第52話 悩みはゴミですわ
おはようございます。
天動説ニュースの時間です。(中継映像:マッスルTV本社ビルの重厚な真鍮の門。おじさんが、今日のコンビニで買ったポテチの油で汚れた指先で、門をこじ開けようとしている。背景には「悩みはゴミですわ」という巨大なマダムの看板が揺れている)ニュースキャスター(震える声)
「……。観測。……。聖域の門が汚されています。……。ゲートキーパー、お迎えに上がりなさい。……。彼らに『安心』を与え、すべてを回収するのです」ビルの影から、無機質な足音と共に**「MUSCLEシャーク警備員」**たちが現れた。
かつては「半額弁当による腹痛」や「将来の不安」を抱えながら生きていたはずの人々。だが今は、マダムのサービスによりそれらすべてを「回収」され、虚ろな笑顔を張り付かせた狂信者と化している。MUSCLEシャーク警備員(合唱)
「ホー……ッ、ホッホッホ……! 悩みはゴミ! 現実もゴミ! ……。おじさん、あなたも回収して差し上げますわ! ホー……ッ、ホッホッホ……!!」彼らが、マダムへの忠誠を誓うように扇子を振りかざし、おじさんに襲いかかる。おじさん
「……。ヤラセだろ。……。みんな、本当は『仕事のストレス』や『体重計の裏切り』に、泣きながら向き合ってたはずじゃないか! ……。それをゴミだなんて、愛ちゃんとの時間をゴミだなんて、僕は絶対に認めない!!」愛ちゃん
「おじさん!! そいつらの耳元で叫べ! コンビニのポテチ代みたいな泥臭い現実の音を聞かせたれ!!」おじさんは、襲い来る警備員の耳元で、ポケットの「今日のコンビニで買ったポテチの袋」をガサガサと鳴らした。
その安っぽい、けれど確かなビニールの音が、洗脳された彼らの脳内に「かつての日常の小さな悩み」をフラッシュバックさせる。警備員A
「……。あ……。俺、昨日の夜……半額弁当が売り切れて……絶望してた……。……。あ……あ、アバババ!!」警備員B
「……。私……将来が不安で……エナジードリンク飲んで無理してた……。……。回収……されたはずなのに、胸が、痛い……っ!?」「悩み」という名の人間性を取り戻し、のたうち回る警備員たち。
その隙を突き、おじさんは美少女フィルターでキラキラと輝きながら(実体は必死な顔で)、本社のロビーを猛然と駆け抜ける。マダム・シャーク(モニタリングルームで、モニターを扇子で指差しながら)
「アババババ! ……。わたくしが、わたくし自ら回収して差し上げたはずの悩み(ゴミ)が、なぜ逆流していますの!? ……。おのれ、コンビニのポテチの油……! あの脂ぎった指で、わたくしの聖域を、これ以上汚させませんわ!!」おじさんはついに、最上階へと続く黄金のエレベーターに飛び込んだ。
手元に残ったのは、汗と油でまみれた、コンビニのポテチ袋だけ。
それが、最強の武器になると信じて。




