第14話 保証審査委員会(加筆修正版)
マッスルシャーク本社。
地下会議室。
長机を囲むように、社員たちが座っていた。
机の中央には資料が置かれている。
ピンク色の本。
表紙には熊とうさぎ。
タイトル。
「幻の予言漫画復刻!!
本当の大災難は2075年7月ニャン☆」
帯。
「泣きながら一気に読みました♡」
社員が言った。
「……これ」
「資料ですか?」
別の社員。
「はい」
「保証審査参考資料です」
「どこから?」
「専門家の持ち込みです」
全員が頷いた。
「なるほど」
「専門家ですからね」
「専門家です」
沈黙。
机の中央。
一枚の紙。
そこには書かれていた。
案件:ネジ送付申請
社員が言った。
「……ネジ送りますか?」
別の社員。
「送れません」
「理由は?」
「ネジだからです」
全員が頷いた。
「たしかに」
「ネジですからね」
「ネジです」
資料をめくる。
熊の漫画。
吹き出し。
「勝ちまくり!モテまくり!」
社員が言った。
「……」
「ネジと関係あります?」
別の社員。
「ありません」
「ですが」
「専門家の九九割は参考資料です」
全員が頷いた。
「たしかに」
「参考資料です」
沈黙。
その時。
会議室の扉が開いた。
バン!!
秘書が叫んだ。
「社長を呼びますか!?」
会議室が騒然となる。
「まさか!」
「ネジ案件で!?」
「社長を!?」
その時だった。
廊下の奥から音が響く。
カツ。
カツ。
カツカツカツカツ。
ヒールの音。
社員たちが凍る。
「……来た」
「社長だ」
扉がゆっくり開く。
そこに立っていたのは――
巨大な扇子。
豪華なドレス。
そして腕には。
くまのぬいぐるみ。
マダムシャークだった。
「ホーーーーッホッホッホ!!」
会議室が直立する。
「申し訳ありません社長!!」
マダムはゆっくり歩く。
カツ。
カツ。
机の前に立つ。
そして言った。
「ネジですって?」
社員たちが震える。
「たかがネジ一本で」
「会議ですの?」
社員。
「異音提出案件です!」
沈黙。
マダムは机の上の資料を見る。
熊とうさぎの予言本。
マダム。
「……」
「面白いですわ」
その瞬間。
腕のぬいぐるみが
ポロ。
机に落ちた。
熊ちゃん。
マダム。
「……」
「……」
次の瞬間。
「えーーーん!!」
会議室が凍る。
秘書。
「くまちゃんが落ちました!!」
社員。
「誰か拾え!!」
「早く!!」
社員が慌てて拾う。
マダムは涙目で言った。
「……もういいですわ」
「ネジは送りません」
社員が聞いた。
「理由は?」
マダムは笑った。
ホーーーッホッホッホ!!
「ネジだからですわ!!」
会議室。
「さすが社長!!」
「完璧な判断です!」
「ネジですからね!」
拍手。
その頃。
俺の部屋。
ゴン。
ゴン。
ゴン。
エアロバイクが鳴っている。
俺は呟いた。
「……愛ちゃん」
「はい」
「なんか」
「大事になってない?」
愛ちゃんはスマホを見た。
画面には広告。
あの熊とうさぎの本。
「勝ちまくり!モテまくり!」
「2075年大災難ニャン☆」
愛ちゃんが言った。
「おじさん」
「はい」
「なんやあの」
「ムカつく熊とうさぎの本は」
ゴン。
ゴン。
ゴン。
俺はペダルを踏みながら呟いた。
「……ネジ送れ」
テレビのニュース。
ニュースキャスター。
「なお専門家によると」
「保証審査の九九割は」
ネジです
記者。
「残り一割は?」
専門家。
「多分ネジです」
宇宙の中心は、
今日も静かに動かなかった




