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エンジン始動!

空がどこまでも広がっていた。

大きな山々に囲われて、街と共に広がっていた。


風が優しく吹いていた。

広大な海から、私を包み込むように吹いていた。


空も、山も、風も、海も。

全部全部、私の目で、肌で、体で、感じてみたい。


だから私は、バイクに乗った。


―――――――――――――――


「あ〜あ、今日も平和で、今日も暇だ〜」


強い日差し、セミの鳴き声、気持ちのいい空気、大変いいことである。だと言うのに私は刺激を求めていた。


「あのねぇ…、平和であることが1番の贅沢なのに、それ以上の贅沢を求めるなんて、な〜んて贅沢な人なんですかねぇ?鬼頭ミチルさん?」


そう言ってくるこの子、もとい、この女は残念ながら私の最高の友達、本多ホマレ。大学の入学式の時に、意気投合して仲良くなった。かれこれ1年半の付き合いである。


「へーへー、悪ぅござんしたぁ〜、ホマレ様ぁ〜」

「あー!何とも思ってないなぁ〜、こいつぅー!」


大学の空きコマの、なんて事ない会話。私はこの時間が何よりも好きで、何よりも退屈な、1番の悩みの種でもある。


都内の大学に通っている私は、普段は電車で通学する。

満員電車に揺られ…

なんてことは無く、寧ろ都心部から離れるように山に向かっていく。

駅周辺はそこそこ栄えているが、そこからバスに揺られること20分、歩いて近くのコンビニに向かうのも少し億劫になる、山に沿うような形の大学に通っている。

キャンパスはそこそこ広いが、これがまた少々厄介で、山に沿っているが故に、場合によっては山を登ってキャンパスを移動しなければならない。大変面倒である。ただ逆を言えば、自然の豊かな場所だとも言える。

そんな環境下にあるため、刺激がなくて困っていたのだ。自分で選んだというのに、情けないことこの上ない。


「そういえばミチル、アンタ車の免許取ったって言ってたけど、普段運転とかしてる?」

「舐めてもらっちゃ困りますよホマレさん、私の住んでる地域は車がないと生活出来ないんだから、そりゃ少しは乗ってますよ!もちろん家の車だけど」


私の住んでるところ、というか実家は大学から電車で1時間のところにある。これがまた良いのか悪いのか、特別栄えている訳でもなく、かと言って寂れている訳でもない場所である。


「そっかー、私のとこだとなかなか車で走ることが無くってねー、せっかく免許取ったのにどうしよーって感じなのよ」

「ホマレん家、都心の方だもんねー」

「そーなのよ。まぁ歩けば何でも買いに行ける距離にあるから楽でいいけどね!」

「いいなー、私もそんなことしてみたーい」

「別にいいもんでもないよー?一度に沢山買い物とか出来ないし。その点で言えば、やっぱり車のある生活の方が羨ましいと思っちゃうけどなー」

「たしかにそう言われればそう、なのかな?でも別に車の運転とか楽しいわけじゃないし、たくさん買い物すると帰りとかアクセル重くなっちゃうから、こっちもこっちで別にいいもんでもないよー」

「まぁ何事も一長一短ですわな。とか言ってるうちに、四限が始まりそうだよ、行こ!」

「うん!」


そんな何気ない生活が私は好きで、やっぱりこれが退屈だ。


「さっきの講義、受講したのミスったかしら…」

「アンタねー、いくら専門科目で何言ってるか分からないからってそんなこと言ってたら単位取れないよ?」

「お母さんみたいなこと言わないでよー…」

「アンタ何かと刺激を求める癖に、あれはヤダこれはヤダって、意外と突っぱねるよね」


そう、この悩みの種を更に増大させる要因の一つが、何でも否定から入ってしまうことだ。

実は今までいくつか刺激を求めて、新しいことを始めようとしたが、これがまた面白くなさそうとかで、モノによってはそもそも始めるにすら至らなかったのだ。


「まだ履修登録期間だし、外しちゃおっかな」

「えー?私このまま受けるよ?普通に興味あるし」

「私はダメかも、同じ時間の別の講義にする」

「まぁそれなら一緒に帰れるからいっか」

「ごめんねー」

「いいよ、分かってた事だし」

「あ、でも場合によっては終わる時間違かったりもするかもね」

「それも分かってる事ー」

「たしかに(笑)」


といった感じで、今までにも私とホマレは違う講義を受講することもあり、場合によっては一緒に帰れないなんてこともあった。


―1週間後


(うん、この講義だったら大丈夫かも!毎回の課題を提出してれば良いだけだし、楽勝楽勝〜!はっはっはー!)


なんて思いながら講義を受けていたのも束の間、この講義は通常よりも終わるのが遅かった。なんてジジi…、もとい先生だ。講義の範囲を決めて、それを変えるつもりがないのだろう、その範囲が終わるまで講義が終わることがないのだ。


(うぅー、もう登録期間も過ぎちゃったし、講義自体は別に悪くないからなー。しょうがないけどホマレには先に帰ってって連絡するか…)


講義が終わり、1人寂しくバス停まで向かった。バスが来るまで15分ほど待たなければならなかったので、携帯で動画を見ながら待っていた。度々入り込んでくる広告。興味のない広告ばかりで、これがまた私の退屈になる要因だ。教習所を最近出たばかりだからだろうか、やたらと教習所の広告が出てくる。


(もう通うことも無いだろうから、別に出さなくていいのに。ましてやバイクって…。たしかにかっこいいかもしれないけど、私別にそんなに力ある訳じゃないし、そもそもバイク乗ってる女の人なんてそんなに居ないだろうし…)


少しずつ退屈が苛立ちに変わっていく。


(つまんない。つまんない。つまんないつまんないつまんない…!)


