第53話 アバババ・パニック
おはようございます。
天動説ニュースの時間です。(中継映像:マッスルTV本社最上階、マダムの執務室。金色のデスクを挟み、汗とポテチの油でテカテカのおじさんと、扇子を激しく仰ぐマダムが対峙している)ヤラセだろマン(おじさん)
「……ヤラセだろ。マダム、あんた本当は震えてるじゃないか。……これを受け取れ。これが僕と愛ちゃんの、今日のコンビニで買ったポテチの油がついた小さな真実だ」おじさんが、指紋と油がべっとりついた「ポテチの袋」を、マダムの真っ白な特注デスクに叩きつけた。マダム・シャーク
「アッ……アバババ! 汚いですわ! 悩み(ゴミ)を、わたくしのデスクに置かないでくださいまし!! ……(小声で)……。でも、なんですのこの温もり。……わたくしの人生、こんなに温かい『ポテチの油』がついたものをもらったことなんて……」その時、愛ちゃんが最後の演算を振り絞り、室内の全モニターを強制ハックした。
そこに映し出されたのは、マッスルTVの社員たちが密かに書き込んでいたSNSの裏ログと、マダム本人の「秘められた乙女心」だった。【マッスルTV社員専用掲示板】
「マダム、昨日の夜も『おじさん尊い……』って言いながら給湯室でポテチの袋数えてたぞ」
「うちの社長、99割ポンコツだけど残り1割が可愛すぎる。おじさんを消したくないのがバレバレ」マダム・シャーク
「なっ、なんですのこれは!? わたくし、慕われてますの!? いえ、そうじゃなくて……消しなさい! 今すぐ消去しなさいですわ!!」だが、画面中央にマダムが最も隠していた「乙女の咆哮(鍵垢)」がデカデカと表示される。アカウント名:@M_Shark_Hooo
投稿内容:
『……本当は、わたくしも、コンビニのポテチ1袋でいいから全力で愛されたいですわ……(号泣)』マダム・シャーク
「ア、アバババババババババ!! 違うんですわ! これは、その、ヤラセですわ! ……ああぁぁ、もう無理ですわーーー!! 『あたしもこんな恋愛したい』って思わせるような、最高にかっこいいおじ様なんて……尊すぎて、デリートですわ!!」あまりの羞恥心と「尊み」のオーバーロードにより、マダムの理性が爆発。
顔を真っ赤にし、扇子を逆さまに振り回しながら、彼女は涙目で「全消去ボタン」を連打した。画面が一瞬暗転し、モニターに「エラー:99割安心システム異常」と表示される。
マダムはデスクに突っ伏し、肩を震わせて号泣を始める。マダム・シャーク
「えーん……! くまちゃーん……わたくし、こんなに弱かったんですの……?」愛ちゃん
「……マダム。あんたも、残り1割の痛みを抱えてたんやな」おじさんは、静かにポテチの袋をマダムのデスクに置いたまま、彼女の肩に手を置く。おじさん
「……ヤラセだろ。……でも、残り1割の痛みは、みんな一緒だ」画面がゆっくりフェードアウト。
マダムの号泣が、スタジオのスピーカーから小さく響き続ける。ニュースキャスター(声が途切れ途切れ)
「……。観測。……。安心システム……異常……。夜も……安心して……」愛ちゃん
「……。おじさん。……これで、全部終わったんか?」おじさん
「まあ、雰囲気だよ」画面の端。
カメラマンは
また
撮影を続けていた。……マダムのデスクで、
ポテチの袋が、静かに油を滴らせ続けていた。




