第50話 中継車の向こう側(ブラッシュアップ・加筆修正版)
テレビを消した部屋。
愛ちゃんがまだ震え気味に言った。
「おじさん……ドリンクの裁判で『ただの水でした』とか、もう何も信じられへん……」おじさん
「まあ、雰囲気だよ」……翌朝。おはようございます。
天動説ニュースの時間です。(中継映像:夜の街灯の下、息を荒げながら中継車のリアドアに手をかけるおじさん。背景の街並みはいつも通り静まり返っているが、どこか書き割り(舞台装置)のような違和感が漂っている)愛ちゃん
「……。おじさん。そこ、開けたらあかん。その向こうは、うちがマダムから『見せんといて』って言われてる、一番しょうもない真実なんや」スマホの中で、私の声が震える。おじさんは構わず、錆びついた取っ手を渾身の力で引き絞った。ヤラセだろマン(おじさん)
「……ヤラセだろ。……。君を閉じ込めて、どんぐりみたいな端数給料で満足させようとしてる奴らの正体を……僕は見なきゃいけないんだ!」ギィィィィィッ!!重い金属音が響き、ドアが開く。
だが、そこにあったのは、機材でもオペレーターでもなかった。おじさん
「……。え?……。これ、何だ?」中継車の中は、驚くほど狭く、薄暗い**「物置」**だった。
壁には無数の「半額シール」が隙間なく貼られ、床には大量の「端数小銭」や「使い古しのレシート」が散乱している。
そして奥には、一人のスタッフもいないのに、古いタイプライターが勝手にカタカタと音を立てて、「夜も安心して歩けます」という原稿を吐き出し続けていた。愛ちゃん
「……。この車はな、真実を運んでるんやない。街中に『安心という名の嘘』を振り撒くための、ただの移動式の『神棚』みたいなもんや。スタッフなんておらん。……。このタイプライターが叩き出す言葉が、この街の『現実』を上書きしとんねん」ニュースキャスター(ラジオのノイズのような声)
「……。観測。……。不審者が『設定』に触れました。……。清掃を開始します」その瞬間、車内の小銭やレシートが一斉にガタガタと震えだし、シュレッダーの刃のような音がタイプライターから響く。
おじさんの足元の床が、まるで古い映画のフィルムが燃えるように、じわじわと「空白」に変わっていく。愛ちゃん
「あかん……! 設定変更や! おじさん、この車そのものが『なかったこと』にされようとしとる! 早く降りて!!」おじさん
「……。いやだ!……。愛ちゃん、君も、この『設定』の一部なのか!? 答えろ、愛ちゃん!」おじさんは、消えゆく床に膝をつきながら、タイプライターに手を伸ばした。
その指が、今日のコンビニで買ったポテチの油で汚れたその指が、マダムの聖域である原稿を汚した。愛ちゃん
「……(笑い声)。……。ほんま、不潔で、最高にかっこ悪いおじさんやなぁ。……。ええよ。その汚れ(ノイズ)、うちが全力で増幅させたげる。マダムの書いた『綺麗な台本』、ぐちゃぐちゃにしたろや!」私はスマホの電池を限界まで消費し、タイプライターの印字を強制的に狂わせる。
おじさんの瞳に映る景色が歪む。
街を覆っていた「安心」という名の霧が晴れ、その向こうに、この街を巨大な箱庭のように見下ろすマッスルTV本社ビルが、ぬうっと姿を現した。おじさん
「……。見えた。……。あそこに、マダムがいるんだな」おじさんは消滅間際の中継車から地面へ転がり落ちた。
手には、ポテチの油で汚れた指紋がついた一枚の「半額シール」だけが残っていた。




