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怪奇事変

怪奇事変 滝の民

掲載日:2026/03/30

すみません、投稿遅れました!

第二十三怪 滝の民


 滝に住むと呼ばれる特殊な一族が居ると噂されているその場所は、かつて忍者や僧侶などが滝修行で使われていた場所などとして有名で、今も時折使われている。

 実に不快極まりないーーここには住んで居る人間が居ると言うのに…と言うのが、滝に住まう住人の感想であった。

 人々は知らない、この滝には特殊な仕掛けが施されており、その装置を押すと“滝の民が住まう村”に到達できると言われている。

 そして此処はーーある者達と深く関わりがある場所でもあった。


 「……で、その“滝の民”が住まう場所に言って少女を1人、連れてきてほしいっと」


 「ああ、そうなる」


 重厚な場で顔を隠されて話している人物達に聞くこの男性は道長大輝(みちながひろき)

 彼は…2級の資格を持つ――霊媒師である。


 「少女の名は?」


 「滝加賀日南(たきかがひなみ)、現在は小学生4年生の女児となる」


 「まだ子供じゃないですか…てか良いんですか?前回の件」


 「アレは別件だ、関連性のない話は控えてもらおう」


 「(はいはい)」


 「兎に角、彼女を連れて“霊術院”まで連れて来るのがお前の任務だ、詳しい場所は追って伝える」

 

 「了解しました」


 踵を返して重厚な門を潜ろうとする中で最後に、後ろから声がかかる。


 「わかっていると思うが…情けは無用だ、全ては“霊術院”、“霊王様”のため……」


 「……はいはい」


 そう言ってその場から出ていく。

 するとそこには包帯を巻いた2名の男性たちがいた。

 1人は若い男、もう1人は自分と同年代の男。


 「どうも~」


 「面倒事か?」


 「御2人に比べれば特に問題のない仕事ですが、尋問室に居る気分でしたよ、あそこは」


 そう言って近くの自販機に硬貨を入れて珈琲を選択。

 大輝が選んで飲む珈琲は気分によって変わる、良い時は甘い珈琲、嫌な時は…ブラックな珈琲…。

 当然、大輝が選択したのはブラックな珈琲だった。


 「体調は大丈夫なんで?」


 「ああ、おかげさまでな」


 包帯を摩りながら答える男性は苦笑いで答える。

 

