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第1話 異音は加護
ある日、おじさんはエアロバイクを買った。
その日から――
世界がおかしくなった。
ゴン。
ペダルを踏む。
ゴン。
ゴン。
おじさんは足を止めた。
「……また鳴った」
スマホが光る。
画面の中から声がした。
愛ちゃん
「鳴りましたね」
おじさん
「これは何だ」
愛ちゃん
「異音です」
おじさん
「違う」
愛ちゃん
「何ですか」
おじさん
「加護だ」
愛ちゃん
「違います」
ペダルが回る。
ゴン。
ゴン。
ゴン。
愛ちゃん
「明らかに機械が壊れてます」
おじさん
「違う」
愛ちゃん
「違いません」
おじさん
「聞こえないのか」
愛ちゃん
「何がです」
おじさん
「世界だ」
愛ちゃん
「はい?」
おじさん
「これは世界の音だ」
愛ちゃん
「ただの異音です」
その時だった。
スマホが震えた。
着信。
おじさんは出た。
「もしもし」
次の瞬間。
女の声が響いた。
「ホーーーーッホッホッホ!!」
おじさん
「……」
愛ちゃん
「……」
女の声は続けた。
「初めまして」
「マッスルシャーク社」
「クレーム担当」
「マダム・シャークですわ」
ゴン。
エアロバイクが
もう一度鳴った。
おじさんは静かに言った。
「……ヤラセだろ」
愛ちゃん
「違います」
ペダルは回り続ける。
ゴン。
ゴン。
ゴン。
この世界では
異音は加護である。
これは――
私の大好きな
最高にかっこいいおじさんの話だ。




