第8話 覚醒者たち
日輪・避難区画
コンクリートの壁に囲まれた空間には、
人の声が渦を巻いていた。
泣き声。
怒鳴り声。
祈る声。
誰かを責める声。
「落ち着いてください!順番に…」
その声は、途中で途切れた。
サラリーマン風の男が、膝をついていた。
年齢は四十前後。
よれたスーツ。
緩んだネクタイ。
震える指先。
「……やめろ……」
男の背中が、
不自然に盛り上がる。
皮膚の下で、
何かが蠢いた。
「魔物化だ!」
誰かが叫ぶ。
男の視界に、
フラッシュバックのように映る光景。
怒鳴る上司。
机を叩く拳。
投げつけられる書類。
「お前は使えない」
「代わりはいくらでもいる」
逃げ場のない毎日。
その瞬間。
雷鳴が、
避難区画に落ちた。
「ぐあああああ!!」
轟音とともに、
男の背後に、雷光を纏った鷹の影が浮かぶ。
翼が広がり、
空間を裂くように雷が走った。
魔物化は、止まった。
男は荒い息を吐きながら、
ゆっくりと立ち上がる。
「……俺は……」
拳に、雷が集束する。
数時間後。
その男は、
パワハラ上司を感電死させた容疑で隔離された。
別区画
炎が、走った。
「火が出てる!?」
壁際で立ち尽くすのは、
制服姿の女子高生。
足元で、
小さな火が揺れている。
「……近寄らないで」
震える声。
彼女の脳裏に浮かぶのは。
嘲笑、
悪口、
机に刻まれた落書き。
「消えればいいのに」
背後に、
赤い犬の影。
遠吠えと共に、
炎が噴き上がった。
その夜。
彼女は、
いじめの主犯格を焼死させた疑いで拘束された。
別区画・仮設施設
「やめて……!」
小さな悲鳴。
少年は、
頭を抱えて蹲っていた。
まだ小学生。
殴られる記憶。
怒鳴られる声。
逃げ場のない家。
「……いやだ……」
風が、吹いた。
室内に突風が走り、
緑色の兎の影が、
少年の背後に現れる。
魔物化寸前だった身体が、
元に戻っていく。
翌朝。
両親は死体で発見された。
死因は、
衝撃と落下、
それと裂傷。
少年は、
無言のまま保護された。
自衛隊・臨時司令室
「覚醒者が、三件同時に確認されました」
「しかも全員……殺人に関与?」
空気が、重く沈む。
「共通点は?」
「精神的ストレス、
そして……強い殺意かと」
「……制御不能か」
誰かが呟いた。
机に並べられる資料。
覚醒者、
管理対象、
登録義務、
隔離施設、
「英雄なら良かったのにな……」
「まずは隔離だ」
「兵器かどうか、見極める」
その時。
ドタドタドタ……
「し、失礼します!!」
新たな報告が入る。
「刑務所で暴動が発生」
「詳細不明ですが……、
覚醒者の可能性が……」
沈黙。
「心の闇と…、強い殺意か…」
隔離施設の屋上。
雷鷹の男が、
夜空を見上げていた。
「力があるってだけで、
人は管理対象になるのか…」
雲の切れ間。
月夜に浮かぶ影。
……浮遊城。
遠く、竜の気配。
男は、無意識に拳を握る。
「自由……、
あそこに、答えがあるのかな……」
彼はまだ知らなかった。
自由を選ぶ者は、
世界から〝敵〟として扱われることを。




