連想させる人?」

「は……歯ブラシ――」

 電柱の次は、歯ブラシとまで言われている。これは、さすがに言い過ぎじゃないか? 確かに、からかうような事を言ったのは海翔だけど、応戦する長月さんも、さすがに言い過ぎではないだろうか……。

「か、海翔――」

 心配で、俺は海翔を見た。海翔は、若干俯きながら、小さく言葉を吐き出した。

「お……俺は……ッ」

「なにかしら? もしかして、少し言い足りなかったかしら……」

 それはない。むしろ、思いっきり言い過ぎだ。

「そうね――なら、こんなのはどう? まるでキリンのはく製のよう――」

「俺はッ!」

 突如、海翔が声を張り上げた。あまりに唐突だったので、俺も長月さんも驚いてしまった。

 ……もしかしたら、過去のトラウマを刺激してしまったのか? 俺は、そう思った。

 きっとそうだ。かつて男女両方に避けられた苦い思い出のある海翔の事だ。女子からの悪口は、きっと心に傷が付いたに違いない。

「な、なによ……。変な事を言いだしたのは、そっちじゃない」

 長月さんも、海翔を怒らせてしまったと思ったのか、ばつの悪い顔で言う。けど、海翔の表情は変わらない。

「俺は――」

 握りこぶしを固めて、海翔は……啖呵を切った。


「俺はッ! 電動歯ブラシになって、あなたの歯を磨きたい!」


「「―――――――歯?」」

 俺も長月さんも、同じリアクションだった。いや、むしろ唖然とする以外のリアクションが取られる猛者がいるのなら、是非ここに来てもらいたところだ。

 しかし、俺達の姿が目に入っていないのか、海翔は続ける。

「無論、俺の熱いバイブレーションは、決して貴女を飽かせることなぞありm」

「黙れ変態!」

 長月さんが爆発した。今までの暴言も、言葉遣いだけは優雅だったが、さすがに今回はそれも崩れていた。むしろ、崩壊していた。

 長月さんが、怒りと同時に繰り出したビンタは、いとも簡単に海翔の右頬にめり込む。そして、清々しいまでの快音を叩きだした。

 ――スパアァン!

「ひでぶ!」

 某拳法殺しのような声を上げて、海翔は倒れた。これほど無残な彼の姿は初めてだ。

「今なら、海翔が女子に嫌われていた理由が分かるよ」

 例え、俺が女の子だったとしても嫌だよ。こんな男。

 長月さんは、肩で息をしながら倒れた海翔を見下す。

「ふ……ふふっ……。心地よき痛みと言うべきか――」

 何やら気持ちの悪いことを言いながら、海翔は立ち上がった。立ち上がった彼の右頬は真っ赤に腫れている。長月さん、本当に手加減していなかったんだ。

「な、何よ! 電柱変態男!」

 警戒心をマックスにしたまま、長月さんは海翔を睨む。海翔は、そんな長月さんの視線を紳士に? 受け取ると、遠い目をしながら語り出した。

「俺の師匠に――マハトマ・ガンジーという男がいた……。彼は、とっても立派な人で、中学時代の俺は、毎日彼が住んでいた横須賀まで会いに行っていた。今思えば、俺が君に想いを伝えることができたのも、彼の言っていた教えのおかげかも知れない……」

「――ガンジーのフルネームを覚えている事に対しては感心するし、横須賀に住んでいると勘違いしている事に対しても、いろんな意味で感心するわ」

 俺からすれば、海翔の狂言に対応できる長月さんに感心するよ。

 そんなことを考えながら聞いていたが、どうやらまだ終わりではないらしい。

「彼は、俺に教えてくれた『臆病なものは愛を表明することができない。愛を表明するとは勇敢さの現れである。』と――」

「確かに、ある意味勇敢ではあったわね」

「つまり! これで貴女にも、俺が長月鏡花を愛していることが伝わったことでしょう!」

「ちょっと待て。どうしてそうなるのよ!」

 再び爆発した長月さんが、右手を振り上げる。しかし、振り下ろす瞬間。海翔が長月さんに向って左頬を差し出した。まるで、殴ってくださいと言わんばかりに――

 一瞬、長月さんの動きが止まる。

「……どういうつもり? もしかして、そっち系の趣味でもあるのかしら?」

 冷やかな切れ目が、海翔を見上げる。しかし、そんな程度では海翔は怯まなかった。むしろ、自らの左頬を指差して長月さんに言った。

 

「俺の師匠は、こうも言った……。『あなたが愛する人が右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい』と……」


 スパアアアアアァァァァァァァ―――ン!

「うわらばっ!」

 いった。一度目とは比べ物にならない程、強烈で非情で無情な一撃が。長身の海翔を吹き飛ばすほどの威力を持ったビンタが、容赦なく入った。

 そんな瞬間の俺はと言うと、もはや飽いた口がふさがらなかった。

なんていうか、もう……収集着かないよ。

「なに勝手に新約聖書の一文を自分勝手に解釈してんのよ! しかもそれガンジー関係ないわよ!」

「この状況でもツッコミを忘れないんだね……」

 俺は既に放棄してるけど。

「というより、あんた達なんなの? そんなにあたしを苛めて楽しい!?」

「え、ええ!? なんで俺に聞くんですか!?」

 怒りの矛先が、何故か俺に向いてしまった。

「当り前でしょ!? あなた、この電柱歯ブラシの友達でしょ!? ちゃんと説明して!」

 そう言われたものの……ここは、本当の事を言った方がいいのか?

 でも、言ったとしても、きっと考慮の余地すらないだろう。

「え、えと……前向きに検討してくれると嬉しいんですが――」

「何?」

 長月さんが、不機嫌そうに髪をかき上げる。甘い香りが、俺の鼻孔をくすぐる。その香りが、俺を一気に突き動かした。

「俺達と……お友達から始めませんか?」

「いやよ」

 そうバッサリ切り捨てて、長月さんは教室から出て行ってしまった。風に靡く黒髪が、完全に教室から出て行ったのを確認してから、俺は小さく息を吐いて呟いた。

「ですよねー……」

 俺だって、こんなことされてから友達になってほしいって言われても嫌だもん。

 こうして、俺達の青春への一歩は、また遠ざかったのであった。


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