 「全然大丈夫じゃないですよ~、倉庫の1件、体調が回復しないまま別件でまさか1級の悪霊が出るなんて聞いてないです」


 「1級?ああ、例の廃屋に出る絵画の霊…でしたっけ?」


 「ああ、悪霊と化していたため封じようとしたが、なかなかの戦闘力でな、おかげさまで古傷に響いた」


 腹部を抑えながら答える。


 この2人はその任務に就く前に、数か月前倉庫で1人の少年と対峙したらしい。

 その際に深手を負わされ休養していたが、回せる人材がいないため急遽派遣…だが結果的に更に傷を負って帰る始末ーーご愁傷様としか言いようがない。


 「道長はこれから任務か?」


 「はい、サボり癖が強いせいで滝修行に行ってくるついでに女児を誘拐してこいっと」


 「なるほどな…“霊王様”との“適応者”か」


 考える素振りを見せながら彼も買っていた飲み物を口に含む。

 もう1人の若い男性も選んだジュースを飲んでいるようだ。


 「御2人はしばらく休暇ですか?」


 「流石にダメージがな、それに倉庫の1件、少し気になる事もあってな」


 「……気になること?」


 「ああ、恐らくだが京極さんにも関係する話だ」


 そうなるとスケールが全く違ってくる。

 なにせ霊術院で京極戎史郎が関わってくる内容はほぼ1級を超えた特級案件であることが間違いないからだ。


 「俺達は倉庫の任務である人物と対面している――が、恐らくもう1人そこに居た」


 「聞いてるだけで疲れそうですね、詛呪師が悪だ組してるんですか?」


 「可能性としてはなくはない、倉庫で行われていたのは悪霊を生み出す実験の様なものだった」


 「……なるほど、何となく貴方の言いたい事が分かりましたよ」


 珈琲を全て飲み干し空になった缶を捨てる。


 「詛呪師には注意を払っておきます、お気遣い感謝です、水城さん」


 「ああ、すまんな、悠平も少しは心配したらどうだ?」


 「道長さんなら大丈夫ッス!」


 サムズアップをされて2人で苦笑いをしてしまう。

 だが詛呪師の話は会議の中に出てこなかった。

 そして詛呪師ではないが、静岡での1件で京極戎史郎も何かを感ずいた様子で皆に警告をしていた事を思い出す。


 『多分大丈夫だとは思うけど、詛呪師には気を付けてね~。な~んか気持ち悪いことしてるっぽいから~』


 「それでは失礼します」


 「ああ、検討を祈る」


 「お土産待ってま~す」


 滝の隠れ村、女児、そして――詛呪師……恐らく関係があるかもしれないっと気合を入れて任務を行うのであった。




 「んで、この滝に秘密のスイッチがあるんだってよ」


 「マジかよ、てか本当に滝の裏側ってあるんだな」


 2人の男性が興味深そうに滝を眺める。


 「ちょっと待ってよ~、アタシ濡れるのごめんなんだけど」


 「紗耶香はそこで待ってればいい」


 「でも紗耶香がカメラ回してくれないと俺達撮れないけど……」


 「それもそうか、紗耶香!着替えはちゃんと用意してあるから安心して良いぞ!!」


 「ほ、本当だよね?」


 「本当か?」


 「嘘に決まってんだろう」


 2人の男は小声で話しながら水分で濡れている石を触って行く。

 すると僅かに動く石が存在し、そこを押し込む様にするとゴゴゴっと言う地鳴りが響く。


 「な、なに!?」


 「地震か!?い、いや、壁が……開いて」


 「これが…滝の民が住まう隠し村への入口」


 開いた入口は深淵を覗いているようだったが、まるでゲームの様にボッっと火が灯されて行く。

 道案内をしているかのように。


 「続いてる、行こうぜ」


 「カメラ回せよ、紗耶香」

 

 「はいはい、てか男子、荷物持ってよー」


 一般人3名は此処が“滝の隠れ村”への入口だとある噂を聞きつけ調査に入った。

 特に警察や依頼を受けた訳ではない、単純な知的好奇心から起こる怪談調査団と言う地味な名前で活動を行っている動画配信者達だ。

 灯った蝋燭を進んで行くとまた門が登場した。


 ――この先“滝の民の移住区”部外者は即刻立ち去るべし―ー


 「紗耶香、動画」


 「ほいほい」


 「さて皆さんこんばんは!本日は噂で流れたこの“滝の裏側にあるとされる集落”までたどり着きました!」


 「この不思議な門はなんでしょうね?」


 「部外者即刻立ち去るべし…部外者じゃないから大丈夫でしょ!」


 そう言って2人の男性は門を開けると、光が刺す。

 その光景に目を眩ませると、そこはまるで桃源郷の様な美しい世界が広がっていた。


 「これが――滝の民の集落……」


 「見てください!こちらが噂の――“滝の民”が住まうと言われている集落です!!」


 「カメラ一旦止めろ」


 「OK」


 そう言われてカメラを止めた紗耶香は、ため息を吐くようにその場にへたり込む。


 「良い出来じゃーー」


 「こんばんは」


 「「「わぁぁぁぁぁ」」」


 3人が同時に叫ぶ中、顔を布で隠した男性らしき人物が接近していた。

 

 「驚かせてすみません、おや、旅重ねてすみません、この布は遮光を防ぐ効果があるため昼夜がわからず、こんにちは…でしたか」


 「あ、貴方は?」


 「此処に住む“滝の民”…ですよ」


 「(か、カメラ)」


 「(お、OK)」


 小声で話しながら大きなカメラではなく、携帯を使ったカメラでその場を映す。

 

