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夢で出会ったモブ令嬢を王太子は絶対に手放さない  作者:


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「研究協力者」の防波堤、決壊まで秒読み

 殿下に促されるまま歩いた先は、学園の喧騒から切り離された特別図書室だった。


 重厚な扉を抜けた先に広がるのは、窓のない、石造りの静寂に支配された空間。扉が閉まった瞬間に訪れた密室の空気に、私は思わず息を呑んだ。


 地上のような人の気配は一切届かない。

 あまりの静けさに、自分の早鐘を打つ鼓動だけがやけに大きく響いて、私は慌てて殿下から距離を取った。


「……で、殿下! さきほどの、あのような……あのようなお戯れは、あまりに度がすぎております!」


 私は、さきほどまで殿下の手が添えられていた腰を片手で押さえるようにして、声を絞り出した。心臓がうるさくて倒れそうだ。けれど、ここでお伝えしておかなければ。


「多大な、あまりにも多大な誤解を招きます! あんな風に耳元で囁いて、あんな風に抱き寄せるようにして……。これでは周囲に、私たちがその、……不適切な関係だと吹聴しているようなものではありませんか!」


 必死の訴え。しかし、殿下は悪びれる様子もなく、私の報告書を鞄から取り出して、中央の大きな机に広げた。


「不適切、か。面白いことを言う。私はただ、君から報告を聞くために、誰にも邪魔されない場所へ移動しただけだが」


「あんな衆人環視の中でなさる必要はなかったはずです! 私は、あくまで研究協力者として――」


「協力者。ああ、そうだったな」


 殿下が報告書を指先でなぞる。

 末梢の冷えが緩和、倦怠感が消失した……。私のガチすぎる体調記録を読み上げる殿下の横顔は、廊下で見せた氷のような冷徹さとは違い、どこか愉悦を隠しきれていない。


「よく書けている。だが、肝心なことが抜けているぞ」


「……はい?」


 殿下はゆっくりと私に歩み寄ると、逃げ場を塞ぐように、背後の書架へ手を突いた。


「君の顔がこれほど赤くなっている理由も、この報告書には記されていない。……これは臨床データとして、極めて不完全ではないか?」


 殿下、何を言っているんですか。

 それはデータとは関係なく、全部殿下のせいです。

 そう叫びたいのに、至近距離で見つめてくる琥珀色の瞳の熱量に、言葉が喉に張り付いて出てこない。


「研究材料への反応としては、正しく記録すべきだろう? セレナ」


 甘く名前を呼ばれ、私の防波堤は音を立てて決壊した。


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