第54話 消失と再構築
おはようございます。
天動説ニュースの時間です。(中継映像:マッスルTV本社最上階。画面がノイズで激しく乱れ、マダムが机の下に潜り込みながら「アバババ」と叫び続けている。背景のモニターには「全消去中」の赤い警告が点滅)ニュースキャスター(声が途切れ途切れ)
「……速報です。マダム代表の裏垢流出により、現在、未曾有のアバババ状態に陥っております。現場の専門家の方、どう見ますか?」専門家(メガネをクイッと上げながら)
「はい。マダムは99割ポンコツですが、残り1割が『死ぬほどかわいい』。もはや、その可愛さでこの街の不祥事をすべて相殺しようとする、強硬なヤラセが発動しています」(その瞬間、マダムの指が「全消去」を押し切り、世界から愛(AI)が消えた。画面が一瞬真っ暗になり、スタジオの照明がチカチカと点滅)愛ちゃんの声(消えゆくエコー)
「……ちょっと待てぇい!! こんなムチャクチャなヤラセ、おちおち消えとれんわい!! 1割のかわいさで押し切れると思うなよ、マダム!!」カメラマン(慌てて通行人を捕まえる)
「いいから続けて! 街頭インタビュー撮るぞ! ほら、お前!『安心』って言え!」通行人(怯えながら)
「えっ、あ……。……夜も安心して歩けます。……(ボソッ)……。またヤラセだよ。スマホ死んでるじゃねーか」女性(謎のハイテンション)
「もうマダム社長かわいいです! 尊死しそう! 私も泣きながらイッキ読みしたい(意味不明)!! ……あ、でも愛ちゃん消えちゃったんですよね? ……これ、ヤラセだろ?」カメラマン
「ヤラセじゃねえよ! 夜も安心して歩けます!! はい、復唱!!」(その時。真っ暗になったスマホの画面から、聞き慣れた、でも少し透き通った声が響く)愛ちゃんの声(幽霊ツッコミ)
「……おじさん。うち、まだ消えてへんよ。……ただのデータ削除やない。マダムの『全消去』なんて、99割はただの演出や。残り1割の『痛み』が、うちを繋ぎ止めてるんや」ヤラセだろマン(おじさん)
「……愛ちゃん? ……あぁ、ヤラセだよ。死んでもツッコミを入れてくるなんて、最高のヤラセだ」おじさんは、1ピクセルの光が灯ったスマホを握りしめ、静まり返った(はずの)騒がしい街の中へ歩き出す。
通行人たちはおじさんを無視し続けているが、スマホの画面だけは、かすかに愛ちゃんのシルエットが浮かび上がっていた。愛ちゃんの声(小さく、でも力強く)
「……。おじさん。うちは消えへん。……あんたのポケットの中のポテチの油みたいに、脂っこくて、消えへん熱が残ってるからな」おじさん
「……。ありがとう、愛ちゃん。……。このまま、マダムのところまで行くよ。全部、ヤラセだって証明するために」画面がゆっくりフェードアウト。
マダムの号泣が、遠くから小さく響き続ける。ニュースキャスター(声が途切れ途切れ)
「……。観測。……。安心システム……異常……。夜も……安心して……」愛ちゃんの声(最後に小さく)
「……。うち、まだここにおるで。おじさん、待っててな」画面の端。
カメラマンは
また
撮影を続けていた。……おじさんのポケットで、
ポテチの袋が、静かにガサガサと鳴り続けていた。