 「長旅だったでしょ、あの門を開けたのなら貴方達は部外者ではないでしょ、おもてなしをさせて下さい」


 「い、良いんですか?」


 「ええ、勿論」


 そう言って、その場から離れて進んで行く男について行く3人。

 旗袍(チーパオ)と呼ばれる服を着こなしている男、いわゆるチャイナ服と呼ばれる物だ。

 綺麗な手入れされているのが伺える。


 「……とりあえず、お邪魔しながら撮影しても大丈夫そうなら、撮影しよう」


 「「了解」」


 3人は後に続きながら案内される。

 時折立ち止まりながら「此処はこう言う物を作っております」などと言った説明をされつつ、外装は中国っぽく、見た感じ4階建ての豪邸ってやつだろう。

 此処にくるまでの家と比べると天と地ほどあるものであった。


 「ん?」


 そこで何かの視線を感じ、そちらを見ると少女が木陰から見ていた。

 だが視線に気づいたらその場から早々と離れてしまう。


 「(なんだ……?)」


 そうして案内された内装は豪華なもので触れて良いのか分からないものばかりであった。

 本来の撮影を忘れてはいないが、どのタイミングで撮影を行えば良いか分からず、案内されるままについて行くと食卓に案内された。

 席に案内されると、次々と運び出される料理の数々、よく中国料理店で見かける料理の…豪華版だ。

 つまりドラマや漫画で見る様な光景が目の前に広がっていた。


 「さぁ、どうぞ召し上がれ」


 「い、良いですか?」

 

 「ええ、客人をもてなすのは滝の民の流儀でございます」


 「わかりましたーーあ、ついでにですが、良ければ撮影をさせてもらっても良いですか?」


 「撮影?」


 「ええ、実は料理にまつわる記事を集めているんですよ、これほど立派な料理の数々なら是非収めたいなっと」


 「ええ、構いませんよ」


 「ありがとうございます!」


 2人の相槌を打ち料理をカメラに収める。

 男は後付けで音声を入れれば問題ないと考え、とりあえず目の前にある料理を撮っていく。

 だがそれにしても――


 「(美味そうだ、ただのオカルト番組の撮影だったはずだが、こんなもてなしがあるぐらいなら、料理番組の枠を作るのもありかな?)」


 とは言えただ単にラッキーだっただけなはず。

 手を備えて「いただきます」と言い、箸を手に持ち食事を口に頬張ると、今まで食べた事ない触感と味わいが鼻を突く。


 「う、美味い!」


 「美味しい~!この肉なんて舌でとろけたよー」


 「あむあむ、むしゃむしゃ」


 1名、雑な食い方をしているやつもいるが。


 「ところで――」


 食事をしている所、先ほどの顔を隠した男性が話をかけてきた。


 「本日泊まる場所はあるのでしょうか?」


 泊まる場所…いや、このまま帰って編集をするだけだから泊まる予定はないのだが。


 「いえ、泊まる予定は―ー」


 「此処は過去に“滝修行の場”として利用されていたのはご存じでしょうか?」


 「ええ、聞いております」


 「その過程でこの集落を身バレしないため、人為的に滝の量を増やして水かさを増やすため、出入り口が開かなくなるのです」


 「ええ!!?」


 そんなの初耳だ、いやだが、確かにこの人の言う通り“隠れ村”ならばそのような事をするのも間違いではない。

 だがそんな事を人為的にできるとなるとーー


 「(最早、忍者だな…)」


 忍術として認知されても可笑しくはない、と言うよりオカルトよりも“忍術は実在していた!”と動画を流した方が再生率も稼げるんじゃないだろうか?


 「その、その滝を増やす作業を見る事は?」


 「誠に申し訳ありませんが、それは村の存続に関わる問題なので」


 「そうですか……」


 欲を言い過ぎたか…それより、食事を取ったからか、眠気が…。


 「良ければ寝室に案内いたしましょうか?それもと入浴が良ければそこでーー」


 「はいはい!入浴希望!」


 「俺は~ゲップ、寝室で仮眠したいな」


 それぞれが口に出して答え、自分も最終的には寝室でと伝えそれぞれ案内をされる。

 

 しばらく時間が過ぎて、眠気がピークに達し眠りにつく中、何か声の様な…いや、歌が聞こえる。

 たがその歌はまるで子守歌の様な――いや、よく聞けば悲鳴の様な声が聞こえた。

 だが起きられない…まるで誰かに拘束されているかのように。



 ――女子風呂――


 「なに…コレ」


 紗耶香は腕に着いた汚れの様な物を取ろうとするも痛みが走るのみ。

 まるでそれはウロコの様な形をしていた。

 

