表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/25

12月30日(火):地脈の通気日

 とある世界では今日は「地下を走る鉄の馬車が初めて走った日」だそうだ。アルメリアでは、町の下を流れる魔力の血管――魔脈レイラインの蓋を開け、滞った魔力を流して新年を迎える<地脈の通気日>である。

 年の瀬も押し迫った30日。フレイメル家の大掃除は佳境に入っていたが、祖父のグレゴールと、その一番弟子のクリスだけは、こっそりと裏口から抜け出していた。

「いいかいクリス。家の中の埃を払うのも大事じゃが、この町の『血の巡り』を良くするのも、我々魔導師の務めなんじゃよ」

「うん! おじいちゃん、今日こそ『マンホール』のした、みせてくれる?」

「うむ。特別じゃぞ」

 二人が向かったのは、店の裏手にある石畳の路地だ。

 アルメリアの地下には、浅い位置に魔脈が走っており、夜になると石畳が微かに発光するのはその影響だ。

 グレゴールは、地面にある古びた真鍮の蓋――直径50センチほどの円盤――の前にしゃがみ込んだ。

「よし、開けるぞ。『解錠・地底のオープン・ゲート』!」

 グレゴールが杖で蓋を叩くと、ゴゴゴ……と低い音を立てて蓋が浮き上がった。

 途端に、ヒュオオオッ! と生温かい風が吹き上がってくる。

 穴の中を覗き込むと、そこには暗闇の中を流れる、青白い光の川が見えた。

「わあ……! きれい! おほしさまがながれてるみたい!」

 クリスが目を輝かせる。

「そうじゃろう。これがこの町のエネルギー、魔脈じゃ。……ん? 少し流れが悪いな」

 グレゴールが眉をひそめた。

 本来ならサラサラと流れるはずの光の川が、ドロドロと澱み、時折詰まったように明滅している。

 これでは、新年の「初灯り」がきれいに点かないかもしれない。

「ふむ、どうやら『未練の泥』が溜まっておるようじゃな」

「ミレンのドロ?」

「うむ。一年間、人々が吐き出しきれなかった溜息や、飲み込んだ言葉が、こうしておりとなって地下に沈むんじゃ。これを掃除せねばならん」

 グレゴールは懐から、伸縮式の「魔導デッキブラシ」を取り出した。

「クリス、わしがこのブラシで泥を掻き出すから、お前はその『元気』で新しい風を送ってくれんか?」

「げんき? どうやるの?」

「簡単じゃ。この穴に向かって、今年一番楽しかったことを叫ぶんじゃ! 子供の陽気な声は、最高の浄化剤じゃからな」

「わかった! まかせて!」

 クリスは大きく息を吸い込んだ。

 グレゴールがブラシを光の川に突っ込み、ゴシゴシと見えない泥を擦り始める。

「ええい、頑固な汚れじゃな。誰じゃ、こんなに愚痴を溜め込んだのは!」

 そこへ、クリスの声援が飛ぶ。

「えっとね、えっとね! お兄ちゃんとつくった、ダンボールのおしろ! すごかったのー!」

 クリスの声が響くと、澱んでいた光の一部がパァッと弾け、キラキラした粒子になって流れ出した。

「おお、効いておるぞ! もっとじゃ、クリス!」

「あとはねー、フィオ姉ちゃんのクッキー! こげちゃったけど、おいしかったのー!」

「ふぉっふぉ、それはフィオナには内緒じゃな! そら、もう一息!」

 グレゴールがブラシを振るい、クリスが叫ぶ。

「お父さんの肩車ー! お母さんのオムレツー! スノーのふわふわのおなカー!」

 その純粋無垢なエネルギーは、物理的な洗浄力となって地下道を駆け巡った。

 ドロドロとしていた光の川は、次第に勢いを増し、本来の清らかな青色を取り戻していく。

 ゴウウウッ! と音を立てて、魔力がスムーズに流れ始めた。

「よし、開通じゃ! これで来年も、この町は明るいぞ」

 グレゴールが額の汗を拭う。

「やったー! ながれたー!」

 クリスが飛び跳ねて喜ぶと、その拍子に被っていた帽子が風に飛ばされそうになったが、穴から吹き上がる清浄な風が、ふわりと帽子を空中に押し戻してくれた。

 まるで、魔脈が「ありがとう」と言っているかのように。

「……ふぅ。いい仕事をしたな」

「うん! おそうじ、たのしいね!」

 二人が蓋を閉め、店に戻ると、ちょうどフィオナが玄関の街灯を磨いているところだった。

「あ、お帰りなさい。……あれ? なんだか街灯の光、急に明るくなったみたい」

 フィオナが不思議そうにランプを見上げる。いつもより強く、安定した光が灯っている。

「ふぉっふぉ。それは気のせい……ということにしておこうかの」

 グレゴールはクリスと顔を見合わせて、悪戯っぽく笑った。

 クリスも口に指を当てて「シーッ」とする。これは二人だけの秘密だ。

 屋根の上で、その様子を見ていたスノーが、満足げに翼を広げた。

 足元の瓦からも、心地よい魔力の振動が伝わってくる。

「見えない所が滞りなく流れてりゃ、地上のゴタゴタなんざ大抵はどうにかなる。……ま、詰まりが取れてせいせいしたな。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