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夢で出会ったモブ令嬢を王太子は絶対に手放さない  作者:


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1/20

そして私は、再び目を覚ました

「青になったからって、信号だけを信じるのはバカのすることだよ」


 前世の友人が、冗談めかして笑っていた。


 その言葉が、皮肉のように耳に残っている。


 最後に目にしたのは、朱に染まった夕暮れの空だった。


 高層ビルの隙間から伸びる光と、喧騒にかき消されるクラクションの音。


 すれ違う人々。急ぎ足の誰か。信号を渡ろうとした私。


 そして……


 猛スピードで突っ込んできた車。


「あ……」


 言葉にならなかった。

 体が宙を舞う感覚。視界が跳ね上がり、世界がぐらりと傾く。


 こんなにも、命って簡単に終わるものなんだ。


 ぼんやりとした意識の中で、ひとつだけ、思いがこぼれた。


「もう少しだけ、生きたかったな……」


 ───


 目が覚めたとき、そこは知らない部屋だった。


 ふかふかの寝具に、天蓋のついたベッド。


 布越しに差し込むやわらかな陽射しと、ほんのり花の香りのする空気。

 けれど、何よりもまず感じたのは、自分の体だった。


 息が苦しい。

 四肢が重い。

 肌は熱くて、喉は渇いていて、まともに動ける気がしない。


「……え?」


 かすれた声が漏れた。

 それが、自分のものとは思えないほど幼くて弱々しくて……他人のようだった。


 混乱しながらゆっくりと体を起こそうとして、すぐに挫折した。


 数センチ動いただけで息が上がる。

 鼓動が速くなって、視界が揺れた。

 この体は、ひどく虚弱だ。


 けれど……確かに、私は生きている。


 前世で命を落としたはずの私が、別の世界で、別の体で目覚めた。


 それだけは、不思議なほどすんなりと理解できた。


 どうやら私は、どこかの異世界に転生したらしい。


 それを認識した瞬間に、前世の記憶が一気に流れ込んでくる。


 私は息を詰めながら、思うように動かない体を震わせながら、流れ込んでくる記憶を受け止めていった。


 ーーーーーーーー


 このときの私は、まだ何も知らなかった。


 この世界が、前世で見かけたある乙女ゲームと酷似していることも。


 自分が、その物語に登場すらしないモブ令嬢として生きていることも。


 そしてなにより、自国の王太子の夢に、何度も現れているということも。


 彼が夢の中で見た令嬢に、執着を抱いていることも。


 それが他でもない、この身体に宿る私だということも。


 私は、まだ、なにひとつ知らなかった。



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