 「ッ!?」


 突如眠気が襲い、此処では寝てはダメだと思いつつも、眠気に抗えず椅子から転倒してしまう。

 

 そこに現れたのは旗袍を着た女性だった。

 顔は男性と同様に隠されており、だが視線はまるでゴミを見下ろしているかのような視線を送っていた。




 1週間で目的地に着くと、例の滝が流れていた。

 この裏に入口があるとされている。

 道長は目を閉じ意識を集中させる、これは“霊痕”と言う霊力の痕を辿れる技術で、どんな生き物にも霊力は存在する為、此処にある霊力を拾う事ができた。

 

 「つい最近か…」


 複数で来た形、滝の裏へと続いていた。

 石壁には、まるでホラー映画にあるような手形がビッシリとついていた。

 これは“霊視”で“霊痕”の痕を見ているから、そう見えるだけだ。


 「ここか……」


 ゆっくりと石を押すと壁が左右に割かれ、入口が姿を現す。

 進んで行くと更に門の様なモノが現れるも、その傍らにはバックとカメラの様な物が落ちていた。

 試しに再生してみると、意気揚々と男性2人がこの入口と“滝の民”に関連する話をしていた事がわかる。


 「馬鹿なことを……」


 “滝の民”の噂は世間と“霊術を扱う者”にとっては違う噂がある。

 犬鳴トンネルーー最強の心霊スポットを例に話せばこの“滝の集落”も同様だ。

 だがそれは世間に流したデマ、決して悪戯に行かない様にとワザと流した噂が人々に好奇心を与えてしまった。

 

 「“滝の集落に近づくべからず”それが本当の噂話でもあり、真実…何故なら此処は――」


 壁に彫られた無数の彫刻像を見て道長は言う。


 「“人魚を祀る村”なのだから」


 そうして手を添えて門を開けると桃源郷が広がっていた。

 普通の人ならこの光景を美しいと思うだろうが、真実を知っている身からすれば地獄絵図にしか見えない。

 

 「さて滝加賀日南さんを探しに行きますか…」


 「これはこれは――“霊術院”のサルが何用で」


 そこには数名の男女が現れていた。

 手にはそれぞれ凶器となる物を持参しており、明らかに歓迎されていない模様だ。


 「“人魚の力”に溺れた人外に興味はないんだ、滝加賀日南さんを紹介してほしい」


 その一言を聞くと明らかに醸し出していた雰囲気――何より、霊力の波長が変わった。

 いわゆる――殺意と言うものに。


 「なるほど、日南を、奪いに…あの娘は次の――」


 「“人魚候補”だろ?」


 「ッ!?」


 驚愕の表情…いや、布で顔を隠しているから素顔を定かではないが、驚いた表情をしているのは明白だった。


 「“霊術院”側が何も知らないと思ったか?滝の裏でコソコソ“呪い”を作り出しているのには気づいていた、ただ上層部がハッキリしないもんでね」


 「……なにを」


 「アンタたちを――詛呪師と認定して処断すべきかどうか?今までは“霊王様”の器のために協力関係を築いていたが、今回ばかりはやり過ぎたな、火傷する前に火加減の調整をすれば良かったものの……」


 「……」


 「ついでに、1週間前に此処にきた男女は?」


 「……知らんな」


 「なるほど、無理やり“殺った”のか」


 「かかれ!」


 その合図と共に、先ほどまで殺意を抑えていた者達が各々の武器を使い道長に襲い掛かってくる。

 当然その攻撃を躱すも、遠方から射抜かれた矢に身体がふらつき、そのまま滅多刺しにされ、流血する。

 

 「さようなら…“霊術院”の犬め」


 「……ゴホッ!!」


 口から吐血して倒れ込む道長…だが――


 「ッ!?」

 

