また来た。どうしてここが分かるの
昼休み。
私は講義棟の裏を避け、今日は中庭の奥、小さな温室裏の通路へと足を運んでいた。
ここはあまり通る生徒もおらず、背の高い植栽に囲まれて視界も悪い。人目を避けるにはちょうどいい場所だ。
昨日の出来事を思い返すたび、胃のあたりがそわそわする。
あれは……偶然じゃない。
レオナルト殿下の言葉。まなざし。あの微笑み。
そして最後の「また来るよ」という、あの一言。
夢でも見ていたのかと、何度も自分に問いかけたけれど、あの視線の熱だけは忘れられなかった。
だから、同じ場所にはもう行かない。
静かに暮らすには、注目を集めることは絶対に避けなければならない。
……今日こそ、ひとりで食べてみせる。
そう心に決めて、私はパンの包みを膝に乗せた。
甘く煮詰めた果実を挟んだそれは、今日の密かな楽しみ。ひと口かじると、やわらかな甘みが口いっぱいに広がった。
……ふふ。これで、勝ったも同然。
勝負相手が誰なのかは、少し考えないことにして。
誰にも見つからずにこの時間を終えること。それが、私の静かな勝利条件だ。
だったのに。
「……やっぱり、今日はこっちだったか」
あまりにも自然に響いた声に、私は反射的に身を固くした。
「っ……殿下……」
昨日と同じ。いや、それ以上に静かに、私の隣にレオナルト殿下が現れていた。
どうして、ここに……?
講義棟の裏を避けたのに。人が来ない場所を選んだのに。
それなのに、なぜ……なぜ、あなただけが……!
「驚かせたなら、すまない。でも、また君に会える気がしていた」
そう穏やかに微笑んで、彼は少し距離を保ちながら腰を下ろした。
まるで私がこの場所を選ぶことを、最初から知っていたかのように。
……まさか、昨日の言葉は……脅しじゃなくて予告だった?
「今日は、少し甘い香りがするね。……果実パン、かな?」
「…………」
言葉が、出ない。
なぜ知ってるの? どうして、そこまで……
「……セレナ。君がどこにいても、俺は必ず見つけるよ」
やさしく告げられたその言葉は、まるで誓いのようで。
私は思わず、胸元のリボンをぎゅっと握りしめた。
……この人は、私の何を知っているの?
私がどれだけ静かに生きようとしているか。 どれだけ気配を殺し、誰にも気づかれないようにしているか。
それを、すべて、壊そうとしている。
なのに、その眼差しにあるのは、悪意でも好奇心でもなく。
ただひたすらに、慈しみの色だった。
……どうして。どうして、そんな目をするの?
私は、あなたに何もしていないのに。
……おかしい。これは絶対に、おかしい
でも、その異常が、私の心に波紋を広げていく。
まるで、彼はずっと前から、私のすべてを知っていたように。