怒りで涙がこぼれそうになる。動画を閉じようと思った時に、携帯が落ちそうになり、何とか掴んだが誤って興味のない動画を開いてしまった。


(しまった!)


「あっ!スラクストン!!」


「…えっ?」


突然横から話しかけてきた小柄の女の子。スラク…?何?


「それ!スラクストンの動画だよね!?私見た事ある!」

「えっ、え??」

「トライアンフのスラクストン1200RSだよ!かっこいいよね〜!!(某キャンプ漫画のキャラクター)のおじいちゃんも乗ってた!」

「あっ、そうなんだー…」

「あれ??もしかしてたまたま開いただけ?」

「う、うん…」

「そっかぁー。あ、でもでも!良かったらその動画見て欲しいな!スラクストンの魅力を面白く伝えてくれてるから!」

「へ、へー…」

「絶対だよ!?」

「わ、分かった…!ところであなたは…?」

「あっ!忘れてた!私は…あっ、バス来ちゃったね!とりあえず乗ろ乗ろ!」

「う、うん…」


(なんか、すごくグイグイ来る子だなー。嫌な気はしないけど、ちっちゃくて可愛いし…)


「それで…、あなたは…?」

「私は鈴木ラン!走るのだーい好き!あなたは?!」

「あ、私、鬼頭ミチル、2年です…」

「やばっ、先輩だ!すみませんでした!」

「で、でもいいよ別に敬語とか」

「そう?じゃーミッチー!」

「あ、あはは…」

(距離感ッ…!まぁ全然いいけど…)

「そ、それでランちゃん…?」

「ランランでいいよ!」

(パンダかな?子犬みたいな見た目だけど)

「ラ、ランラン?さっきのスラ…なんとかってやつ?あれは何…?」

「スラクストンのこと?あれはトライアンフっのスラクストン1200RSっていう…。あっ、トライアンフって言うのはイギリスのバイクメーカーでね!スラクストンって言うのは昔のスラクストン500マイルレースっていうレースで優勝したことから来てて…」

「ちょ、ちょっとストップ!ごめん、私バイクのことは全然分からないんだけど…」

「えっ、そうだったの!?ごめんてっきりバイクが好きだったのかと…」

(しまった、落ち込まてせてしまった…。可愛い子を落ち込まてしまうのはちょっと心が痛いな…)

「だ、だからまずはバイクのことを教えて欲しいな〜って…」

「…そっか!そうだよね!」

(よかった…、とりあえず元気になってくれて)

「えっと、そしたらまずはどんなタイプのバイクが好き?やっぱり速さを求めてスーパースポーツ?それとも無難にネイキッド?あっ、それともちょっとダンディーにアメリカン?!」

「えっ、えっとー…」

「あっ、いきなり言われても分かんないよね!えっとねー、こんな感じで…」


そう言ってランはバイクのサイトを見せてくれた。そこには色んなタイプのバイクが表示されており、仮○ライダーみたいなバイクやかっこいいおじ様がゆったり乗ってそうなバイク、タイヤがゴツゴツしているバイクやよく道路で見かける原付なんかもあった。


「えっとー…、この中だとこのスポーツ/レプリカ?ってやつ、かな?」

「ほほぉ〜、お姉さん、お目が高いねぇ〜!」

(どーゆーキャラなんだろう…、ドヤ顔可愛いから何でもいいけど(笑))

「このタイプのバイクはねー、前傾とかがちょっと辛いものが多いんだけど、かっ飛ばせて気持ちいいよ〜!」

「なるほど…」

「刺激を求めたい人には持ってこいだね!」

「…今何て?」

「えっ?刺激を求める人に持ってこいって…」

「それだッ!!」

「ふぇっ!?」


「お客様ー、車内ではお静かにお願いします」

「「す、すみませーん…」」


その後もしばらく、駅のバス停に着くまでバイクのことを話した。バイクの種類による楽しみ方、バイクでどんなことが出来るのか、ぶっちゃけバイクはどれくらいお金がかかるのか、ランはバイクの良いことも大変なことも教えてくれた。


(楽しい!バイクの話も、バイクで何をするかについても…!もっと知りたい!)


想像で広がる世界、まだ見た事の無い景色、もしそれがバイクで見に行けたなら…。ランとの会話を通じてそんなことを思わせてくれた。


「連絡先はこれね!それじゃ私こっちの電車だから!バイバイ!」

「うん!バイクのこと教えてくれてありがとう!」

(そっか、意外なところに刺激ってあったんだな…)


家に帰って直ぐに、私はバイクのことを調べた。バイクの種類、免許区分、おすすめのバイク用品なんかも調べた。バイクに関する知識を取り入れるのが、たまらなく楽しくて、気が付いたら夕飯も食べずにベッドで眠ってしまっていたらしい。

そしてその日を境に、私は無理のない範囲でバイトを沢山入れるようにした。教習所に通うお金、ヘルメットを買うお金、そしてバイクを買うお金のために…。


(うぅ…、考えれば考えるほど、お金足りないよ〜!)


―2ヶ月後

「えっと、ミチル…?今なんて…?」

「取ったよ!普通自動二輪免許!」


ホマレにバイクの免許を取得したことを話した。実は今までホマレにはバイクの話をしてこなかったので、ここで言ったのが初めてだ。


「へ、へー…、アンタがバイク、ねぇ…」

「バイクに乗るの、楽しみだなー!」

「…あのさ、私別にバイクに詳しい訳じゃないんだけど、その免許の条件のところに書いてあるのは何…?」

「あっ、これ?AT限定!スクーターしか乗れない!お金なさ過ぎて!(笑)」


…私のかっこいいバイクライフは、まだまだ先のようだ。


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