第3話 ユウの逆鱗
日輪上空
ゴォォォォ……
風が、耳元で唸っている。
街のあちこちから、
煙が立ち上っていた。
俺は空を飛びながら、
肩に担いだナツが心配になった。
「……大丈夫か」
ナツは、ぎゅっと目をつぶったまま答えた。
「……大丈夫そうに見えるのか?」
俺は焦って周囲を見渡す。
《あのビルでいいんじゃないか?》
暁闇の声に、俺は頷いた。
ビルの屋上へ降下する。
バサァ……
翼をたたみ、ナツをそっと降ろす。
「ここなら、しばらく安全だ」
「……俺が高い所苦手なの知ってるよな?」
「悪いな…、下にいるよりマシだからさ」
ナツの視線が痛い…。
「す、すぐ戻るから…」
「……誰を助けにいくんだ?」
「マサキ、ジュン、それとアキラだな…」
ナツは涙目になりながら俺に願う。
「…頼む、あいつらも助けてやってくれ」
俺は空を見上げる。
「あぁ…、任せろ……」
翼を広げ、再び飛び立った。
某商業施設内(マサキ視点)
……ガシャン。
どこかで、ガラスが割れる音がした。
俺たちは、息を殺して服屋に隠れていた。
薄暗いフロア。
非常灯だけが、頼りなく点滅している。
「……静かになったな」
低い声で言ったのは、ジュンだった。
長身の身体をかがめ、周囲を警戒している。
「あの蜘蛛みたいなバケモンなんなんや」
アキラが関西弁で呟く。
俺は、舌打ちを飲み込んだ。
「……音立てんな、やつに聞かれる……」
三人とも、黙る。
……ズズン……ズズン……
天井の向こう。
大きな足で歩く音が静かな店内に響く。
恐らくさっき見た蜘蛛の足音だ。
「……なぁマサキ」
ジュンが、俺を見る。
「人が、蜘蛛に化けて……」
「分からねぇ……」
俺はジュンの言葉を遮って、正直に答えた。
理由も正体も、分からないが、
嫌な予感だけは、はっきりしている。
その時だった。
ドンッ!!
フロアの天井に、大きくヒビが入る。
「っ!?」
次の瞬間。
バキィィン!!
コンクリートの天井が砕け散り、
瓦礫と共に“それ”が落ちてきた。
「……ッ!!」
人の身長ほどある胴に、
異様に長い脚、
前足は鎌のようになっている。
複数の目が、ぬらりと光る。
「なんや……それ……」
アキラの声が、震える。
蜘蛛の化け物は、俺達を捉えた。
ズズン……ズズン……
脚が、床を削りながら動く。
「逃げ……」
俺が言い切る前に。
ドンッ!!
「ジュンッ!!」
アキラがジュンを突き飛ばした。
「……痛っ…て……」
どうやら蜘蛛の攻撃は、
直撃しなかったようだが……、
ジュンは気絶してるみたいだ……。
「アキラッ!!、ジュンッ!!」
ガラガラガラ……
蜘蛛が刺さった鎌を引き抜くと、
壁が崩れ落ちた。
「マサ…キ…、逃げ……」
ブンッ
アキラの弱々しい声を遮るように、
蜘蛛が鎌を振り上げる。
「やめろぉぉぉ!!!」
……シュン
ザシュッ……
某商業施設外(ユウ視点)
ゴォォォォ……
「……あのあたりか…」
ドンッ!!
「…!!」
音がなったほうを見ると…、
親友たちと魔物が視界に入った。
「…間に合え!」
俺は無我夢中で突っ込む。
……シュン
ザシュッ……
視界が揺れる。
「…ガハッ……、クソが……」
アキラに向けられた攻撃は俺の腹をえぐった。
ギギャァァァ
前足は切れた……、
でも攻撃の勢いは殺せなかった。
カラカラン……
前足を引き抜き、
後ろを見ると……、
三人の姿……。
「てめぇ……」
ドクンッ、ドクンッ
心臓が、怒りで脈打つ。
「俺のダチに……」
魔力が、溢れ出す。
「何しやがったぁぁあ!!!」
ボオォォオ!!
ザバァァア!!
俺は魔物を真っ二つにした。
ジュゥゥゥ
《怒りを抑えろ、飲まれるぞ》
「ハァハァ…ハァ……」
振り向くと、
呆然と立ち尽くす顔。
「……ユ、ユウ……?」
マサキが信じられないものを見る目で俺を見た。
……助けれた。
その事実が、気を緩ませる。
次の瞬間、
視界が、ぐらりと傾いた。
「…っ……」
俺は深く息を吸う。
……まだだ、
まだ、倒れるわけにはいかない。
するとジュンを運んで、
マサキとアキラが近づいて来た。
「…ユウ…、なんだよな……?」
「……あぁ…、ごめん…、遅くなっちまって……」
「何言ってんねん、お前がこんかったら、
わいら今頃三途の川渡っとるわ!」
俺は申し訳なくて目をそらした。
「なんちゅー顔しとんねん……、
ユウ…ありがとな……」
「……」
「ユウ、詳しい話を……」
俺はマサキの言葉を遮った。
「わりぃ…、話はまた後で…、
とりあえず…ナツと合流するわ…、
俺に掴まれ……」
俺は三人を抱え上げた。
「痛っ、おま、なんやねん?!」
「ちょっ、おい?!」
バサァァッ!!
翼は広がったが、
腹の奥が、焼けるように痛む。
「……チッ」
ただでさえ翼を大きくしないと、
高度を上げれないのに、
いつもより大量の魔力が必要だった。
風がやけに重い、
翼を動かすたび、
血が逆流する感覚がした。
……まだだ。
ナツのところまで…。
……少し離れた場所
崩れた建物の陰。
震える手で、スマホを構える一般人がいた。
「……マジかよ……」
画面には、
黒い翼で人を抱え、空を飛ぶ男の姿。
録画マークが、赤く点滅している。
「……これ……」
投稿ボタンに、指が触れた。
……その映像は、
世界へ流れ出した。