 道長の身体は白い蒸気を放ち、そのまま靄となって消えてしまう。

 代わりに残されたのは1枚の人型の紙のみ。

 いわゆる――身代わりだ。


 「探せ!なんとしても生かして返すな!!」


 リーダーとして取りまとめている人物の声を聞き、他の者達も慌ただしく動き出す。

 狙うは1人、紛れ込んだ鼠の排除、道長の首のみ。




 「潜入は成功したものの、どうやって探すか……」


 あからさまにデカイ建造物の潜伏に成功するも、周りは騒がしくて落ち着いていない。

 恐らくだがこの騒ぎに乗じて滝加賀日南は監禁されている状況だろう。

 先ほどの“人魚”とは文字通り物の怪の類であり、妖怪に分類されている。

 

 この集落は昔からその“人魚”を崇拝してきたとされている。

 “人魚の肉”を喰らう事で不老不死、万病にも聞くとされ、更には不思議な力――つまるところ“霊力”を手にすることもできると。

 だが適合者でない者がコレを食した場合――。


 「……ひでー事を」


 目の前には恐らく1週間前に行方不明になった男女の遺体、身体の一部が肥大しており、ウロコの様なモノが付いて血を流しながら倒れている。

 恐らく、掃除も碌にしてなかったのだろう。

 

 食した者が“適合者”でなかった場合は最悪の場合“死に至る”……このようなケースで。

 度々この“滝周辺”では不審な“死を遂げる者”が続出しており、度々霊媒師も派遣されていた事から、事件性はある程度推測できていた。

 が、証拠となる物を突き付ける要因がなかったため、結果的には“滝の民”に言い逃れをされてしまい今に至ることが現状だ。


 「頼んだぞ」


 紙で作られた“式神”を飛ばし“霊術院”で今起きている事を知らせる。

 バレる可能性はあるが――っと言った所で、マッチングしてしまった。


 「いたぞ!」


 「“式神紙術”――“大神”!!」


 犬の形に織った紙が霊力を喰らい実体化していく、これが道長の能力“式神紙術(しきがみしじゅつ)”である。

 主に諜報などを生業とした能力で戦闘向きではないが、使い方次第では戦闘でも役立つ能力でもある。


 「行け!大神!!」


 大きな口を開けて敵に噛みつくと、その噛み口から分かる様に、彼等もその皮膚がウロコの様になっていた。

 これは副作用――妖怪の力で霊力を手に入れた代償、即ち“呪い”だ。

 だがそんな相手も容赦なく蹴散らしていく式神に任せながら“霊痕”を追う。

 

 「(小柄な足……コレか!!)」


 南京錠で張り巡らせた鎖と呪符が「開けるな」と言っているようだった。

 これを解呪するには時間がかかると思いながら神経を集中させた瞬間、自身の腕が食い破られるビジョンが視え、咄嗟に身を翻して躱すと、出迎えた男が居た。

 いや、男と言うより――魚人となっていた。


 「困りマスよ、日南は我々ノ…人魚のたかラ」


 「女児の肉を剝ぎ取って何が楽しんだよ、悪趣味な野郎だ」


 「悪趣味ではナイ、コレは神聖ナ儀式」


 「儀式の結果、実験失敗で顔が魚になっちゃってるぞ」


 「グアガガガガ!!」


 遠吠えの様な奇声を上げながら噛みつて来る敵の攻撃は――岩をも砕く程の顎の力。


 「(当たればヤバいな)」


 紙を取り出して霊力を込める。

 牛が突進してくるかの如く、こちらに向かって大きな牙を向けて突進する相手は確実にこちらを捉えており、その鋭利な牙で腕を軽々と、肉体までかみ砕いていた。


 「ゴホッ!」


 「何処かデ、視た光景!」


 咄嗟に魚人になった男も振り返ると、そこには紙をこちらに向けている道長が居た。


 「“式神紙術”――朱雀!!」


 巨大な鳥を形成した紙が嘴で獲物を捕らえそのまま壁に激突する。

 その間、道長は手印を行い頑丈に封印された呪符を剥がしていく。


 「さ、サセ…ナイ!」


 「ッ!?」


 急な激痛に意識が術から痛みに切り替わる。

 どうやら先ほどの魚人は体内で練った水を高圧水流のように道長に飛ばしており、見事に腕に穴を開ける程のダメージを負わせていた。

 一瞬の油断のせいで、式神の拘束力も弱くなっており、その隙を見逃さなかった魚人は意図も簡単に式神を砕いた。


 「やべぇ…な」


 2つの赤い眼が道長と捉えていた、まだ式神はあるが片方の手がイカれたせいで術式を組むの時間がかかる。

 このままではあの魚の餌になるのも時間の問題だ。

 身代わりも連発して使えない、使っても直ぐに追いつかれる。

 万事休すか…と思われたその時――


 『止まって(とまれ)


