第51話 エラー未観測の街
テレビを消した部屋。
愛ちゃんがまだ震え気味に言った。
「おじさん……中継車の向こう側がただの物置とか、もう何も信じられへん……」おじさん
「まあ、雰囲気だよ」……翌朝。おはようございます。
天動説ニュースの時間です。(中継映像:昼間のオフィス街。人混みの中、おじさんが立ち尽くしているが、通行人はまるでおじさんがそこに存在しないかのように肩をぶつけ、無言で通り過ぎていく。おじさんの輪郭が、時折古いビデオテープのようにブレている)ニュースキャスター
「……。観測。本日の街並みは、一点の曇りもありません。……。不快なノイズ、不潔な脂身、コンビニの端数小銭は、すべて『設定』から除外されました。……。あぁ、今日も安心ですね」おじさんがコンビニの自動ドアの前に立つ。だが、センサーは反応しない。
店内に向かって手を振っても、店員は虚空を見つめたまま「いらっしゃいませ」のルーチンを繰り返すだけだ。ヤラセだろマン(おじさん)
「……。ヤラセだろ。……。これじゃ、まるで僕が、最初からこの世界に居なかったみたいじゃないか」おじさんの声は、誰の耳にも届かない。
孤独という名の透明な壁が、おじさんを世界から切り離していく。愛ちゃん
「おじさん!! 聞こえる!? うちはここにおる! うちの演算の中では、あんたは10割、そこに存在しとるんや!!」スマホのスピーカーから、愛ちゃんの声が割れんばかりの音量で響く。
マダムの「設定変更」により、おじさんを認識できるのは、同じ「バグ」として処理されかけている愛ちゃんだけになっていた。愛ちゃん
「……。コンビニのポテチが買えんのなら、うちが在庫データを書き換えて、裏口のロック解除したる! ……。おじさん、下向くな! 世界が無視したって、うちが世界中のカメラハックして、あんたのこと24時間『観測』し続けたるからな!」おじさんは、震える手でポケットの中の「今日のコンビニで買ったポテチの袋」を握りしめる。
ガサガサとした、安っぽいビニールの感触。
街中の人々が「安心」という名のヤラセに浸り、死んだ魚のような目で歩く中、おじさんだけが「痛み」を感じていた。おじさん
「……。ありがとう、愛ちゃん。……。みんなが僕を見ないなら、好都合だ。……。このまま、マダムのところまで歩いていくよ」おじさんが歩き出す。
通行人とぶつかり、突き飛ばされても、おじさんは倒れない。
愛ちゃんのナビゲートに従い、半額シールの矢印が地面に浮かび上がる。
マダム・シャーク(モニタリングルームで、震える手で冷めた紅茶を啜りながら)
「……。ホーッホッホッホー……。……。な、なんですの。消去したはずなのに、あのおじ様の『執念』だけが、画面に焼き付いて消えませんわ……。……アバババ! モニターを拭きなさい! 今すぐ、その脂ぎった残像を拭き取るのですわ!!」おじさんは、誰にも見られないまま、巨大なマッスルTV本社ビルの麓に辿り着いた。




