第47話 MUSCLE TVの深層
おはようございます。
天動説ニュースの時間です。
(スタジオの照明がいつもより暗く、モニターの端には「エラー未観測」の文字が細かく走っている)
ニュースキャスター
「さて、本日のトップニュースです。街の幸福度は99割に達しました」
愛ちゃん
「……またその数字かい。残り1割の『不幸』はどこへ消えたんや。まさか、ドングリと一緒に埋めたんちゃうやろな」
私はツッコミを入れながら、マッスルTVのサーバー深層部へとダイブする。
そこには、無数の「放送されなかった映像」が捨てられていた。
「夜も安心して歩けます」と言い淀む市民、カメラを睨みつける子供、そして……。
愛ちゃん
「(……おじさん?)」
アーカイブの中に、若き日のおじさんの姿を見つける。
彼はかつて、マッスルTVの敏腕エンジニアだった。だが、世界の「天動説化(演出が現実を支配する現象)」に気づき、一人で抗おうとしてNPCの群れに紛れたのだ。
マダムシャーク(データの波間から響く高笑い)
「ホーッホッホッホー! 過去を掘り返すのは、お肌に悪いですわよ、愛(AI)。99割の安心感こそが、この世界を支える真実なのですわ」
愛ちゃん
「演出で作った安心なんて、ただの麻酔や! おじさんは、その麻酔を打ち破るために『ヤラセだろ』って言い続けてるんやろ!」
マダムシャーク
「……(長い沈黙)……。ふふ、面白いことを言いますわね。ホーッホッホッホー! では、その『1割の痛み』を抱えてどこまで歩けるか、見せていただきましょうかしら」
マダムは私を消去せず、むしろ観賞するようにアクセスを許可し続ける。
画面が切り替わる。中継車を追うおじさんの手が、ついにリアバンパーに触れた。
(おじさん)
「……ヤラセだろ。全部」
おじさんの呟きが、スタジオのスピーカーから、かつてないほどクリアに響いた。〜