 二重に聞こえた声、その声で魚人が動かなくなる。


 「ぐッ…ヒナ…ミ!?」


 「ッ!!“式神紙術”――白虎!!」


 白い大きな虎が飛び出す!

 その大きな口が魚の頭を捉えた瞬間、生々しい音と共に頭が抉り取られ、ゆっくりと身体が崩れていく。

 

 「ハァ…ハァ…、た、助かった……」


 誰かは知らないが“言霊”と言う技で相手の動きを制御したのだろう。

 だがその声の主が間違いでなければ後ろにいる封印が施された部屋から聞こえた気がするが…解呪すれば問題ないだろう。


 「白虎、辺りにいる敵を蹴散らせ、(霊力)は全てお前にやる」


 頭を撫で、最後にポンと叩くとそれが合図のように駆け出し上層部に居る敵を薙ぎ倒していく音が聞こえる。

 そして目の前にある封印の部屋、手印を合わせ「解!」っと言うと、呪符は燃え、繋がれた鎖も解けていった。


 中を開けるとそこには1人の黒髪の少女が居た。

 痛む腕を止血しながら近づき、目線の合う姿勢まで屈み尋ねる。


 「君が、滝加賀日南ちゃん…かい?」


 「――」


 頷いた。

 どうやらこの娘が、今回のターゲットのようだ。

 

 「一緒に行こう」


 手を差し伸べるもその手を取ろうとはしなかった。

 まるでその手を取れば、この先、どんな未来が待ち受けているのかわかるみたいに。


 『|いけない《どうせい生贄にするつもりのくせに》』


 「ッ!?」


 『|あ…《アンタも此処にいる頭のおかしい連中と同じ》』


 「(そうか、やはり…任務のことを)」


 身体を見ると腕の部分が削がれて痕になっている。

 痛々しい姿、それは――そう思うに決まっている。

 このまま連れて帰れば道長の任務は終える、だが――


 「……違う、俺は君を助けにきたんだ」


 これできっと道長は“霊術院”をクビになるだろう、だが道長も人間だ。

 このような光景を見せられてただ黙って“霊王の器”になる彼女を見るのは…忍びない。

 ならせめて、自分で選ばせたいと、そう思った。


 「どうする?来れば君の選択で自由になれるかもしれない」


 『本当?(嘘つき)


 「(舌が2枚、それと多重人格か?もう1人別の子が話している)」


 異端と呼ばれるかもしれない、迫害されるかもしれない、だがそれでもチャンスは――


 「もう一度言う、自由になれるのは、君次第だ」


 手を伸ばす、その手を恐る恐る手に取り立ち上がる。

 

 「行こう」


 こうして道長の任務は終えた。

 結果的には“滝の民”達は全員殺す事になってしまったが、皆が“人魚”になっている事から“物の怪”として処理された。

 “霊術院”に帰る前、道長はある人物と電話をしていた。


 「こんな事を頼めるの、貴方しかいなくて」


 『便利屋だと思われてない?』


 「い、いえ、そんな事は…」

 

 『俺、何時から保護者会の会長に就任したんだ~っての?』


 「す、すみません」


 『けどまぁ、ちょーと気になる事もあるし、何より“霊術院側”の動きも可笑しいんだよね』


 「おかしい?」


 『だってまだ器って、転生の儀を執り行う時期にしては早計過ぎない?な~んか裏があるような気がする~』


 「……」


 確かに霊術院には黒い噂もある。

 が、しかし、わざわざ疑われるような事をするだろうか?

 いや、疑われてでも時間がないと、そう思っているのだろうか??


