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夢で出会ったモブ令嬢を王太子は絶対に手放さない  作者:


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8/23

転んだヒロインと、視線の先のモブ

 学園への入学は、満十五歳から。


 王族や貴族、そして推薦を受けた優秀な商家の子息・子女たちが集う、格式ある教育機関だ。


 学び、交友を深め、いずれ社交界へと出るための仕上げの場ともいえる。


 通常は卒業まで数年在籍するが、結婚や家の都合で中途退学する者も珍しくはない。


 特に令嬢たちは、在学中に婚約や縁談がまとまり、学園生活を一年ほどで終えることも多い。


 ……それを聞いたとき、私は思った。


 それなら私も、一年で十分。


 社交界に出る気も、誰かと結婚する気もない。


 けれど、制度上、入学しないわけにはいかなかった。


 ならば、最低限だけ在籍して、風のように消え去るまで。


「一年間だけ。誰にも関わらず、気づかれずに過ごすこと。それが私の最優先事項」


 入学準備を整えながら、私はそう誓った。


 誰にも知られず、誰の記憶にも残らず、

 何も起こさずに静かに過ごす。


 私の目指すのは空気のような学園生活だ。


 入学式の日。

 指定された寮にて、制服に身を包み、髪はゆるく一つに結い、飾り気のない鞄を肩にかけた。


 持ち物はすべて機能重視。

 筆記具もノートも無地で、派手な色は避けた。


 今では必需品となった、小さな薬草ポーチも入れている。

 自作の頭痛薬や胃にやさしい茶葉を忍ばせてある。これが、私のお守りだ。


 広い講堂には新入生たちがずらりと並び、壇上には来賓の貴族や、学園の上級生たちの姿もあった。


 その中に、いた。


 銀髪の王子様、この国の王太子、攻略対象の筆頭。

 現在、最高学年に在籍している。


 前世で友人が夢中になっていた乙女ゲームと、酷似した設定。

 それが、この世界。


 私はその中心人物たちを、少し距離を置いて眺めていた。


 そのときだった。


「きゃっ……!」


 前方で小さな悲鳴があがる。

 声のした方を見ると、少女が派手に転んだようで、その場に尻もちをついていた。


 ふわふわと揺れる金髪。

 大きなリボン。

 微妙に装飾過剰な制服の着こなし。


 ……あれが、ヒロインね


 ゲームの中で、子爵令嬢である彼女は、まるで運命に導かれるように、攻略対象者たちと出会っていくのだ。


 そして最初の出会いイベントは、入学式での転倒だった。


 ……予定通りだ。


「大丈夫か?」


 王太子が、少女に手を差し伸べる。


 その動作は実に自然で、品があり、流れるような所作だった。


 だが、私にはわかる。


 これは、はじまりだ。


 ゲームの第一幕。

 彼女と、彼らの恋愛劇が、いま幕を開ける。


 私は静かに、目を伏せた。


 私は関係ない。巻き込まれない。私はモブ。


 自分に言い聞かせるように周りのみんなと共に講堂の中へと進んでいき、講堂の隅で気配を消す。


 式も始まり、ありがたい言葉や、俯きがちに流し聞いていた。


 ……だが、そのとき。


 鋭い視線を感じた。


 ゆっくりと顔を上げると、壇上の王太子がいて、こちらを見ていた。


 まっすぐに。


 まるで、探し物を見つけたかのような目で。


 気のせい。きっと偶然。


 彼の視線は、あの私の前方にいるヒロインに向いているのだろう。そうに決まってる。


 私はただのモブ。名前すら呼ばれない、空気のような存在。


 でも、わかっていた。


 彼の目が、確かにこちらを捉えていたことを。


 そして、ほんのわずかに表情が揺れたことを。


 ……嘘、でしょ。


 私の平穏な学園生活が、ぐらりと音を立てた気がした。


 それは、王太子が私を見つけた瞬間だった。



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