第5話 世界が知る日
同日 夕刻
日輪・首都地下
重厚な防音扉が閉じられた瞬間、
外界の音は、完全に遮断された。
……静寂。
巨大なモニターに映し出されているのは、
崩壊した街並み、逃げ惑う人々、
そして……
空を裂く、黒い影。
「……確認を始める」
日輪防衛省統合幕僚監部。
その中でも、
限られた人間だけが集められた緊急会議。
「本日未明の地震発生と同時刻に、
全国各地で〝未知の存在〟が確認された」
映像が切り替わる。
巨大な虫型生物。
人の形を歪めた異形。
破壊され、機能を失った市街地。
「銃火器、対戦車兵器、
いずれも有効打を与えられないケースが複数確認されています」
誰も口を挟まない。
それが意味することを、
全員が理解していた。
「そして、最重要事項がこれだ」
再び、映像が切り替わる。
瓦礫の街に降り立ち、
翼を広げる〝男〟。
人を襲わない。
逃げる人間を庇う。
魔物だけを切り捨てる。
「行動原理が、他の存在と明確に異なる」
「人類への敵対行動、現時点では確認されていない」
「だが……」
一瞬の間。
「この存在が〝敵〟に回った場合、
我々は〝災害〟として扱うべきだ」
重たい沈黙が、会議室を支配した。
星条連合・地下指令室。
巨大スクリーンに映し出されているのは、
浮遊城の衛星映像だった。
「……高度、数千メートルを維持」
「推定質量、現行航空機の比ではない」
「空力学的に説明不能」
軍服の男が、ゆっくり腕を組んだ。
「つまり……」
「“飛んでいる”のではなく、
“浮いている”可能性が高い…」
室内の温度が、わずかに下がった。
「ここに黒竜が……」
「あぁ、この城はバリアのような物で覆われ、
中の詳細は不明だが、
黒竜はバリアに入って行き、対象をロストした」
「同様に戦闘機で突入を試みるも、
壁に当たったように爆散した」
誰かが息を呑んだ。
「敵に回った場合は?」
「都市単位での壊滅が想定されます」
その言葉に、
誰も反論しなかった。
「意思を持った災害…か……」
会議室は静寂に包まれた。
極東連邦・国家危機管理会議。
「同様の魔物化現象、
極東全域で確認」
「地震発生と完全に同期している」
「異世界的要因、という仮説が出ているが?」
一人が鼻で笑う。
「非科学的だ」
……次の映像が再生されるまでは。
瓦礫から人を庇い、
人を乗せて空を飛ぶ黒竜。
「……説明がつかない」
「英雄か」
「それとも……」
言葉は、途中で途切れた。
龍華共和国・中央会議室。
「国内への情報統制は、
現時点では可能です」
「しかし、国外SNSからの逆流が発生しています」
中央に座る男が、
指を組んだまま言った。
「問題はそこではない」
「〝竜〟だ」
映像が止まる。
瓦礫の街を飛び立つ黒い影。
「意思を持ち、
力を持ち、
人を守る存在」
「この力を取り込むことが出来れば…、
世界は我々、龍華のものだ」
「なんとしても他国より先に、我らの手に」
誰も、否定しなかった。
ユウに対しての評価が、
彼自身の意思とは無関係であることを、
世界はまだ知らない。
同時刻。
高度数千メートル上空。
雲を突き抜け、
夕空に浮かぶ……城。
浮遊城の入口前で、
巨大な黒竜が、降下する。
ドドォォン!!
慎重に、
その掌が地面に触れる。
『……ついたぞ……』
低く、掠れた声。
六人が、無言で地に降り立つ。
次の瞬間。
黒い光が、黒竜から漏れる。
巨体が縮み、
翼が消え、
そこに現れたのは……一人の男。
ユウは、限界を超えていた……。
親友たちの声が、
ひどく遠くに聞こえる。
「……やりきった……ぞ……」
視界が、白く霞む。
バタッ……
そのまま、前のめりに倒れた。
「「「「「「ユウ?!!」」」」」」