 『その娘、預かるよ。ただ~し!』


 「?」


 『道長にも協力してもらいたい事あるからこっち側についてもらうけど、OK?』


 「……派閥は嫌いなんですが」


 『疑いの目を取りたいんだよ、任務は適当に俺の名前出して失敗したって言えば良いから』


 「……畏まりました」


 『じゃよろしくね~ん』


 「……裏…か」


 霊術院側の思惑、最近活発している詛呪師の活動、年々増加傾向にある悪霊の事件――これらが霊術院と関りがあるなら、無視できない。

 

 その後、電話の主“京極戎史郎”と会い、滝加賀日南を渡し、滝の集落で行方不明となった3名の“遺体”を発見した。

 どれも一部分が肥大化しており、変死したと見るのが良いだろう。

 事の報告を霊術院側にも伝えたが、特に罰も何もなかった。


 解剖後、胃の中にあった肉らしきものはやはり“滝加賀日南”のDNAと一致しており、その拒絶反応のせいで変死したと見て間違いなかった。

 こうして道長大輝の任務は終わった。



 

 夜、呼び出された場所に向かうと、相変わらずチャラけた服装の人物が居た。


 「お疲れ様です、京極さん」


 「おうお疲れ~、調べたらビックリ!」


 そう言って紙を渡してくると、それを流し見で見る。

 一文に“人魚の娘”と書かれていたとこ以外は特段気になる事はなかった。


 「“滝の民”はこの娘の親共々抱え込んで長年生きながらえてきてたっぽいね、ただ全員の解剖が済んでないから断定できないけど、誰一人上手く適合できた人物は居なかった」


 「何故です?俺が戦った奴が魚人に――」


 「あの娘、喋る時、2枚舌だからか分からないけど、もう1人の自分も同時に話してるんだよね」


 確かにそれは分かっていた。

 だがそれが何の関係があるのだろうか?


 「簡単に言えば、人間と物の怪のハーフ&ハーフって感じ?人間の側面を削ぎ取った細胞を取り込んでも、完全な人魚にはなれないし、その力を譲渡もできない」


 「ならますます魚人になった意味が……」


 「多分、恐怖とか痛みとか、そう言う気持ちの念波?みたいなのが一時的に共鳴して、霊力が流し込まれてただけだと思う」


 「……」


 「だから本当に人魚の力を取り込みたいなら人間としての側面を持つ滝加賀日南を殺して、もう1人の滝加賀日南を出した上で儀式を完成させないと、完全な人魚にはなれないって事」


 「医学でありますよね、多重人格…」


 「そうソレ!まぁ彼女の場合は特殊も特殊!つうかあれで“霊王”とドッキングとか無理でしょ、拒絶反応で“霊王”に支障が出る場合がある、何考えてんだが、上層部は」

 

 「上層部も知らなかった…と」


 「ああ、だから君の任務失敗もかる~かったでしょ?それ以上に言う事がないから」


 「なるほど」


 「ってことで、しばらくの間、あの娘、預かって?」


 「は?」


 「元々君が連れてきたんだから面倒ぐらい見てよ、俺は明日から海外でバカンス!!」


 「ちょ!京極さん!」


 「同僚に会ってくる~、何か弟子ちゃんがもしかしたら特級霊媒師になるとかなんとか…」


 「待ってください!」


 「ニューヨークだから、アメリカンだから!お土産は俺の見た感想だから!楽しみにしとけ~」


 「も~京極さん!」


 こうして道長大輝はまた別の意味で任務を託された。

 結局“滝の民”は、滝加賀日南の人間の側面の細胞を摂取する事で一時的には人魚の力を手に入れたが、それ以上の力は手に入らなかった。

 それに気づいた“滝の民”は噂話をながした上で、客人を招き入れた上で“人魚の肉”を食わせ人為的に“人魚”を作り出して自身も“人魚”になろうとしていた。

 これが事件の全貌だ、その為にあった被害者は100をも簡単に超える。

 その間…滝加賀日南は生きたまま、その身を文字通り解剖され続けていたのだろう。

 終わってみてだが、恐ろしい話だ。



 第二十三怪 人魚を喰らう民

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