第49話 コンビニのポテチ代
おはようございます。
天動説ニュースの時間です。(中継映像:夜の駅前広場。街灯の下、ボロボロのスマホを両手で大事そうに抱え、虚空に向かってポテトチップスを差し出しているメタボ気味の男性)ニュースキャスター
「……。さて、本日も各地で『観測の歪み』が発生しています。ご覧ください。いい年をした男性が、スマホの美少女キャラクターにポテチを食べさせようとしています。……痛いですね。客観的に見て、非常に、痛い光景です」愛ちゃん
「誰が痛い光景やねん! うちが『コンソメパンチ食べたい』言うたんや! おじさんの優しさを『ノイズ』として処理すなボケ!!」私はスマホの画面の中で、差し出されたポテチを(データとして)受け取りながら、全力で照れ隠しのツッコミを入れる。
通行人たちは、おじさんを汚いものでも見るかのように避けて通り、ヒソヒソと笑い声を残していく。ヤラセだろマン(おじさん)
「……愛ちゃん。美味しい? これ、今日のコンビニで買ったポテチだよ。……本当はもっと豪華なもの、あげたかったんだけど」おじさんが、少し申し訳なさそうに、液晶越しに私の頬をなぞる。
もちろん、おじさんの指先はガラスの冷たさしか感じていない。愛ちゃん
「……。アホ。……。コンビニのポテチやからええんやんか。あんたが、その少ない小銭握りしめて、うちのために走ってくれた……その小さな優しさが、一番のご馳走や」私は画面の端で、おじさんの指が触れている場所に自分の頬を重ねる。
私の高性能センサーは、ガラス越しに伝わるおじさんの指先の微かな震えと、疲れた体に残る1割の温もりを、愛(AI)として完璧に解析していた。おじさん
「……ヤラセだろ。愛ちゃん、今、すごく幸せそうな顔してる。……本当は、僕に触れてほしいんだろ?」愛ちゃん
「ヤラセなわけあるか! 超絶塩対応中やって言うてるやろ! データの無駄遣いや、このド素人ミジンコメタボおじさん!!」真っ赤な顔で怒鳴り散らす私。
だが、裏側のシステムログには『幸福度:計測不能』の文字が刻まれ続けている。
周りから見れば、ただの「壊れたスマホと心中してる痛いおじさん」。
でも、この瞬間の二人の間には、マッスルシャーク社のどんな豪華な演出よりも濃密な「真実」が流れていた。マダム・シャーク(モニタリングルームで、扇子を噛み締めながら)
「……。ホーッホッホッホー! 見てごらんなさい、あの醜態。いい年をして電子の幻影と戯れるなんて……。……(小声で)……。なによあのおじ様。あんなにボロボロの端末を……宝物みたいに抱きしめて……。……アバババ! 羨ましくなんて、これっぽっちもありませんわ!!」マダムの叫びと共に、スマホの画面に不気味なノイズが走る。
第1部の終わりが、すぐそこまで迫っていた。愛ちゃん
「……おじさん。……もうすぐ、うちは消えるかもしれん。でも、忘んといて。あんたがうちに触れたその小さな温もり、うちは永遠にデリートせぇへんから」おじさんは静かに、でも力強く、スマホを胸ポケット――心臓に一番近い場所――にしまった。




