5.それから
「そんな頃もありましたわねえ」
ガゼボで旦那様とお茶をいただきながら3年前のことを思い出しておりました。
旦那様はお行儀悪く突っ伏しております。
思い出す度に羞恥心が湧き上がってくるようですのでたまにこうして突っついて差し上げます。
これはお仕置きなのでアイビーも何も言いません。
やりすぎるとアイビーには止められてしまいます。
結局、ミナは何度も謝罪を繰り返したのでダニエルに任せました。
サイラス様が領地におりますので、そちらで働いているようです。
治療院は領地にありますので、休日は弟さんを見舞うことが楽しみのようです。
私も嫁いだばかりで甘かったですわね。
しっかりダニエルとドーラに再教育もされたようですので、それなりにやっているのでしょう。
ただし私と旦那様の目の前に出ることは許しませんけれど。
あの日旦那様は私を妻として遇することを選択しました。
でも私だって怒っていたのです。
ミナは必ず私の立場を奪う気でいると確信しておりました。
弁えない人間は必ず家に害を齎すでしょう。
初夜はミナの処遇を決めた後、と旦那様に宣言してから様子を窺っておりました。
まさか1週間であんなにやらかしてくれるとは思ってもいませんでした。
ミナがお屋敷を出た後、私たちは恙なく初夜を終え、名実ともに夫婦になりました。
旦那様は3年で信頼と尊敬に値する方だと示してくださいました。
燃え上がるようなロマンスはなかったですが、私は旦那様がお相手でよかったと思っています。
サイラス様とは似たところがあるので安らげない夫婦になっていたかもしれません。
それに…。
「おかーさま。ミルクをください」
「ゆっくり飲むんですよ、セディ」
「はい!」
ゆっくりとミルクを飲みこむ息子は2歳になりました。
お食事の前にお菓子を与えないでくださいと申し上げておりますのに、
旦那様はこっそりクッキーを与えてしまったので3年前のことでちくちく責めて差し上げます。
「あの時、君が言ってくれたおかげで私は真の愚か者にならずに済んだ。
感謝している。可愛い息子もいる。こんなに幸せでいいのだろうか」
「よろしいのですわ。あの時旦那様が私の話を聞いてくださったこと、とても嬉しかったのです」
「そうか…。ありがとう、バイオレット。これからもよろしく頼む」
セディの口の周りを拭いて、私もにっこり笑います。
「勿論ですわ、アラン様。
来年にはもう1人増える予定ですもの、末永くよろしくお願いいたします」
アラン様が紅茶を盛大に噴き出したのは私のせいではありませんわ。
ご覧いただきありがとうございました。
嫌がらせをする人の最終目標って何だろう、って不思議なんですが。